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「こんなの寿司じゃない!」そう思っていたのに…カリフォルニアロールに人生を賭けた男

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こんにちは。ライターの斎藤充博です。

この間テレビで「海外で間違って伝わってしまった寿司を、日本人の職人が正す」という番組をやっていました。

確かにそこに出てきた「寿司」は日本人の僕が思い浮かべる寿司とは違うものでした。例えば、海外で独自に発展した、カリフォルニアロールとか。

それを、日本人の寿司職人が正すわけです。ところがそのテレビを観ていて、僕はこう思いました。

「海外の間違った寿司、うまそうだな……」

海外の寿司を日本でも食べられるところはないものか? 探してみたらわりとあっさり見つかりました。

うらまきの専門店「うらまきや」


東京の麻布にある「うらまき」の専門店、うらまき屋。「うらまき」とは、海苔巻きの海苔が内側に巻き込まれているものです。


英語では「inside out rolls」というらしい。なんか英語にするとかっこいいですね……。


店内はこんな感じ。元々は飲食店(イートインスタイル)だったのですが、今年の8月にテイクアウトとデリバリーの専門店になったそうです。右側にカウンターの名残がありますね。


メニューには30種類のうらまきがあります。メニューの最初に書いてあるのはカリフォルニアロール。やっぱりこれが定番なんでしょうか。


「スパイシーYT」というナゾのメニューもありました(画像右)。聞いてみたら、YTとは「yellow tale」の略で、「ハマチ」のことなんだそうです。


「セクシー」ってなんだろ? エビ天とハマチが入っているのも斬新ですね。とにかく異国感がびんびんに伝わってきます。


いくつか注文すると、マスターはまずエビの天ぷらを揚げ始めました。注文のたびにちゃんと揚げているそうです。


小気味よく海苔やご飯をセッティングしていきます。一見すると、ここまでは普通の寿司と変わらないですね。言い忘れましたが、作っているのは日本人です。


あっ。アボカド乗っけた!


バーナーも出てきた! あぶっているのはチリマヨネーズだそう。


出来上がりです。左から

「タイガー」(エビ天ぷら、キュウリ、スパイシーツナ、アボカド、タレ、ゴマ)

「スパイシーYT」(ハマチ、キュウリ、ネギ、ゴマ)

「カリフォルニアロール」(カニカマ、キュウリ、アボカド、トビコ)


別の容器でもう一つ。

「サンライズ」(ゆでエビ、スパイシーハマチ、キュウリ、マヨネーズ、タレ)です。天かすまみれになっていて、何が何だか分かりませんが……。

持ち帰って食べてみたんですが、どれもうまいです。「スパイシーYT」や「サンライズ」みたいな味が濃いものの方がおいしかった。

ただ……ちょっと気になるところもあります。特に「カリフォルニアロール」なんですが……。(後述)

いや。実は料理そのものより気になっていることがあります。マスターの存在です。日本人の職人さんがアメリカのうらまき専門店をやっているって、どういうこと? ウケ狙い?

どうしてこんなことをしているのか、仕事の休憩時間に行って、詳しく話を聞いてみました。(この記事はここからが本番です)

これまで5か国で働いてきた寿司職人


うらまきやのマスターは菊池秀一郎さん(43歳)。2015年5月にうらまきやを始めました。今日はお店のバックヤードでお話を聞かせてもらっています。

斎藤「どうして日本人の職人さんが、うらまきの専門店をやっているんですか?」

菊池「うらまきっていうのが、かわいそうで。寿司から独立させてあげようと思ったんですよ」

ん? どういうこと? 謎が深まった……。なんでも菊池さんはこれまでに日本、アメリカ、オーストラリア、スイス、ギリシャの5か国で寿司職人として働いてきたそうです。ものすごく興味深い。せっかくなので半生を全部聞いてみました。

日本で約10年修行する


菊池「私は高校卒業後に料理の世界に入りまして、10年ほど割烹やお寿司屋さんなどで修行をしていました」

斎藤「それは普通のお寿司屋さんですよね?」

菊池「そうです。普通の職人を、約10年間。でもその中で海外で仕事をしてみたいって気持ちが5 出てきたんです」

斎藤「ふむ……」

菊池「そんな時です。カリフォルニアで寿司店を経営している人と偶然知り合うことができました」

斎藤「えっ。いきなり知り合えるものなんですね」

菊池「彼は当時私が働いていた寿司店のOBだったんです。その人がカリフォルニアだけでなく、ラスベガスにも店を出すことになり、事務手続きのために一時日本に帰国していたんですね。そこで昔働いていたお店にちょっと寄ったというわけです」

斎藤「すると、その人にお願いしてラスベガスに一緒に行くことになったんですか?」

菊池「いや。あいさつはしたんですが、その時はまだ相手にされていなくて。でも、もらった名刺にメールアドレスが書いてあったんで、パソコンを買ってきて、メールを何度もしたんです」

斎藤「メールのためにパソコン買ったんですね……」

菊池「そうです。私もアメリカで仕事がしたいとメールをしまくりまして。あの頻度は、まるっきりストーカーでしたね。そして、とうとう根負けしたのか、ラスベガスのお店で働かせてもらうことになりました。2001年の7月にアメリカに入国したんです」

