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中間選挙を控えてアナーバーのことを思う

アメリカの中間選挙を明日11月6日に控えて、ミシガンの友人たちから連絡があった。いろいろ考えるところがあるようだ。

ぼくが住んでいたミシガン州アナーバー市は、人口12万ほどのかなりの部分がなんらかの形でミシガン大学に関係しているという定型的な大学街である。街の雰囲気は知的でおだやか、交差点ではちゃんと歩行者を優先して自動車のほうが一時停止してくれるという、ふつうアメリカではありえないほど平和なところだった。街を歩いていると、家々の庭に、難民やムスリムのひとたちを支持するサインが掲げられいるのをよく目にした。


ぼく自身についていえば、滞在中、少なくとも直接的にあからさまには、非白人として差別的な扱いを受けたことはほとんどなかった(皆無だったわけではない)。むしろ逆に、いろいろと親切に接してもらった場面のほうが圧倒的に多かった。だから、ぼくのような余所者も温かく受け入れてくれたアナーバーのひとたちには、ほんとうに感謝している。この街がとても気に入って、いつか戻ってまた住みたいとおもっている。

その一方で、政治的にはこの街は、微妙なバランスの上に、いささか危なっかしく成り立っているようにも見えた。

ミシガン大学は全米随一の公立大学であり、アナーバーはその大学街として、ひじょうに活気があった。アナーバーで出会う大学関係者たちの大半はリベラルな考え方の持ち主で、異口同音にトランプ大統領とその時代における社会の状況をなげいていた。なげいてみせる風潮にたんに載っかっているだけに見えるようなひとも、いなかったわけではない。けれど、多くはきちんとじぶんなりの定見から、アメリカ社会の現状を批判的に捉えているようにおもわれた。

ところが、アナーバーから外へ出ると、様相は違ってくる。ぼくは滞在中、大学だけでなく、それ以外の場所にもあちこち出かけていった。そこで出会うひとたちもまた気のいいミシガン人だったのだが、政治的な考え方は、アナーバーのひとたちのそれと、しばしば大きく異なっていた。

アナーバー近隣の別の街に住む知人は、大統領選でトランプに投票したといっていた。わたしたちの税金を無駄な使い方をしないと言ったのはトランプのほうだったからだという。すると同席していたアフリカ系移民の若者が、じぶんのしたことを後悔していないのかときつい調子で訊いた。知人は、いいや、いまでも正しいとおもっていると言い返し、しばらく口論がつづいた。

やはりアナーバー近隣の別の街の、上とはまた別の知人が、アナーバーの連中は気取っているからね、と吐き捨てるように言うのを見たこともある。

つまり、やや図式化していえば、アナーバーの内側ではトランプやその体制に与するような言動に接する機会がきわめて少なかったのとは対照的に、その外にひろがる広大なミシガンの大地では、トランプ支持の傾向がはっきり強いように感じられた。

下の写真は、アッパーペニンシュラとよばれるミシガン州北部で撮ったもの。国道ぞいのごくふつうの民家の軒先にトランプ支持の旗が掲げられている。


二年前の大統領選挙で、ミシガン州の投票結果は、共和党の勝利を決定づける大きな要因のひとつだった。ニューヨークタイムズに載った投票結果を示す地図を見たとき、少なからずおどろかされたことを思い出す。

その地図では、ミシガン州は全体として真っ赤——共和党が勝利したという意味——に塗られた状態であり、そのなかにポツーンとちいさな二つの青いドット——すなわち民主党支持——が浮かんでいた。アナーバーとデトロイトだった。友人のひとりにその話をしたら、かれはこう言った。アナーバーは所詮「島」なんだよ、と。投票結果地図は、まさにそのとおりのことを示していた。

ミシガン州は、よくいわれる中西部のラスト・ベルトの一角を占めている。もともとは民主党が強かったそうで、それは自動車産業の労働組合を地盤としていたからだった。しかし、マイケル・ムーアの映画でおなじみのかれの故郷フリント市に代表されるように(ちなみにムーアもミシガン大学に在籍していたことがある)、現在のミシガンには自動車産業の衰退によって経済的に厳しい状況に追い込まれている地域が少なくない。農業もさかんだが、それを取り巻く状況も厳しい。

アメリカ経済は好調だといわれ、たしかにそれはぼくにも実感された。だが、あくまでそれは統計上の数字であって、現実には地域や社会階層によって烈しい格差をはらんだ、複雑にモザイク化した「好景気」であった。

このことを逆に見るならば、アナーバーにあふれていたリベラルな気分は、その好調な経済状況が下支えしていた部分があったのかもしれない。現実にはアナーバーの日常にも渦巻いていたはずのさまざまな齟齬や軋轢は、経済状況によってある程度までは覆い隠されてしまっていたのかもしれないとおもう。

大統領選挙以後の二年間で、アメリカ社会の分断はいっそう複雑化し、政治的には国の内外でますます混乱をきたし、ひとり勝ちを続けていた経済も雲行きがあやしくなってきた。

今回の中間選挙は、こうした流れにたいしてミシガンの、そしてアメリカの有権者たちがどのような意思を示すのかを計るものであるだろう。どんな選択をするのかは、かれらの投票が決めることにちがいない。だが同時に、その影響は合衆国一国にとどまるものではなく、北米大陸から遠く離れた極東の地に住むぼくたちにも、陰に陽にふりかかってくることでもある。

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