記事

トヨタが本格的なMaaSを小さく始めたわけ - 川手恭輔 (コンセプトデザイン・サイエンティスト)

[画像をブログで見る]

 トヨタ自動車と西日本鉄道(西鉄)は、11月1日から福岡市およびその周辺地域において、トヨタが提供するmy route(マイルート)というスマホアプリを使ったマルチモダールモビリティサービスの実証実験を始めると発表しました(10月31日)。このmy routeは、日本における初めての本格的なMaaSと言えるものではないでしょうか。

 すでにトヨタは、ソフトバンクと共同でMONET Technologiesという会社を設立して、多目的に活用できるトヨタのモビリティサービス専用次世代電気自動車e-Palette(イーパレット)による、Autono-MaaS事業を展開すると発表して大きな話題になっています。Autono-MaaSは、e-Paletteという「移動する部屋」を提供します。サービス事業者はその「移動する部屋」を使って、移動中に料理を作って宅配するサービスや、診察を行いながらの病院送迎サービス、そして移動型オフィスのサービスなどをエンドユーザーに提供します。

 一方、my routeは電車やバスなどの公共交通、タクシー、そしてレンタカーや自転車のシェアリングなどの、複数の(マルチモーダルな)モビリティサービスを統合して、目的地までの移動ルート検索、モビリティサービスの予約・支払いなどをシームレスに行うことができるようにするプラットフォームです。これは、フィンランドのヘルシンキで住民の約4%が使用するMaaS Globalというベンチャー企業のWhim(ウィム)や、ロサンゼルス市が行政サービスとして2016年から提供しているGoLA(ゴーエルエー)と同様のMaaSです。

 福岡市の実証実験では、シェアサイクルのメルチャリと、タクシー配車サービスのJapanTaxiと連携しており、ルート検索後にそれぞれのアプリが起動され予約などを行うことができます。レンタカーはトヨタレンタカーです。西鉄は自社が運行するバスの位置情報を提供し、my routeアプリ内限定で福岡市内フリー乗車券のデジタル版を販売します。通常の「1日券」に加え、短時間滞在のビジネスパーソンや旅行者に、気軽にバスを利用してもらうための「6時間券」も購入することができます。

 実はmy routeは、福岡市以外でも誰でも使うことができます。東京では、シェアサイクルはドコモのバイクシェアになり、その他の地域ではmy routeからJapanTaxiのアプリへの遷移はなくなってしまいますが、マルチモーダルなMaaSを体験することができます。まだ検索に時間がかかったり、表示のバグがあったりします(11/1現在)が、シンプルで使い勝手の良いMaaSアプリです。


 トヨタはMaaS Globalやロサンゼルス市と同じく、MaaSオペレーターという事業者ということになりますが、その収益モデルは明らかにしていません。プレスリリースでは、生活者や観光客にとって利便性の高いサービスの提供について検討してゆくとしていますが、トヨタの狙いはどのようなものでしょう。

自家用車が共存するMaaS

 MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)とは、自動車や自転車などの移動手段をモノとして販売するのではなく、サービスとして提供するという概念やプラットフォームを意味します。ユーザーから見れば、(例えば)自動車を保有するのではなく、サービスを利用することによって共有することになります。それは、確実に自動車の販売台数を減らす結果につながります。Whimを提供するMaaS Globalは「自動車の所有の終わり」というスローガンを掲げています。ちなみに、トヨタはMaaS Globalに出資もしています。

 my routeにはGoLAと同様に、自家用車や自分の自転車で移動するという選択肢も表示されます。福岡市の実証実験では、自家用車利用時のための駐車場予約アプリakippaも連携します。トヨタは、自家用車が共存できるMaaSを自ら提供し、それをデファクトにしようと考えているのかもしれません。

 トヨタは、カーシェアリング事業への参入も発表しました(11月1日)。「クルマをつくる会社」から「モビリティカンパニー」への変革に大きな鍵を握るのが、販売ネットワークの変革だとして、東京ReBORNという旗印のもと、チャネル制を廃止して東京直営店を「ひとつのトヨタ」に統一すると表明しました。そのネットワークを利用して、2018年12月よりカーシェアリングサービスのトライアルを中野区の20拠点程度で開始し、2019年2月からは、東京直営店20店舗程度を活用し都内全域に展開するとのことです。

 日本におけるカーシェアリング市場は、2020年には300億円規模に達すると見られています。タクシー の1.6兆円、レンタカーの6000億円という市場には遥かに及びませんが、対前年20%ほどの右肩上がりで急速に成長しています。会員数は132万人、車両台数は3万台に達しており、車両ベースでは世界でも最大規模の市場です。

日本のカーシェアリング 市場(エコモ財団資料より作成) 写真を拡大

 日本だけでカーシェアリング サービスを展開する、コインパーキングのタイムズ24は、保有車両台数(1.7万台)で世界最大のカーシェアリング事業者です。車両の駐車スペースというリソースを活用できることが大きな強みになっています。

 レンタカーやカーシェアリングはMaaSに必要不可欠なモビリティサービスですが、トヨタは自前のサービスだけをサポートするのでしょうか。MaaS globalやロサンゼルス市のようにMaaSオペレータ専業でない、ハードウェアのメーカーであるトヨタは、グーグルではなくアップルのようなプラットフォーマーを目指しているのかもしれません。

移動手段の検索・予約・決済にフォーカスすべきでは?

 ところで、「店舗・イベント情報の提供」から実際の「移動手段の検索・予約・決済」まで、移動に関する一連の機能をアプリひとつで提供するというコンセプトはいかがなものでしょう。「店舗・イベント情報の提供」のために、アプリの中に「スポット」という「店舗・イベントなどの目的地探し」という機能を統合しています。

 その地域ならではのイベントや店舗・スポット情報を提供することによって、外出のきっかけ作りや目的地付近での回遊性を向上できるかを検証するために、まず福岡市で実証実験を始めるということのようです。そのために、西鉄グループが持つ店舗・イベント情報が提供されています。

 しかし、すでに「店舗・イベントなどの目的地探し」のためのアプリやサービスは数多く存在しています。MaaSとして、「移動手段の検索・予約・決済」にフォーカスすべきではないでしょうか。

 いずれにせよ、トヨタのMaaS(my route)が成功するためには、ユーザーを味方につけなければなりません。それは、プラットフォーム上に色々なモビリティサービスを揃えてユーザーの多様な移動ニーズに応えられるか、そして、いかにシームレスな移動体験を提供できるかにかかっていると言えるでしょう。

あわせて読みたい

「トヨタ」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    今年はAmazonセールよりPayPay

    永江一石

  2. 2

    韓国経済が低迷 文政権の陥る罠

    MONEY VOICE

  3. 3

    恩を仇で…世界は日産をどう見る

    山口利昭

  4. 4

    Amazonセールはコンビニ払いが得

    S-MAX

  5. 5

    芸より視聴率 M-1はルール改正を

    松田健次

  6. 6

    日産 ゴーン氏側の証拠隠滅警戒

    ロイター

  7. 7

    仏デモ 金持ち優遇は日本と酷似

    田中龍作

  8. 8

    仏暴動 他国が介入した可能性も?

    MONEY VOICE

  9. 9

    あおり事故 原因は運転の楽しさ

    赤木智弘

  10. 10

    「七人の侍」海外で評価される訳

    NewSphere

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。