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社会保障と税を考える(9.年金の本質から見て大きめな2階部分)

 さて、今回からは、社会保障制度の各論について考えていきます。
 まずは年金について。

1.年金の本質は「長生きリスクへの保険」+「生活費の強制貯蓄」

 前回、社会保障はリスクに対する保険に特化すべきと書きました。
 では、年金はどういうリスクに対する保険なのでしょうか。

 本来なら、年を取ったら稼げなくなるのはわかっているわけで、死ぬまでの生活費はあらかじめ貯蓄(or民間の個人年金に加入)するのが筋ではありましょう。
 つまり、本質的に保険の対象とする必要があるのは、平均寿命(男80歳、女86歳)より長生きし、思ったより生活費がかかってしまうリスクのみということです。

 ただ、現実的に考えると、平均寿命までの分は貯蓄しておいてねというのは、次の2点で無理があります。

・あるだけ使って貯蓄しない人も多い(65歳で仕事をやめて寿命まで15~20年、夫婦で月15万円で2700~3600万円。多数の国民がこれだけ貯蓄するとは思えない)

・貯蓄では(民間の個人年金でも)、インフレした場合に不足してしまう。政府ならインフレの場合は給付も増やせる(同時に税や保険料の収入も増えるため)。

 ということで、長生きリスクへの保険だけでなく、平均寿命までの生活費の強制貯蓄的な性格も含めた、やや大きめの年金は必要と考えるべきでしょう。

2.強制貯蓄としては厚生年金はかなり大きめ

(1)1階部分に比べて2階部分が大きすぎるのは1つのポイント

 現行の年金制度は、全国民に共通の基礎年金(1階)があり、サラリーマンにはそれに上乗せして報酬比例年金(2階)があるという2階建て。

 サラリーマンを対象とした1階と2階がある年金を厚生年金(公務員は共済年金)と呼び、それ以外の人(自営業者、パート・フリーター)を対象にした1階だけの年金を国民年金と呼びます。

 国民年金は、月16,900円(2017年時点)の保険料を納めると、月66,000円もらえます。夫婦2人とも国民年金なら、月13万円ですね。

 厚生年金は、収入の18.3%(2017年時点。月5~10万円だが、会社が半分払うので本人負担は3~5万円)の保険料を納めると、夫と専業主婦の夫婦で月20~30万円もらえます。共働きだと保険料は倍で、もらえる年金は夫婦で40万円近く。
 この中に、概念上、1階部分と2階部分が合わせて含まれています。

 強制貯蓄的な年金が必要としても、夫婦で月20~30万円(共働きなら40万円)は多すぎ、国が保証するのは月13万円で十分だろ、あとは必要なら自分で貯蓄しろよという意見はあり得るでしょう。

 確かに、医療、介護、住居の3つを安い価格で入手できる条件が整っていれば(←重要)、現金収入は少なくてもいいというのは一理あります。

 一方で、月13万円(単身だと月66,000円)では暮らせないので、2階部分は残すべきという主張も当然ながらあります。というより、こちらが多数派です。
 現役時代の平均年収が500~600万円として、年を取って160万円(単身だと80万円)に減らされて大丈夫そうか、自分のこととして考えればよくわかると思います。

(2)現行制度をリセットして、2階部分を廃止することの意味

 最低限の1階部分は絶対に必要だけど、その上乗せの2階部分は、理念的には廃止する選択肢もなくはないとして、その可能性を探ってみましょう。

 2010年度で、1階部分の給付総額は約20兆円(国民年金5兆円、厚生年金の1階部分15兆円)、2階部分は約30兆円。

 おお、やろうと思えば30兆円も削れるじゃん、と思ってはいけません。
 仮に、夫婦で月13万円じゃ暮らせないから廃止すべきでないという強い反対を押し切って廃止できたとしても、10年といった短期では支出はあまり減りません

 それは、前回も書いたように、既に保険料を納め終わり年金を受け取る約束をした人へは、その後もほぼ同じ仕組みで給付せざるを得ないから。
 給付カットはできると思いますが、2~3割が限界でしょう。なお、次回説明しますが、その程度の給付カットは既に2004年の年金改革で決定済みです。

 2階部分を廃止するというのは、長期的には次の形を取ることになると思います。

・廃止時点で65歳以上の人は、現行制度どおり2~3割カットされた2階部分を引き続き受け取る(4~5割までカット率を高める選択肢はあり得る)

・廃止時点で20~64歳の人は、廃止前に保険料を払った期間分に比例して、2階部分の一部を受け取る(64歳なら100%、42歳なら50%、20歳なら0%という感じ。この削減のスピードを「期間分に比例」より速める選択肢はあり得る。また、長期的な年金としてではなく、一時金として給付する選択肢はあり得る)

・上記2つの年金(or一時金)の給付に必要な保険料は、引き続き現役世代が負担し続ける

 ということで、2階部分を廃止したとしても、直後に現役世代の負担がゼロになるのではなく、80年(20歳の人が全員死ぬまで)かけて緩やかに減っていきます。
 ましてや、「払った保険料が返ってくる」なんてバラ色のイメージを持つのはやめましょう。保険料は既に年金支給に使われていて、お金は残っていません。

 様々な人が言う「現行の年金制度をいったん精算(リセット)する」こと(橋下徹氏の維新版・船中八策でもそう言っていますね)の本質は、その程度のこと。

 それでも「リセット」に価値があるとするならば、上の囲みの中で「選択肢はあり得る」と書いた、次の3つの選択ができるようになる点に意味があるのでしょう。

・現在のリタイア世代への給付のカット率を高める(現行制度の継続の形を取れば2~3割が限界だが、リセットの形を取れば4~5割まで行けるかもしれない)

・現在の現役世代への給付の削減スピードを速める(これまで保険料を払ってきたことの価値を低く評価して、現在のリタイア世代よりさらに大きく年金を減らす)

・現役世代への給付を、65歳時に一時金で支給する形に変更する(長期的なリスク(経済成長の鈍化、デフレ、出生率の低下、運用利率の低下)を軽減できる)

(3)まとめ

 社会保障はリスクに対する保険だという基本に立ち返れば、現行制度をいったんリセットして、大きすぎる厚生年金の2階部分を廃止する選択肢はあります。

 ただ、「リセット」を主張する人には、響きのよい言葉のイメージに頼らず、

・サラリーマンの老後を、本当に基礎年金だけで生活させるべきかという疑問

・引き続き給付と負担は残り続け、別にお金も返ってこないこと

・実質的な効果は、リタイア世代の給付のカット率の上乗せ、現役世代へのより大きなカット、一時金化による長期リスクの軽減といった、現行制度の調整的な効果に止まること
といった具体論について、きちんと説明してほしいと思います。

 また、現金給付(年金)を最小限に絞るには、現物給付(医療・介護・住居)を安い負担で受けられることが前提条件となる点にも、注意が必要だと思います。

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 今回は、年金制度の理念に立ち返って、実現可能性はともかく理念的にはあり得る選択肢として、厚生年金の2階部分の廃止の可能性を探ってみました。

 ただ、現実には、給付をある程度カットした上で、2階部分を続けるべきという意見が多数派です(私もそう)。
 次回からは、2階部分を続けるという前提の中で、現在の年金制度がどの程度危機的な状況にあり、どのような見直しが必要なのかを探っていきます。

 果たして、リセットせざるを得ないほど危機的なのか、ということ。

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