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介護スタッフには患者さんに処方されるお薬の特徴をきちんと知ってほしい -「賢人論。」第75回河野和彦氏(後編)

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特別養護老人ホーム、老人保健施設、介護付き有料老人ホームなど、主要な高齢者施設の多くは、認知症の人を入居者として受け入れている。その一方で、高齢者施設のスタッフによる入居者への暴行・虐待は跡を絶たない。介護スタッフは認知症の高齢者とどのように向き合っていけば良いのか。また、なおも増え続けると試算されている認知症を、我々はどのようにして予防することができるのか。認知症治療の第一人者であり、全国に信奉者を持つコウノメソッド開発者の河野和彦氏からアドバイスをいただいた。

取材・文/盛田栄一 撮影/土屋敏朗

患者さんにきちんと向き合っていなかった結果、施設が崩壊してしまう例はいくつもある

みんなの介護 認知症の患者さんと介護施設とは、切っても切れない関係にあります。介護スタッフが日頃から心がけておくべきことは何でしょうか。

河野 認知症の患者さんが施設に入居している場合は、その患者さんが普段どんなお薬を処方されていて、そのお薬にはどんな特徴があるのか、スタッフとしてきちんと知っておいてほしいですね。例えば、アリセプトは記憶障害の進行を遅らせる薬だけど、処方された患者さんが怒りっぽくなることもある、とか。そして、医師の投薬方法に何らかの疑問を抱いた場合は、ただちに施設の責任者に報告して、対応策を検討すべきです。というのも、患者さんにきちんと向き合っていなかった結果、施設が崩壊してしまう例をいくつも見てきましたから。

高齢者施設が崩壊するパターンには、次のようなものがあります。

ある地域に、認知症患者を受け入れる高齢者施設が開設されました。オープンにあたって、近隣のいくつかの病院と業務提携をすることになり、嘱託医が何名か任命されました。そうした場合、認知症専門医として、大学病院の神経内科に所属する若い医師が着任することが多くあります。

しかし、大学病院の医師たちの多くは多忙。彼らは、上司にあたる教授の古い論文をいくつか読んでいるくらいで、最新の知見など入手しようもなく、「認知症=アルツハイマー=アリセプト」という思考から逃れられないのです。

みんなの介護 そうなると、誰でも一律にアリセプトを…

河野 はい。認知症の患者さんに対しては、そのタイプなどお構いなく、一律にアリセプトを同量だけ処方してしまいます。その結果、ある患者さんは急に粗暴になって暴力を振るい、ある患者さんは動けなくなって寝たきりになり、介護スタッフと患者さんの間では争い事が絶えず、患者さんのご家族からは施設へのクレームが殺到します。

困り果てた施設側は神経内科の嘱託医に「なんとかしてください」と相談しますが、嘱託医の選択肢には「増量規定」しかありません。恐ろしいことに、「患者さんの状態が悪くなったのは投薬量が足りないからだ」と思い込み、さらに投薬量を増やし、状況はますます悪化していき、ついには施設閉鎖へと追い込まれてしまうのです。

みんなの介護 …最悪のパターンですね。

河野 でも、こういったケースは実際によくあるんです。大きなニュースになっていないだけで。

みんなの介護 介護スタッフとしては、どうすれば良かったのでしょうか。

河野 認知症のすべての患者さんに一律にアリセプトが処方されている時点で、「なにかおかしいぞ?」と気づくべきでしたね。そして、施設責任者に相談したうえで、セカンドオピニオンを求める必要があったわけです。

介護スタッフは施設の入居者、あるいはそのご家族の中に、発達障害の人がいる可能性を踏まえて接する必要がある

みんなの介護 介護施設では、残念ながら、介護スタッフが入居者を虐待する事件がしばしば起こります。こういった事件も、どこかで認知症が関係しているのでしょうか。

河野 関係しているかもしれませんね。介護スタッフが入居者に暴力を振るう事件では、実は最初に入居者のほうから手を出した可能性があります。その場合、入居者が実は認知症で、しかも誤った薬を処方されているケースが考えられるでしょう。例えば、ピック病の人に対してアルツハイマー型認知症に有効なアリセプトを投与すると、さらに攻撃的になりますから。

また、発達障害の患者さんを最近診るようになって気づいたのですが、高齢者介護をめぐる虐待事件では、どこかで誰かの発達障害が関係しているケースもありそうですね。例えば、認知症の患者さんがもともと何らかの発達障害を抱えているとか、介護スタッフのほうに軽度の発達障害があるとか。

みんなの介護 河野さんも、高齢者の虐待を実際目にしたことはありますか。

河野 あります。そのときは、認知症の患者さんのご家族が、患者さん本人を虐待しているケースでした。

あるグループホームに往診したときのことです。一人の患者さんの様子が気になったので、クリニックに連れてきてCTを撮ったところ、慢性硬膜下血腫が見つかりました。それで、患者さんの奥さんに「最近転ぶか何かして、頭をひどくぶつけましたか」とたずねたところ、実の娘さんに頭を殴られたんだとか。

しかし、普通に頭を殴ったくらいで硬膜下血腫はできません。それこそ、バットか何かで思い切り殴らない限りは。それで、さらに詳しく奥さんから話を聞いてみると、どうやら娘さんに発達障害があることがわかりました。そこで、患者さんと娘さんをできるだけ引き離すよう、自治体にお願いしました。娘さんにクリニックへ来てもらえれば、何らかの治療はできたはずですが…。

もしかすると施設の入居者の中に、あるいはそのご家族の中に、発達障害の人がいるかもしれない。介護スタッフとしては、その可能性を頭の片隅に入れながら接したほうが良いかもしれません。

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