最初は「うらまきなんて邪道」と思っていた

斎藤「普通の職人がいきなりラスベガスで握ることになるんですね。そこで『うらまき』を作ることになったんですか?」


 菊池「いや……。まだ先です。ラスベガスの店は、従業員もお客様もほどんど日本人でした。出しているお寿司も、伝統的な日本のお寿司です。

うらまきも少しは出していたんですが、私はこんなの寿司じゃねえって見下していて。作ろうともしませんでした」

斎藤「最初は嫌っていたんだ!」

菊池「嫌っていましたね。だって、寿司にマヨネーズかけたりするでしょう。そんなの邪道じゃないですか。許せなかったんです」

斎藤「ま、まあ、寿司職人の方からしたらそうなりますよね」

この場合、どう答えるのが正解なんでしょうか……。だってここには、デスソースをかけたメニューもあるんだよな……。

同時多発テロで店がつぶれる

菊池「そんなふうに仕事をしていたんですが、問題はラスベガスで働き始めた2か月後の2001年9月です。ニューヨークで同時多発テロが起きてしまいました」

斎藤「ああ……! 直接的な被害はないかもしれませんが、ひょっとしたら、アメリカのムードが最悪になっちゃった感じですか?」

菊池「その通りです。日本人向けのお店だったのですが、ピタリとお客さんが来なくなってしまいました。いろいろなイベントや会議が中止になってしまったのも大きかったです。結局、その寿司店は閉店してしまいました……」

斎藤「あれ? うらまきが嫌いなまま潰れてしまいましたが……」

「うらまきってうまくないか?」

菊池「お店は潰れてしまったんですが、私はラスベガスの違うお寿司屋さんに拾ってもらうことができました。そこが外国人向け(*)のお店で。注文されるもののほとんどが、うらまきだったんです」

(*)アメリカなのでよく考えたら外国人は菊池さんの方なんですが、ややこしいので、この記事では日本人じゃない人のことを外国人ということにします

斎藤「じゃあ、今度はうらまきを作らざるをえないですね?」

菊池「そうです。はじめは嫌々作っていましたね。うらまきを丸ごと天ぷらにしたりするんですよ。それにクリームチーズを乗せて、タレをかけて食べたりする」

斎藤「なんだそれ、すごいな」

菊池「おれはこんなことのためにアメリカに来て職人やっているのか?って思っていました」

斎藤「でも、気持ちが変化していったんですよね? 何かのタイミングで……」


菊池「そうなんです。アメリカの人たちがあまりにうまそうに食べるので、私も素直な気持ちで食べてみたら、あれ? これ、うまくないか?って思っちゃったんです。それでだんだん好きに……」

斎藤「うまいって思っちゃったんだ!」

菊池「そうです。そもそも、うらまきには約60年の歴史があります。カリフォルニアの日本人街にあるお寿司屋さんが外国人になんとかお寿司を食べてもらおうと考えたのが、カリフォルニアロールです」

斎藤「60年! 意外と歴史あるんですね」

菊池「黒い海苔が嫌われるから、海苔を内側に巻く。生魚が嫌われるから、ボイルしたカニと野菜を入れる。黒いソース(醤油)が嫌われるから、マヨネーズをつける。そうやって、一つ一つ嫌われる要因をつぶしてヒットしたのがカリフォルニアロールです」

斎藤「現地で受け入れられようとした結果の形なんですね」

菊池「その後、1980年代に和食ブームがアメリカ中で起こって、同時にうらまきも広がります。さらに1990年代にはヨーロッパでも和食ブームが広がりました。今では世界中にうらまきがあって、世界の人たちはおいしく食べているんです。それがおいしくないわけないだろう、と」

斎藤「日本人だけが先入観を持っているから、食べていないってわけか……。たしかにそれはなんかヘンですね……」

オーストラリアにはかんたんに行けるけど……

 菊池「それで、アメリカで2年ほど働いた後に、私はオーストラリアに渡ることにしました」

斎藤「ん? なんでオーストラリアなんですか?」

菊池「オーストラリアにワーキングホリデービザっていう制度があって、30歳以下ならかんたんにビザが取れるんですね。私はいろんな国で働きたくて、30歳になる前にオーストラリアに行こうとしたんです」

斎藤「行動力がすごいですね(僕なんか同じ市内に引っ越すのにもここ2年くらい悩んでいたのになあ……)」


菊池「オーストラリアには1年くらいいましたかね。

オーストラリアのシドニーって南半球最大の魚市場があるんですよ。カニなんか最高においしいです。そこでもやっぱりうらまきは人気でした。

ただ……。労働条件があんまり良くなくて。ワーキングホリデービザは誰でも取れるんで、アルバイトがあふれているんですね。給料を上げてくれって言ったら、じゃあ他のバイト探すよって言われちゃうんです」

斎藤「わ~。キツいですね」

菊池「それで、ビザの有効期限も近づき、ネットで他の仕事を探していたんです。そうしていたら、スイスのチューリッヒで寿司職人の募集を見つけました。メールをしたらすぐに電話がかかってきて……」

斎藤「いきなりまた遠いですね! 向こうもオーストラリアから日本の寿司職人が応募してくるなんて思ってなかったでしょうね」

菊池「びっくりしたと思います。そのオーナーの方はものすごく話が早くて、チケット代出すからスイスに来てくれって話になったんです」

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