記事

EUから学ぶ「移民」の教訓はネオナチなど極右勢力の台頭

今夏、スウェーデンの首都ストックホルムでネオナチがデモを行った Reuters/AFLO

外国人労働者の受け入れ拡大に向けた関係閣僚会議(2018年7月) 時事通信フォト

 国民的議論がないまま、日本はなし崩し的に「移民国家」となりつつある。先行するEUでは国を分断する大問題に発展しており、専門家たちは警鐘を鳴らす。

 10月12日、政府は入管難民法などの改正案骨子を示した。これまで大学教授や弁護士など、高度な専門人材以外に外国人の就労目的の在留資格を認めなかった方針を大転換し、人手不足の深刻な分野に2つの在留資格を設けて長期間の滞在を許可する。介護や農業、建設など単純労働を含む十数業種での導入を検討するとされる。熟練の外国人労働者には家族の帯同を認め、在留期間更新の上限を設けないため、事実上の永住が可能になる。

 現在日本にいる外国人労働者は約128万人。政府は2025年頃までにさらに50万人超を受け入れる方針だ。「政府は実質的な移民政策に舵を切った」と指摘するのは、経済アナリストの森永卓郎氏だ。

「従来、安倍首相は『移民は認めない』と主張してきたが、『人手が足りないから賃金の安い働き手を確保してほしい』という経済界や地方自治体の強い要望があって、方針転換せざるを得なかったのでしょう。しかし安い労働力としての外国人の受け入れは天下の愚策であり、将来に必ず禍根を残します。

 まず安い労働力が大量に流入すると、賃金が圧倒的に低下します。いまは人手不足のため飲食店のアルバイトの時給が1000円を超えていますが、外国人労働者が流入したら2~3割は一気に下がる。年金だけでは暮らせずアルバイトをしている高齢者は収入が減少するどころか、職を奪われる可能性もあります。

 一方で安い労働力を得た企業は機械化などの省力投資のインセンティブを失うので生産性が向上せず、日本の国際競争力が失われます」

 不法滞在の不安もある。現在、国内では外国人技能実習生の失踪が相次ぎ、17年は過去最多の7089人が姿を消した。背景には劣悪な受け入れ実態があるとされる。

「この先、単純労働の外国人が大挙して訪日すれば、技能実習生と同様に職場から逃げ出し、不法滞留者となる怖れがあります。職を失った彼らがアンダーグラウンドに流れると犯罪の温床になる。政府は新制度で受け入れ態勢を強化するというが、奴隷のような職場環境がどこまで改善されるか不透明です」(森永氏)

 新制度では事実上の永住が可能になり、社会保障コストの激増も予想される。経済ジャーナリストの荻原博子氏は社会保障制度の維持が困難になる危険性を指摘する。

「例えば外国人労働者も健康保険に加入すれば、日本人と同様に医療費は原則3割負担です。医療費が上限額を超えた場合は高額療養費制度が適用されて超過分が払い戻されます。そのため、今、労働者を装って外国人が高額医療を受けに来日するという、不正利用事件が多発しています。

 イギリスでは移民を受け入れた結果、職を失った人たちを中心に『なぜ移民に自国民同様の手厚い社会保障が必要なのか』との不満が噴出し、移民の社会保障が制限されました。激しい論争で国内が真っ二つに分断され、ついにはEUを離脱することになりました」

 移民は安い労働力を欲しがる企業にとっては利益があっても、彼らの社会保障コストを負担するのは企業ではなく国民全体である。

「EUでは景気が後退して労働力需要が落ちた結果、外国人労働者が真っ先に首を切られました。彼らが失業すると、政府は失業対策を行ったり、公的住宅を建設したりしなくてはなりませんでした。日本でも同様のことが起きれば、そのコストは国の財政を圧迫します」(森永氏)

 景気が悪くなったら母国へ帰ってもらえばいい、という虫のいい話は通用しない。例えば景気が良い時代に大量のトルコ人を受け入れたドイツでは、母国語を上手に喋れないトルコ人の子供がたくさん生まれた。

「ドイツ政府は移民を本国に戻す支援策としてトルコ語教室を開設したり、トルコで家を建てる場合の資金援助をしたりしましたが、それでも帰国した人はそれほど多くなかった。一度受け入れたら元の状態に戻すことは非常に難しいのです」(森永氏)

 EUから学ぶ最大の教訓はネオナチをはじめとする「極右勢力の台頭」である。

「失業、経済停滞、犯罪増加など、すべての悪事の根源は外国人にあるとして、EU各国で反移民を掲げる極右政党が台頭し、差別や社会不安が増しています。日本でも政府が安易に移民を解禁すれば、排外主義が燃え盛る怖れがあります」(森永氏)

 現にドイツのメルケル首相が政権崩壊を避けるため難民らの流入抑制策を決定し、EU圏4番目の経済大国であるイタリアで極右・ポピュリズムの連立与党が政権を担うなど、極右勢力が欧州を席巻している。

 にもかかわらず、日本は同じ轍を踏もうとしている。森永氏は移民推進派が論拠とする「労働力不足」に疑問を呈す。

「15年に野村総研が発表したレポートでは、単純労働や事務職を中心に日本の職業の約49%がAIやロボットで代替可能になります。つまりこれから労働力不足は解消されます。むしろ問題なのは、その時に人間が何の仕事をするかです。政府は本格的なAI時代の到来までに、AIには出来ない分野における人材の育成に注力すべきです」

 移民の受け入れよりも生産性の向上に力を入れるべきだと主張するのは荻原氏。

「北欧諸国の生産性は日本の1.3倍です。スウェーデンでは労働時間を短縮して育児休暇制度を充実させ、女性がフルタイムで働ける環境を整えた結果、生産性が向上しました。こうした働き方改革で移民は不要になる可能性があります」

 その一方で、日本の成長に必要な高度な人材は積極的に受け入れる必要がある。だが現実はそうはなっていない。人事コンサルタントの城繁幸氏は次のように指摘する。

「日本がグローバルに戦うには国内だけでなく海外の優秀な人材が必要です。しかし、地方転勤や残業、有給休暇をなかなか使えない環境など、滅私奉公を強いる日本特有の働かせ方がネックとなり、『高度専門職』の資格を有する外国人の離職が相次いでいます。生産年齢人口が激減する日本が成長を続けるためには、外国人にとって魅力的で働きやすい職場環境に変える必要があります」

 単純労働者は来たがるが、優秀な人材には魅力的ではない、それが現在の日本だ。日本社会が自らなすべきことは多い。

※SAPIO2018年11・12月号

あわせて読みたい

「移民」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    イッテQめぐり朝日がブーメラン

    中田宏

  2. 2

    島国日本のゴーン氏逮捕劇に懸念

    小林恭子

  3. 3

    悪徳な外国人受け入れ企業の実態

    笹川陽平

  4. 4

    いじめ自殺 校長の一言に父怒り

    渋井哲也

  5. 5

    キンコン西野著「新世界」は残念

    かさこ

  6. 6

    ゴーン氏逮捕 例を見ない悪質さ

    弁護士 紀藤正樹 Masaki kito

  7. 7

    とんねるず亀裂? 石橋が激怒の噂

    女性自身

  8. 8

    長与千種は例外 喧嘩は通報せよ

    常見陽平

  9. 9

    よしのり氏 日産巡る意見に驚き

    小林よしのり

  10. 10

    日産の自爆テロ 実は効果的裏技

    企業法務戦士(id:FJneo1994)

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。