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認知症は根治ができなくても、ご家族が「昔のこの人に戻った」とおっしゃるレベルまで改善することは可能です - 「賢人論。」第75回河野和彦氏(前編)

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1985年、名古屋大学大学院生だった時代から認知症の治療と研究を始め、これまでにのべ3万人以上の患者と向き合ってきた認知症治療の第一人者、河野和彦氏。その圧倒的な経験値をベースに考案した独自の治療法は、2007年から「コウノメソッド」としてインターネット上で無料公開されている。河野氏が院長を務める名古屋フォレストクリニックは重篤な認知症患者にとって最後の砦になっており、今も1日50組以上の患者が全国から訪れる。「認知症は治らない」という医学界の常識を真っ向から否定し、「認知症は治せる」と公言する河野氏に、まずは認知症に関する基礎知識からレクチャーしていただいた。

取材・文/盛田栄一 撮影/土屋敏朗

これまでは、医師も、患者さんも、患者さんのご家族も、認知症は治らないと諦めてきました。これからは違います

みんなの介護 河野さんが2014年に上梓した『医者は認知症を「治せる」』(健康人新書/廣済堂出版)は、多くの人たちから驚きをもって迎えられたと伺いました。

河野 そうですね。「認知症は治らない」というのが、それまでの医学界の常識でしたから。今でも、その常識に固執している医師は少なくありません。

認知症とは、脳の一部が萎縮したり、脳の神経細胞が死滅するなどして、記憶障害や見当識障害を起こす病気の総称です。最近、記憶の出入り口である海馬周辺の神経細胞は新生していることがわかりました。心地よいリハビリを受けるとそのまま成熟細胞になる一方、残念ながら、精神的ストレスや虐待を受けることで細胞は萎んでしまいます。

この事実がわかるまで33年間、ともし火が明確に見えないながら3万人の患者さんを黙々と観察してきて、最近治せるぞというイメージがいっそう膨らんできましたね。「治せる」などという本のタイトルに批判もありましたけれど。

みんなの介護 つまり、医学界の常識を覆して、「認知症は治せる」と河野さんが公言したこと自体がセンセーショナルだったわけですね。

河野 はい。症状を劇的に改善できるという意味で、私は「治せる」と言っています。特に、患者さんのご家族を悩ませている認知症の「周辺症状」については、治療次第で大きく改善することが見込まれます。

認知症の患者さんには、大きく分けて2つの症状が現れますが、周辺症状は脳組織の変性によって起こる「中核症状」に付随して起こります。

認知症の主症状である中核症状は、過去の体験や記憶をなくす「記憶障害」、今自分がどこにいて、今何時なのかがわからなくなる「見当識障害」、知っているはずのものがわからなくなる「失認」、着替えなどができなくなる「失行」、言葉が理解できなくなる「失語」など、認知機能の障害という形で現れます。

一方、それらの認知機能障害を起こした結果として現れるのが「周辺症状」です。例えば、幻覚、妄想、抑うつ、無気力・無反応、不安・焦燥、睡眠覚醒リズム障害、介護抵抗、徘徊、暴言・暴力・攻撃性、食行動異常、不潔行為など。そして、患者さんを介護しているご家族を本当に困らせているのは、実はこの周辺症状のほうなのです。

私にとって「認知症を治す」とは、できるだけ「その人本来の姿に戻す」こと。患者さんやご家族の苦しみを少しでも取り除くこと

みんなの介護 現在の医学界では、認知症の治療はどのように行われているのでしょうか。

河野 現在の認知症治療においては、あくまでも中核症状の改善が目標になります。抗認知症薬として厚生労働省が認可しているのも、中核症状の改善と進行の抑制を目的に開発された4薬のみ。ちなみにその4薬とは、アリセプト(ドネペジル塩酸塩)、レミニール(ガランタミン臭化水素酸塩)、メマリー(メマンチン塩酸塩)、リバスタッチパッチ・イクセロンパッチ(リバスチグミン)です。これらは認知症の中核症状を改善するための薬なので、まとめて「中核薬」と呼ばれることもあります。

そもそも医師にとっての治療とは、病気の根本原因を取り除き、患者さんを完治させること。そのため、認知症治療において中核症状の改善を目指すことは、アプローチとしては正しいと言えます。ところが、先ほど述べたように、一度萎縮してしまった脳組織は元に戻らないし、死滅した神経細胞も生き返りません。つまり、認知症を完治させることは初めから不可能なのです。

そして、中核症状が完璧に改善されない以上、「認知症は治せない」という結論に達せざるを得ません。そう言われてしまうと、認知症の患者さんもご家族も救われませんよね。

みんなの介護 絶望的な気持ちになると思います。

河野 一方、市井(しせい)の診療医であり、認知症専門医でもある私は、周辺症状の改善を重視しています。なぜなら、先ほども述べたとおり、介護しているご家族が本当に頭を悩ませているのは徘徊や暴力など、周辺症状のほうですから。

例えば、介護する人に対して怒鳴りまくっていた患者さんが、穏やかな笑顔で「ありがとう」と言ってくれるようになったとすれば、それは「改善した」ことにならないでしょうか。あるいは、ほとんど寝たきりになってしまっていた患者さんが、再び自分の足で歩けるようになったとすれば、それは「改善した」と言えるはずです。

私にとって「認知症を治す」とは、できるだけ「その人本来の姿に戻す」こと。そうすることで、患者さんやご家族の苦しみを少しでも取り除くことです。たとえ中核症状が進行していったとしても、周辺症状を治療で抑えることができれば、患者さんも介護する人も穏やかに生活することができます。また、周辺症状を抑えることで、中核症状まで改善されるケースもしばしば見受けられます。

みんなの介護 河野さんの実践している治療法は現実的なんですね。

河野 治療はより現実的であるべきです。現実に困っている人がいるのですから。私に「認知症は治らない」という発想はありません。どんな患者さんでも必ず治す。その信念がなければ、認知症を治すことはできないと思います。

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