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戦前日本:選挙権・被選挙権もあった内地居住の朝鮮人(4)

 遠賀川の川筋男で、しかも若松港を舞台に、玉井一家と対立する吉田磯吉陣営で活動していた父や我が一族と葦平文学とは、不思議な縁(えにし)で結ばれているようだ。

 当時の内地居住の朝鮮人・台湾人には日本人と同等な選挙権も被選挙権があったという歴史的事実は、日本でも韓国でもほとんど知られていない。在日朝鮮人の朴春琴は、1932年と37年の衆議院選挙で、東京府4区(本所区・深川区)で当選している。私の父の選挙ポスターのような第一次資料に基づいてさらに研究を進めるべきである。

 経済史学者の坂本悠一氏や河明生(ハ・ミョンセン)氏は、強制連行以前に朝鮮半島から日本にやってきた朝鮮人を「自由意志に基づく移民」、つまり出稼ぎを目的とした労働移民としてとらえている。

 これは、植民地から宗主国への出稼ぎであり、国際労働力移動や移民といった概念で学術的に分析できる。世界中に植民地を持っていた大英帝国やフランスのケースと比較することも可能である。

 火野葦平の地元、若松市で葦平研究を進めた故鶴島正男氏には、葦平に関する多くのことを教えて頂いたが、彼は「火野葦平資料の会」を立ち上げ、私も参加させて頂いた。その会が編集した『若松庶民烈伝』(裏山書房、1977年)には、朝鮮半島から「自由意志」で出稼ぎに来た1人の男の話が掲載されている。

 その男は、第二次大戦後、若松市で画廊喫茶「ドガ」を開業し、文化人たちが集い「北九州市の梁山泊」と化したサロンの主である。フランスに留学した私は、ピカソ、藤田嗣治、サルトル、コクトーら文化人の溜まり場、モンパルナスのラ・クーポールを思い出した。

「『ドガのおやじ』こと沢山哲雄――本名、チョル・ヨンさんは、1914年(大正3年)韓国慶尚南道密陽市上南面岐山里の名族、チョル家の一人息子として生まれた。・・・日本から画家の叔父がたびたび帰省しては、チョル家を訪れた。・・・ヨン少年の心には、このころから、海のはるかかなたの、日本という国に対するあこがれが芽生えていた。

・・・15歳。故郷の畑に麦のうれるころ、ただ一人、あこがれの日本へ渡った。上陸したものの、叔父から聞いた幻の日本以外、何一つ知らない。日本語もしゃべれない。」

 15歳のときだから、1929年のことである。チョン・ヨルさんは、まさに「自分の自由意志」で日本に来たのである。そして、「放浪の果て、やっと同郷人が多数働いている三井郡(福岡県)の瓦屋に、住み込みの働き口が見つかった。」(pp84~86)。強制連行や徴用とは無縁の世界の話である。

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