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星野リゾートの新ブランド・OMOが提供する「不親切サービス」に込められた戦略 - 森山祐樹(中小企業診断士)

2018年の星野リゾートに、4つ目のブランドとなる新しいコンセプトホテル「OMO」が加わり話題を呼んでいる。新しいブランドは、旅のテンションを上げる都市観光ホテルとして、北海道の旭川、東京の大塚にオープンした。ホテル業界で斬新な経営手法により成長を続ける星野リゾートの、新たな戦略を解き明かしてみたい。

■OMOブランドとは

新ブランドであるOMOのコンセプトは、「旅のテンションが上がる都市観光ホテル」である。これは観光地に訪れる観光客が、価格帯や利便性の観点からビジネスホテルを利用している層が少なからず存在し、その観光客から旅のテンションが下がるという意見をもとに、そのニーズに応えるべく導入された新ブランドである。

そのためOMOがターゲットとする主な層は都市部を訪れる「観光客」だ。これまでビジネスホテルに価格、利便性、代替品がないなどの理由で仕方なく利用していた「潜在的な非顧客層」である。(潜在的な非顧客層とは、仕方なく既存サービス・商品を利用しているが、優れた代替品を待ち、代替品の登場があればすぐにでも乗り換える層)

OMOはこれらのターゲットに対し、フレンドリーなサービス、地域のディープな魅力をレンジャーと呼ばれるメンバーが案内するサービス、リーズナブルな価格、日本文化をふんだんに取り入れたデザイン志向の部屋等、特徴的なサービスを提供している。

特に、ディープな魅力を発信するレンジャーの案内サービスは、これまでのビジネスホテルにはない斬新なアイディアである。ガイドブックにはない地域のお店やスポットへ無料~1,000円/2hで案内してくれ、選択肢にはおさんぽ、グルメ、酒、ナイトカルチャー等がある。しかしこうしたジャンル以外のリクエストは受け付けておらず、レンジャーのおすすめするスポットを案内する独特のサービスである。

その他、チェックインは機械で自動、パジャマや浴衣は部屋に備え付けられておらず、必要な場合は有料レンタルを利用する。ランドリーもホテル内に設置されており、長期滞在にも対応している。

また、部屋の入り口では、日本文化の特徴を出し、靴は脱ぐよう設計されている。部屋のサイズは通常のビジネスホテルとあまり変わりはないが、ビジネスで必須のデスクはなく、ロフト的に2段造りとすることで、部屋の使用面積を拡大し、上部に布団、下部にソファを用意しており、所々に日本文化の体験ができる仕掛けが詰め込まれている。

■OMOブランドの戦略~OMOブランドは何を捨てたのか~

このようなOMOブランドには、斬新なアイディアの背景に、強烈な戦略が隠されている。まず戦略の柱は、星野リゾート共通である日本文化の体験である。星野リゾートは、ブランドごとのコンセプトを明確にし、そのコンセプトに基づくサービスのみを提供している。言い換えれば、顧客の要望に応じた柔軟な対応はせず、決められたサービスを求める顧客のみをターゲットとする戦略をとっている。(「星野リゾートとリッツカールトンの戦略の違いとは」参照)OMOブランドで、パジャマや浴衣を部屋に常備せず、有料としたのも顧客ニーズから発想する考え方からは思いつくことは困難な施策である。

OMOブランドの戦略は、ホテル業界の常識であるサービスにメスを入れ、複数の施策が一貫したストーリーにつながっている。まず、OMOブランドは忙しいビジネスマンをターゲットから捨てた。ホテルでは顧客からの様々な要望の中で、純粋なビジネスマンに限らずデスクが欲しいというニーズは少なからずある(観光客でも、PCを広げたいなどの要望もあろう)ため、基本的には部屋にデスクを設置するケースが多い。

しかし今回のOMOブランドでは、それらのニーズを持つ顧客をターゲットから明確に排除することで、その分のスペースを新たなサービスへ展開(ソファを設置し、エキストラベッドの機能も備え、1部屋3名の宿泊にも対応等)し、純粋な観光のみを目的とする顧客にターゲットを絞っている。

2つ目に、OMOブランドは、ホテルには常識的にあるレストラン機能を捨てた。OMOでは、周辺の飲食店が営業をしていない朝食時間帯のみ食事を提供するが、ディナーやアルコール、ルームサービス機能は基本的に排除している。ここには、ディナーやアルコール等は、周辺地域の飲食店を体験してもらいたいとの想いの表れであり、顧客ニーズの有無にかかわらず、自らのブランドには不要であるとの割り切りが存在する。

特に、自社の敷地内にいる顧客に対し、競合のないレストランで単価の高い飲食をすすめることはたやすいであろうし、ビジネス的観点からいえば顧客ニーズに応え、収益を上げることができる合理的な手法であるはずである。その他にも、会議室、宴会場、ブライダル機能も持たず、それらのスペースは全て客室に回されている。様々な機能を配備し、顧客のニーズに対応できる体制をとることは一見すると非合理的な施策ではあるが、全体としては合理的な戦略ストーリーにおける重要な構成要素になっているのである。

3つ目に、OMOブランドは顧客ニーズへの対応を捨てた。OMOでは、前述の通り、パジャマや浴衣は部屋においておらず、有料サービスとして提供している。顧客からはサービスに含めてほしいという声が上がることは明らかであるにも関わらず、有料化に踏み切った。

また、地域の魅力を紹介するレンジャーズは、「お客様からの要望は受け付けず、レンジャーのおすすめする場所へお連れする」としており、顧客の希望を聞いての対応ではなく、地域の良いものはこれです、とあたかも押し付けるかのようなサービスを展開する。これも顧客ニーズへの対応を捨てた代表例であろう。

これらも、一見すると顧客に対し不便かつ、顧客満足度を下げそうな施策であり、経営としては非合理的なサービスに見える。では、なぜこのようなサービス展開を行っているのだろうか。

■全ては低価格実現のため、すなわち観光客のため

前述のOMOブランドが「捨てた」様々なサービスの全ては、都市部に訪れる観光客が利用しやすいよう、低価格を実現するためであると思われる。ビジネスと異なり、自らの財布で旅行をする観光客に潤沢な資金はなく、様々な体験や訪問の経済的負担が大きい中で、宿泊費の負担をできる限り低減することで、観光を促進することが、OMOブランドに課せられた使命である気がしてならない。

都市部を訪れる観光客をターゲットと定め、業界の常識をも捨て、ターゲットに不要なサービスを全て削ぎ落すことで、極限までコスト削減を実施する。それにより、星野リゾートにも関わらず日本文化の体験を、観光客でも利用できる価格帯で提供する。都市部へ訪れる観光客という層をさらに広げ、自社のみならず、堅調な観光ビジネスを盛り上げる大きな一手が、このOMOブランドには隠されている。
 
一見すると不親切な施策も、ブランドとして、星野リゾートとしては、全体として合理的となる秀逸な戦略がここに存在している。日本の観光業が、星野リゾートとともに、さらなる発展を遂げることをこれからも願わずにはいられない。

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