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裁判手続のIT化に伴う諸問題 拙速に導入することは避けるべき

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現在、政府では裁判手続のIT化が議論されています。

裁判手続等のIT化検討会

取りまとめは、今年の3月に公表されています。
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/saiban/pdf/report.pdf

 札幌弁護士会の意見書はこちらです。

裁判手続等のIT化について、憲法の原則をふまえ、社会的・経済的弱者や司法過疎地を切り捨てることなく、充分な検討を求める意見書

 この議論は昨年10月30日に始まってから取りまとめの公表までにわずか半年とかなり性急な進め方となっています。

 IT化には種々の問題がありながら、なお拙速に推進してしまうところに一番、大きな問題があります。

 このIT化は、企業による裁判の合理化の要請と、裁判所の機能集中が背景にあります。その結果、東京の弁護士がビジネスチャンスと狙っている構図があります。

 それとIT化に伴う大きな利権です。

 とはいえ、裁判のIT化自体は時代の流れですし、利用できるものは利用していくということは検討していかなければなりません。

 以前は、電話の活用すらされておらず、必ず期日に裁判所に出頭していた時代がありました。平成10年1月の民訴法改正により、非公開手続にはなりますが、電話の活用によって遠方地まで行く必要が減り、省力化には貢献しています。

 テレビ電話会議システムも同時に導入されましたが、これはなかなか厳しかった印象があります。音声もひどいし動画として見れなかったからです。これでは証人尋問をテレビ電話会議システムを用いて行うのは無理だと思いました。裁判所もほとんど活用していません。
 技術は進歩してくのでしょうし、合理化という観点からすれば、裁判もIT化していくことは当然といえます。

 とはいえ、考慮されなければならない問題は山積です。

1 訴える側は裁判利用のリピーターとしての企業であり、システム化による省力化の効果が大きい。

 反面、訴えられる側はどうなるのか。相手が企業とは限りません。高齢者、消費者など様々です。

 訴状の送達は現在、封書で「特別送達」という方法で郵送されています。裁判所からの書類とすぐにわかります。

 IT化ともなると、電子メールで通知が来るようになるかもしれません。しかし、その電子メールのアドレスは?

 企業との契約で予め登録していたアドレスが事前「承諾」のもと(約款だとかになるとこうなってしまいます)、そのアドレスが使われるかもしれません。
 しかし、それが確実に送信されたと言えるためにはどのような方策をとるべきなのか、検討事項は多々あります。
 IT化に不慣れであれば、送達完了のクリックをしてしまうかもしれません。

 迷惑メール(裁判所の名を語った詐欺グループ)と誤解してしまうかもしれません。

 紙ベースで郵送されるよりは格段に誤解が生じやすいのも現実で、しばらく前になりますが東京簡裁では支払督促を電子化しました。送られてくるものは神ベースなのですが、裁判所から送られてくる書類とは大分、様相が違うので、私も最初にみたときは詐欺かと思いました。振り込め詐欺ですね。

 他の弁護士も見たことがなく、戸惑った記憶があります。一部の消費者金融のみが利用していたようですが、その後、廃れてしまったと聞いています。

 それが電子メールで送達を知らせるということになると、どの程度、国民に浸透するのかも問題になりますし、IT化には全く疎い層も一定数あります。

 受領する側が弁護士や企業ばかりではないのです。

2 IT化で訴訟進行がスムーズになるのか

先般、地裁と弁護士会でIT化に伴う模擬法廷があり、傍聴してきました。

 IT技術の水準に左右されてしまうということが実感できました。スムーズに運用できるためには、かなり技術水準が上がる必要があります。
 ましてや今のこの技術では証人尋問など無理です。

 捜査機関の取調べをモニターを通じて行うことを想起すればいいとに思いますが、モニター越しではいずれにせよ当事者(証人)が従来の方法に比べて緊張感が薄らぐのは間違いないでしょう。

3 当事者の主張整理の方法の危うさ

 方法としては訴状と答弁書を元に書き加え、修正していく方法で要件事実として整理し、その裏付けとなる証拠の有無を整理していく方法が想定されています。

 現在の裁判での整理と異なるものではありませんが、IT化された場合、直接の証拠の有無だけで結論が決まってしまわないかという危惧があります。

 当てはめたパズルのように整理しただけで、機械的に結論を出しやしないか、ということなのですが、書面のやり取りで整理されたものの中に証人尋問の結果がどのように反映されるのかもわかりません。現状の裁判では証人尋問の結果が反映し結論が左右されることはほとんどないように思いますが、IT化はその傾向に拍車を掛けるのではないかということです。証拠の偏在が問題になるような事件ではなおさらそれが顕著になるのではないか。労働事件や消費者事件など、単純に証拠なしでばっさり切られてしまうことになりかねない、そういった危惧です。

 人事訴訟(離婚)などは、特定の離婚原因がない事件では、同じ類型に入ります。

 裁判もAIがやればいいんじゃないかなどいう声も聞いたことがありますが、こうした発想の延長線上にあります。

AIは裁判官にとって変わる? いいえ、そんな裁判は求めていません

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