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中国のシャープパワーに翻弄され続けた世界 批判され始めた中国のパブリック・ディプロマシー(前編) - 桒原響子 (PD・国際公共政策研究者)

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 「シャープパワー」という言葉がちょっとした流行語になっている。米シンクタンク全米民主主義基金(NED:National Endowment for Democracy)が2017年11月に開催したシャープパワーに警鐘を鳴らすフォーラムで、初めて使われた言葉だ。同フォーラムの報告によれば、シャープパワーとは、権威主義国家が、強制や情報の歪曲等の強引な手段を用いて、未熟で脆弱な民主主義国家に自国の方針を飲ませようとしたり、世論を操作したりするものだ。ここでいう権威主義国家とは、中国やロシアのような国を指す。

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トランプ政権誕生後、中国PDへの批判高まる

 シャープパワーという言葉が流行った背景には、米国等、国際社会からの対中警戒感がある。米国では、中国の経済活動や軍事行動が米国の国益を脅かすという危機感が高まるのに合わせて、中国の代表的なパブリック・ディプロマシー(PD、広報文化外交)の手法とされてきた孔子学院などが、シャープパワーとして批判されるようになってきているのだ。

 シャープパワーは、軍事力等のハードパワーと、文化・教育・共通の価値観といったソフトパワーの中間に位置づけられる。一般的に、後者のソフトパワーを使って対象国の世論に働きかけ、自国に対する好感や信頼感を醸成し、対象国の世論を味方につけ、外交関係においても自国の利益に資するようにする手法を、PDという。

 これまで米国を主戦場とした各国のPDの競合は、中国の容赦ないやり方にばかりスポットが当たってきた。中国は長年、主に米国に対し、政治・経済・文化面で、かなり戦略的にPDを展開してきた。その影響力は着実に効果を出し、一時は、「アジアの中で最も重要なパートナー」を、中国と見る世論が、日本と見る世論を上回った。また、歴史認識問題に関して、韓国と協同した反日活動が功を奏し、日本は国際社会から「歴史修正主義者」という扱いを受けたこともある。

 しかし、トランプ政権誕生後の米国で、こうした事態が大きく変化した。中国は、世論工作や宣伝活動、米シンクタンクへの資金提供といった、そのなりふり構わぬPD戦略を、米国から「プロパガンダ」や「スパイ活動」と批判されはじめ、一部がFBIの捜査対象となっているのだ。

 中国のPDは広く一般的に考えられているソフトパワーを使った方途とは異質のものとされる。世論工作、嫌がらせ、圧力等といった権威主義国家ならではの「強引な」、「鋭い」手法である要素が強いことから、国際社会では警戒感が増大し、「シャープパワー」という言葉が誕生したと考えられる。

中央アジアで対立する中露

 中国がなりふり構わぬPDを展開してきたのは、米国においてだけではないのだ。中国は、中央アジア、東南アジア、アフリカ、さらにはヨーロッパでも独自のPDを展開している。ここではまず、中央アジアや東南アジアにおける中国のシャープパワーとPDの実態について見ていきたい。

 近年、中央アジアにおける中国の影響力が急速に高まってきており、中露がシャープパワーの行使合戦を展開する事態にまで発展している。中央アジアには、旧ソ連構成国が多く存在しており、いまだロシアの影響力が大きく、「ロシアの裏庭」とも称される。その中央アジアで、中国は、「一帯一路」構想を軸に、徐々に経済的影響力を拡大させるなどし、プレゼンスを高めている。

 そうなれば、同地域における中露の利害は対立し、両国関係は競争関係に発展する。実際、ロシアは裏で中央アジアの反中勢力を支援している可能性があるともいわれている。

 中国メディアによると、2018年2月、米メディアが「中央アジア地域をターゲットにしたロシアメディアが、『中国がロシアの盟友ではない』ことや、『中央アジアの取り込みを図る中国の動向に注意すべきだ』といった内容の報道を行っている」と報じた。

 中央アジアにとって、ロシアは長年に渡り主要な貿易相手国であり続けているが、最近では、ロシアと中央アジア諸国間の商業的つながりは中国に押されぎみだ。その背景には、2014年以降のロシア経済の減速がある。例えば、2016年の中央アジア諸国とロシアとの貿易総額は186億ドルだが、これに対し中国との貿易総額は300億ドルと、中国がロシアを大きく上回った。

 さらに、中国が、同地域における経済的拡張のみならず、軍事的拡張を推進しているという見方もある。中国がタジキスタンにも新たに軍事基地を建設する可能性も示唆されている。

 また、文化面での中国の中央アジアへの進出も顕著である。例えば、中国のPDを代表する孔子学院の設置だ。中央アジアには、現在13の孔子学院が設置されている(タジキスタン2、ウズベキスタン2、キルギスタン4、カザフスタン5)。2016年、習近平国家主席の彭麗媛夫人が、ウズベキスタンのカリモフ前大統領夫人とともに首都タシケントの孔子学院を訪問し、ここが中央アジアにおける中国のプレゼンスのハブとなっていることを印象付けた。この孔子学院は、2005年、中国が中央アジアで初めて開設したものである。

 こうした、PDを基調とした中国の中央アジアへの進出に対して、ロシアが、同地域における中国の活動を貶めるような働きかけ、いわゆる「シャープパワー」を行使するという実態が見え隠れする。しかし、ロシアにとっては、中央アジア諸国を取り込もうとする中国の活動が「シャープパワー」である。つまり中露は、中央アジアを舞台に「シャープパワー」の行使合戦を行っているともいえるのだ。

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