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"イオンを創った女"が店で繰り返した質問

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「弟を日本一にする」。イオングループ創業者・岡田卓也の実姉・小嶋千鶴子は、その言葉通り、家業の岡田屋呉服店を日本最大の流通企業に育てた。人事や組織経営の専門家だった小嶋は、一体なにをしてきたのか。『イオンを創った女』(プレジデント社)の著者・東海友和氏が知られざるエピソードを紹介する――。


「なんかわからんけど威厳のある人」

「なんか問題あらへんか?」

紺の伊勢木綿の洋装で、髪を後ろに束ねた威厳のある「おばさん」が、店員にそう声をかける。声をかけられた店員は怪訝な顔をして「誰や、このおばさんは」ということになる。彼女を知っている店員は直立不動で顔も引きつり、緊張と戸惑いをあらわにする。イオンの実質的な創業者、小嶋千鶴子の店舗巡回の様子である。

小嶋千鶴子の印象は知っている人にとっては「厳しいひと」「怖いひと」であり、知らない人には「なんかわからんけど威厳のある人」というように映る。

小嶋の店舗視察の目的は単なる視察にとどまらない。小嶋にとって店舗とは、お客様への経営努力のすべてが集約されている場所である。会社全体の問題を発見するための「場」なのである。

そのため、担当者が「問題ありません」などと調子の良いことを言おうものなら「カミナリ」が落ちる。問題意識が薄い、知識がない、当事者意識がないと、その担当の個人評価はもちろんのこと、店全体のマネジメント、店長の部下教育の評価も下がる。

さらに小嶋は、売り場の実態(欠品がある、品ぞろえが悪い)、従業員のモラールや不満の程度まで、広範囲にわたりどこかに問題がないかと探る。その意識は広く、深い。会社全体の方針や施策に問題ないか、経営者として商人としてアタマがフル回転する。

欠品は社員教育に問題あり

たとえば、売り場に欠品があったとすると、その原因がどこにあるか突き止めようとする。担当者の能力の問題か、商品の発注システムの問題か、発注の仕方の教育の問題か。

店舗視察から戻ると能力開発部長を呼び、「店の商品発注についての教育の実態」を問いただし、果ては、カリキュラムを持ってこさせて、欠けている部分があれば付加検討の指示をするのである。商品の欠品にひとつでも、そこまでの責任が能力開発部長にあることを認識させる。

小嶋は方針や指示、教育など決して「やりぱっなし」にせず、必ず検証する。そのしつこさたるや尋常ではない。

管理職の登用試験においてこんなことがあった。各資格試験の上位者10名ほどを本社に呼び、面接試験を実施する。面接官は小嶋と人事本部の部長と私である。

面接が終了すると今年の出来具合を評価するのだが、「東海君、今年の出来は良くないな、それとも優秀な子をすくい上げないような筆記試験を君が作ったんか?」といって、今度は試験問題を取り寄せて評価が始まる。試験を受けているのは登用試験の被面接者ではなく「私」になるのである。

ちなみに、各資格の登用試験問題のすべては私が数年担当した。

「コスト削減案」を烈火のごとく叱責する

小嶋は店舗巡回時には売り場はもちろんのこと、一番先に後方部分「社員食堂」「更衣室」「ロッカー」を見て回る。社員食堂では、メニューを見て偏ったものではないかを確認し、従業員には「おいしいですか?」と尋ねる。整理整頓の程度、掲示板での古い掲示物がありはしないか。更衣室、ロッカーに汚れた衣類や関係のない私物は置かれていないか、丁寧にみて回る。店長には細かくよく行き届いた配慮やマネジメントを要求する。

店長にとってはひやひやモノである。

こんなことがあった。全国の人事担当者会議の席上に店舗開発部長から提案説明があった時のことである。

開発部長が「現在店舗のコスト削減の一環として、後方部門の面積を削減したいと考えています。その中で現在社員食堂にかかるコストのウエイトが高く、面積も広く、厨房設備が高いので、この際に社員食堂をなくそうという案が開発部で検討されています。人事のみなさんのご意見をいただきたいのでこの場をお借りして説明に参りました」という。

やや得意げに説明した開発部長に対して、小嶋は烈火のごとく怒り出した。

「何をあほなことを開発は考えとるんや。社員食堂や休憩室を何と考えとる。コストの問題ではなく、一日中立ち仕事をしている従業員にとって、温かい食事と足を伸ばせる休憩室がどれほど大切か分かっておらん。余計なことを考えないで他の要素を研究せなあかんやろ。たとえば、売り場の良く目につく場所にサービスカウンターを作り、お客様のお尋ね事やご苦情など一括して受けるなどして、レジでのチェッカーの負担をなくすことなどを考えたらどうや。何をアメリカに視察に行っとるや。あんたとこの本部長に小嶋がこういうとったと言っとき」で終わった。

「問題あらへんか?」の小嶋の問いに対する答えは、隠すことなく、おもねることもなく、自己宣伝をすることなく、ただ率直に問題と認識していることを言うことに尽きる。いわば正しい情報を忌憚なく提供することであり、小嶋もそれを望んでいたのである。

それに対する答えは、提供者本人が望めば、小嶋が教えてくれるし気付かせてくれる。

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