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対中ODAの総決算は ――日本外交の大失態、巨大な不毛 - 古森義久

「日本のODAによる貢献を高く評価する」――

 40年間の日本の巨額な援助に対して、もらい手の中国の習近平国家主席が述べたのは、こんな簡単な一言に過ぎなかった。しかも「評価する」とはいかにも上からの目線である。

 資金を贈った側と、受け取った側と、まるで逆転の態度ではないか。まさに朝貢という古い言葉を思わせる傲慢な表現だった。

 日本が中国に対して40年間も営々と提供してきたODA(政府開発援助)3兆6千億円もの巨額の援助への中国側の総括はこんな言葉ひとつだった。10月26日の北京での日中首脳会談で安倍晋三首相が日本から中国へのODA供与の終わりを正式に伝達したことへの習近平国家主席の言葉がそれだったのだ。

 対中ODA供与は日本に何をもたらしたのか。日本の対中政策全般でも、この巨額の経済援助は最大の支柱だった。いや戦後の日本の対外政策全体をみても、ODA供与は売り物であり、そのハイライトが中国への供与だった。その戦後最大の外交政策ともいえる対中ODA供与の総括はいま不思議なほど誰も語らない。

 日本の外交政策としてどんな効用があったのか。結論を先に述べよう。

 日本側が本来、その援助の供与で目指した目標はまったく達成できなかった。日本側の当初の意図と、中国側での援助の結果と、あまりに大きな断層があるのだ。だから政策としては失敗だった。不毛だった。日本政府の対中ODA政策は日本の戦後外交全体の中でも最大級の失敗だったのである。

 私はこの日本の対中ODA政策を20年前から点検してきた。その契機は1998年11月、産経新聞のワシントン支局勤務から初代の中国総局長というポストに移り、北京に2年間、駐在したことだった。

 日本の対中ODAの目的とは何だったのか。

 中国へのODAが始まった1979年当時の大平正芳首相は「日中友好」を強調していた。ODAの供与によって日中関係の友好を推進するという意味だった。その後、ODA総額が大幅に増えた1988年当時の竹下登首相は「中国人民の心へのアピールが主目的」と明言した。これまたカギは「日中友好」だった。

 この場合の「友好」とは、ODAにより中国側の官民に日本の善意を示し、努力をみせ、なんらかの形の認知や感謝を得て、中国側官民の日本に対する感情や態度、政策をよりよくすることだろう。

 だがODAが中国側の日本への友好を高める効果はまったくなかった。中国政府が日本のODAについて自国民にまったく知らせなかったからだ。しかも中国当局が日本からODAを受け取りながら、日本の尖閣諸島の日本領海への侵入、歴史問題での日本糾弾の学校教育、抗日戦争での日本の残虐や侵略の記念行事、日本の国連安保理の常任メンバー入りに反対する反日デモなど、日本への敵意をこめた官製活動は数えきれなかった。友好とは正反対だった。

 この一事をもってしても、日本のODA政策は失敗だった。さらに深刻なのは日本のODAが中国の軍拡に寄与したことだった。空港、港湾、高速道路、鉄道など日本のODAで建設された巨大なインフラはみな軍事的価値が高いことを人民解放軍幹部たちが誇らしげに論文で発表していた。しかも日本からの巨額の経済援助があったからこそ、中国政府が本来、経済開発に投じなければならない資金を軍事力増強へと回わせたのだ。

 こうした経緯を日本側でもいまこそ反省をこめて、検証すべきである。
古森義久(こもり よしひさ)
1963年、慶應義塾大学経済学部卒業後、毎日新聞入社。1972 年から南ベトナムのサイゴン特派員。1975年、サイゴン支局長。1976年、ワシントン特派員。1981年、米国カーネギー財団国際平和研究所上級研究員。1983年、毎日新聞東京本社政治編集委員。1987年、毎日新聞を退社し、産経新聞に入社。ロンドン支局長、ワシントン支局長、中国総局長、ワシントン駐在編集特別委員兼論説委員などを歴任。現在、JFSS顧問。産経新聞ワシントン駐在客員特派員。国際教養大学客員教授。麗澤大学特別教授。
著書に、『憲法が日本を滅ぼす』、『なにがおかしいのか?朝日新聞』、『2014年の「米中」を読む(共著)』(海竜社)、『朝日新聞は日本の「宝」である』、『オバマ大統領と日本の沈没』、『自滅する中国 反撃する日本(共著)』『米朝首脳会談と中国、そして日本はどうなるのか』(ビジネス社)、『いつまでもアメリカが守ってくれると思うなよ』(玄冬舎新書)、『「無法」中国との戦い方』、『「中国の正体」を暴く』(小学館101新書)、『中・韓「反日ロビー」の実像』、『迫りくる「米中新冷戦」』(PHP研究所)等多数。

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