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中国のシャープパワー、「経済協力」に抗えない世界 批判され始めた中国のパブリック・ディプロマシー(後編) - 桒原響子 (PD・国際公共政策研究者)

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 中国の「シャープパワー」が、米国をはじめ国際社会で話題となり、日本でも注目されるようになってきた。米国の危機感の高まりは、中国のパブリック・ディプロマシー(PD)を、ソフトパワーではなく、プロパガンダなどと批判するようになったことに現れている。2017年末、米シンクタンクの全米民主主義基金(NED)がそうした中国の力をシャープパワーと命名し、たちまち豪州などでも注目を集めることとなった。

 しかし、トランプ大統領のように「中国のPDはスパイ活動だ」と豪語し、中国の働きかけをFBIの捜査対象とするなどといった対抗策を取ることは、どの国にとっても容易いことではない。とりわけ、中国と経済関係の深い途上国は、自国の発展・成長のために中国からの経済支援を必要としている。中国と関わりの深い途上国では、中国からの経済支援とPDが密接に関わりあっているのである。前稿(http://wedge.ismedia.jp/articles/-/14382)では中央アジアや東南アジアといった地域に見る中国のPDを見てきたが、今回はその続編として、こうした中国の野心的なPDに抗えないでいる国や地域について紹介しよう。

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太平洋島嶼国に対する中国の「支援」

 まず、太平洋島嶼国である。中国はここ数年の間に、この地域で経済支援分野を中心にプレゼンスを急速に拡大させている。太平洋島嶼国全体に対する中国の支援額は、2005年には4百万米ドルと少額であったものの、5年足らずで約40倍にまで拡大した。

 こうした中国の動きに対し、米国をはじめ周辺国が警戒を強めている。オーストラリアのフィエラバンティ・ウェルズ国際開発・太平洋担当相は、2018年1月、「太平洋島嶼国において『無用の長物』でしかないインフラ事業に投資している」と中国を批判した。またニュージーランド政府は、同年4月、バヌアツにおいて中国が恒久的な軍事拠点化を進めていることに反対の意向を示した。バヌアツは、南シナ海における領有権問題で中国支持の立場を取っている数少ない国の一つである。

 中国は、パラオ、フィジー、パプアニューギニア、サモアといった太平洋島嶼国に対し、軍事から、漁業を中心とした経済、文化、教育、医療病院、村落開発に至るまで幅広い支援を行なっている。太平洋島嶼国には、こうした中国からの投資や貿易の拡大を歓迎する声が多い。GDPの多くの部分を、外国からの援助に頼る太平洋島嶼国にとって、中国からの経済援助は欠かせないからだ。

 そして中国は、太平洋島嶼国地域に対するPDを、経済支援と同時進行で行ってきた。中国中央電視台(CCTV)の無料放送(フィジー、トンガ、バヌアツ向け)をはじめ、2013年以降は、奨学金提供、技術専門家育成支援、研修プログラム実施、2012年のフィジー南太平洋大学における孔子学院設置と、多角的に展開されている。

中国が太平洋島嶼国地域を重視する3つの理由

 中国が太平洋島嶼国地域に対する影響力の拡大を企図する理由は大きく3つある。台湾問題、海洋資源、地政学的重要性である。

 1つ目の台湾問題については、現在台湾と国交を結んでいる18国のうち3分の1(キリバス、ソロモン諸島、ナウル、ツバル、パラオ、マーシャル)が太平洋島嶼国である。同地域では、近年、中国と台湾の国交争奪戦が激しく繰り広げられているのだ。

 2つ目の海洋資源については、太平洋島嶼国地域の広大なEEZにおける豊富な漁業・資源開発の可能性を睨んだものである。同地域は、人口・面積の規模および経済構造だけでなく、海洋資源・鉱物資源の有無についても、国によっても様々だ。例えば、パプアニューギニアは、天然ガスを含めて鉱物資源の埋蔵量が豊富で資源的には大国である。また、キリバスやナウルではリン鉱石が採れる。その他、漁業資源が豊富である国も多く、開発の可能性がある。

 3つ目の地政学的な重要性は、太平洋における米軍のプレゼンスをけん制することである。太平洋島嶼国は、日本〜台湾〜フィリピン〜ポルネオ島にいたる第一列島線、日本〜グアム〜サイパン〜パプアニューギニアにいたる第二列島線、ハワイの南側の海域にまで広がっている。そのため、中国が太平洋に活動を拡大するため、また米軍をけん制するための戦略的に重要な位置にあると認識されるのだ。

高まる警戒感、一層強引な「シャープパワー」を用いるか

 一方で、こうした中国の影響力拡大に対して、太平洋島嶼国が警戒感を持っていることも事実である。例えば、中国の大規模開発をめぐって地元住民が反発し、それが大問題となっている。土地所有や環境破壊をめぐる問題だ。

 また、急激に増加する中国からの移民が、現地の小売や観光等の産業に進出し、現地人のビジネスを圧迫しており、各地で暴動や焼き打ちが勃発する事態になっているとの報告もある。

 太平洋島嶼国の中国に対する経済依存が進むことになれば、PDの効果も相まって、同地域における中国のプレゼンスが今後も拡大し続けることになる。一方、地元住民の考えを無視した中国主導の強引なやり方に対して、現地の警戒感や不信感を醸成することになるため、それを抑え込むため、中国は現地に対してますます強引な手法、つまりシャープパワーを用いるとも予想される。

アフリカにおける中国の存在感

 このように、中国が、途上国に対する「経済支援」を基にPD攻勢をしかけ、現地の世論を自らの味方につけようと試みる国や地域は、太平洋島嶼国だけではない。アフリカもその一つだ。

 アフリカにおける中国の凄まじい経済進出は周知の通りである。直近では、2018年9月3日から4日に、北京で「中国アフリカ協力フォーラム」が開催され、中国とアフリカ間の関係強化が約束されたばかりだ。

 これまで中国は、アフリカ各地におけるプレゼンスを積極的に伸ばしてきた。2018年7月、習近平国家主席はアフリカ5か国(アラブ首長国連邦、セネガル、ルワンダ、南アフリカ共和国、モーリシャス)を訪問し、アフリカ外交を再強化する姿勢を見せた。また、南アフリカではBRICS首脳会議に出席し、米中貿易摩擦を激化させているトランプ政権を強くけん制するとともに、中国の存在感をアピールした。

 中国がアフリカで影響を拡大させている理由として、途上国の盟主としてアフリカ諸国を味方につけて国連外交などで主導権を握ることのほか、豊富な資源の確保などが挙げられる。その他、「一帯一路」構想のアフリカルートを強化する狙いもあり、今後も同地域との協力を強化していくと考えられる。

 また、アフリカにおける中国の軍事面での協力関係強化も増大している。ジブチの他の地域でも、中国が新たな軍事拠点化を目指していると報告されているのだ。アフリカ東部や南部の国や地域が、港を軍事基地化して中国に提供する可能性があり、これに対し米国等は警戒感を高めている。

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