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- 2012年03月08日 09:14
特集・震災から1年「NPO・ボランティアを支援せよ」日本財団笹川会長インタビュー後編
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日本財団・笹川陽平会長(撮影:野原誠治) 写真一覧
――日本財団は普段どのような活動をされているのでしょうか?
笹川:アジア最大の民間の財団でございます。特に世界的には、人材養成に力を入れています。子供から高等教育に至るまで支援をしています。また、障害者も大学に行くチャンスがない場合、世界的に能力のある人は大学・大学院に行って勉強して頂く。それぞれの国の指導者になって頂きたい。
アジアではミャンマー、カンボジア、ベトナムなどの小学校から大変幅広くやっています。南米の日系人の優秀な人に日本に来ていただいて勉強してもらう。そのようなプログラムも立ち上げています。
21世紀の後半は海洋の時代ですから、海洋の人材を養成しているのは世界で私たちの財団だけの特徴です。食料増産。これから食料が不足していきます。中国も食料を輸入しております。アフリカでは25年も現地の農民を対象に生産効率をあげるための農業を指導しております。
昨年はビル・ゲイツ財団からも5億8,000万円頂戴いたしておりました。農業の生産性をあげる活動ですね。私のライフワークとしては、世界からハンセン病を制圧する活動です。来年の後半くらいにはブラジルでもそうなるように思っています。
国際的にはそのように非常に多様な活動ですね。私自身が言うのは変ですが、著名な人道活動をしている組織として評価を受けております。国内的にはご承知のように、高齢社会の到来を予想して、老人を中心とした福祉を行なっております。
身体的障害・知的障害・精神的障害といろいろありますが、いわゆる社会的弱者と言われる人たちへ手を差し伸べるというのは私たちの仕事でございます。特に近年、1000兆円を超える財政赤字の中で、国も地方財政も疲弊しきっております。セーフティネットから落ちこぼれてしまう人がどんどん増えております。
最近では、餓死者が出たとニュースで報じていました。それらを救い上げていくというのが私どもの今後の活動であります。そのためには、ソーシャルイノベーション、社会を変革するということが日本財団のメインテーマです。
私たちだけで社会が変えられるとは思っておりません。皆さま方もその一員でいらっしゃいます。きっかけを作り、発言し、行動する。ということが大事であります。発言だけでもダメですし、行動だけでもダメです。その両方を積極的にやっていく。
そのためには、社会の小さな動きでも敏感に汲み取れるようにきちっと五感を鍛えあげて、これが非常に大きな問題になりそうだということを、感じてもらうようにして頂きたい。私は、職員と火曜日には朝2時間、夕方2時間、震災後は毎日朝8時から2時間ずつ問題をみんなで探し合って解決する。ということをやっています。
私は今でも昼ごはんは、職員5、6人ずつで月曜から金曜日まで一緒に食べます。いろいろな問題を若い人から提起していただいて、それを選択して事業に活かしていきます。そういうことが実って東日本大震災では東北にいらっしゃるとわかるのですが、日本財団の職員が現場でとても役立っていると評価をいただいております。
――塩釜市の浦戸諸島へ取材に行った時、たまたま支援物資を船で離島に配る船に乗せて頂きました。支援物資は日本財団から提供されたと聞きました。
笹川:私ども、ご承知のように、阪神淡路大震災以来29回、地震、水害、油流出事故などの災害に出動しております。そういう意味でのノウハウ。初動の重要さ。積極果敢にスピードを持って行動する大切さというものがわかっておりました。
南北300キロにわたる広範囲な災害を経験したのは、私たちも初めてのことでございます。やはり我々は現場第一主義ですから、みんな現場に入って、刻々と情報をあげてくれます。
こういっちゃあ口はばったいですが、政府の動きよりも、日本財団の動きの方がはるかに早く行動をとれたと思います。例えば、臨時災害FM放送局というのは19局(手続き中3局含まず)立ち上げました。
本当ならこのようなことは政府がやってしかるべきです。ほとんど情報が流れません。ご承知のように電気が点きませんし、テレビも点きませんので。避難所に入っている人は、ある程度情報が入りますが、それ以外にもたくさんの人がいます。一階は泥で埋まっているけれど、二階でなんとか生活できるというような方もたくさんいました。ただ、放送局を立ち上げるだけでは情報を収集出来ませんので、車も提供しました。
そして、市役所に行ったりどこそこに回って、今日はどこどこで炊き出しがあります。どこそこに行けば医療品が頂けます、食料品はここですといった情報ですね。こういうことを放送しないと、通じないわけです。
そういう活動、あるいは長い間努力してきて、例えば、震災がつなぐ全国ネットワークという我々の仲間がいます。彼らは宮城県だけでも700ヶ所近い避難所をずっと定期的に回っていました。例えば震災一ヶ月目でミルクの配布率が8パーセント、というようなデータを掴んでですね。あるいは、現地の人口推計から妊娠中の女性が5,000人~6,000人いる。
これをどのようにして安全に出産させるか。というようなものも、我々はすぐに対応できます。しかも総合的にですね。避難所の中でも我々が調査に入っています。障害者を抱えているご家庭は、夜中に奇声をあげたりですね、暴れたりというような方も中にはいらっしゃいます。
避難所の中の生活が難しい方のために、急いで障害者のためだけの施設を作るとかですね。私は一番恐れていたのは、タイガーマスク現象と名付けたのですが、多くの国民のみなさんが同情とともになんとか参画したいという気持ちですね。
一つは、僕たちは何もできないけれども、金銭的に寄付しよう。この人たちの気持ちを日本赤十字社は見事に裏切ったわけでございます。3,400億円ものお金が、6ヶ月以上も放置されてしかもどこでどう使われたかも未だにわからないという状態です。
この憤りは、私がブログで、義援金と支援金は違う。今必要なのは、NPOを支えないと何も現地では進まないと訴えました。ご承知のように、災害の初期段階は自衛隊・警察・消防の活動範囲でまずは人命救助ですね。これが終わった途端に、NPOが入らないといけないんです。ボランティアの方々ですね。
この人たちに対する支援金というのは、ほとんど出ないのです、実は。日本財団は700ほどの団体に対して初期段階はやったわけです。企業もいろいろと出して下さいました。しかし、ご承知のように現場の行政は麻痺しています。そこにどーんと荷物が到着します。
それを管理する人は誰もいないんですね。被災地では27万台もの車が流されています。市役所にモノが届いたとしても、そこから避難所や各家庭にどうやって配るかについては何も考えていないわけです。
ましてや、命が救われるという生存権が確保できる、3日、4日間くらいは、三食カップラーメンでもいけますが、正直申し上げて長ければそれだけ鼻につくわけです。それが3ヶ月経っても被災地食料(カップラーメン)というのがたくさん届いてくる。
みなさん、自分が良いことをしているという思いです。それを私はタイガーマスク現象と言います。みんな良いことしているのですが、じゃあ結果も良かったかというと、全然別個の話です。