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日本版司法取引の運用は本当に客観証拠中心主義か?

5日の日経法務面での記事に続き、6日は読売朝刊に日本版司法取引に関する詳細な記事が掲載されています。

さすがMHPS事例を最初にスクープした読売だけあって、「初の司法取引 証拠80点 免責企業 贈賄工作資料提出」との見出しで、約束内容を書面化したMHPS(三菱日立パワーシステムズ)社と東京地検特捜部の「(6月28日付)合意内容書面」の中身までスクープしていて、たいへん参考になります(担当検事、弁護人、社長の署名があるそうです)。

この合意内容書面にしたがって、MHPS側は贈賄工作の資料を含む80点超の証拠を提出したそうで、その中には贈賄資金を捻出した際の資料も10点ほど含まれているようです。

なお、上記読売記事によりますと、今回の捜査協力は、司法取引の運用で懸念されていた「無実の第三者を冤罪に巻き込む危険性を極力回避するため」、供述ではなく、客観的な資料の提出が中心だった、とのこと。

なるほど、(日本版司法取引については)国民が納得できるような運用を目指す、というのが検察庁の考え方なので、そういった配慮もあったのかもしれません。

ただ、FACTA2018年10月号(36頁以下)の記事によりますと、そもそもMHPS社員による2015年2月の内部通報をきっかけとして、MHPS側は東京地検に経緯を報告、その後の地検の内偵捜査には(なんらかの情状酌量を期待して)全面的に協力をしてこられたそうです。

しかし2017年12月に地検から(半年後に施行予定である)司法取引の適用をほのめかされ、司法取引を前提として捜査協力を続けてきた、とあります。

つまり、たしかに「合意内容書面」を作成する時点では客観的な証拠提供が中心だったのかもしれませんが、それまでの約2年半の間、MHPS役職員は、地検に様々な供述を行い、その供述をもとに検察側が客観的証拠の存否を確認し、合意内容書面を交わすかどうか、つまり司法取引を行うかどうかを判断したのではないでしょうか。

そもそも合意内容書面の締結に至るまでの経緯をみれば、やはり供述に依存するところはあったのではないかとの疑念を抱きます。

最近の日本版司法取引に関する記事を眺めておりますと、「他人の犯罪」を申告する被疑者側がイニシアティブをとって検察と交渉できる制度、そしてその制度運用に関わるリスクが語られているように思われるのですが、そもそも今回のMHPSさんの事例は(FACTAの記事でも触れられているように)検察側の特殊な事情があって適用された可能性が高く、かなりレアな適用事例ではなかったか・・・と考えております。

つまり、司法取引と言いますが、被疑者側から持ち掛けて検察と容易に合意できるようなものではなく、まずは(供述等をもとに)検察側が十分に立件の可能性を判断し、その間は「アメ」もちらつかせず、取引することへの検察側のメリットが確認されて初めて取引が行われるというものであり、たとえば取引を持ち掛ける企業側としても、「持ち掛けて失敗する」デメリットも十分にあるということを認識しておくべきと考えます。

上記FACTAの記事では、検察から司法取引を持ち掛けられたMHPS側が、「司法取引は自社のレピュテーションリスクを毀損する」としていったん断った・・・という点も、(おそらく弁護人候補者と相談して決めたとは思いますが)経営判断としては十分ありうるのでは・・・と。

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