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内田樹 リスクを取る覚悟――書き手・編集者に求められるもの

言論界に問われていること

 『新潮45』をめぐる騒動は現在の言論界の問題点を露わにしました。『新潮45』が休刊になったからといって、この問題が終わったとは言えません。『Hanada』最新号には小川榮太郎氏が独占手記を寄せており、まだまだ問題は続くように思います。我々はこれを機に、言論とは何かということを改めて考える必要があるのではないでしょうか。

 ここでは弊誌11月号に掲載した、内田樹氏のインタビューを紹介します。全文は11月号をご覧ください。

月刊日本2018年11月号
posted with ヨメレバ
ケイアンドケイプレス 2018-10-22

『新潮』事件の元凶

―― 内田さんはかつて『新潮45』に巻頭論文を寄稿したこともありますが、今回の騒動をどう見ていますか。

内田 今回の事件で最も深刻なのは、問題を起こしたのが権力の近くにいた人たちだったということです。安倍政権下では、閣僚も議員も6年近くさまざまな失言・暴言を垂れ流してきました。でも「ナチスの手口に学べ」というような信じがたい暴言を吐いた大臣も何のお咎めもなかった。だから、「為政者の意に沿う限り、どれほど非常識で非道なことを言っても処罰されない」という確信が今の日本社会には広く流布されてしまった。今回の事件はそのような規律の緩みがもたらしたものだと思います。

 『新潮45』は毎月送られてくるのですが、最近は手に取る気がせずに、そのまま捨てていましたけれど、今回の騒動で久しぶりに手に取りました。読んで驚いたのは、問題になっている杉田・小川「論文」の気の抜け方でした。別に、特に世間の良識を逆撫でして、社会問題を起こしてやろうというような覚悟を以て書かれたものではないことに逆にびっくりしました。肩の力が抜けた、カジュアルな調子で、「政治的に正しくないこと」がさらさらと書かれている。この「論文」の書き手たちには、LGBT問題について国際的に認知されている「常識」を真っ向から否定することがある種の政治的リスクが伴う行動だという緊張感がなかった。この緊張感のなさが今の極右論壇の際立った徴候だと思います。

 それはこれらの執筆者たちが日ごろ「何を書いても、何を話しても拍手喝采してくれる人々」を対象に発信しているということをはしなくも露呈しています。落語では「アマキン」と言いますけれど、芸人が何をしても大受けしてくれる甘い客のことです。アマキンは寄席にとってはビジネス的にはたいへんありがたい存在ですけれど、すぐに芸が荒れるので芸人は強い警戒心を持たなければならない。それが芸道の常識です。

 今回の筆禍事件では「論文」の「コンテンツ」の悪質さが問題になりましたけれど、僕はそれ以上に「文体」のずさんさ、芸の荒れ方に胸を衝かれました。 

 言論で生きる人間が自説を世に問う時には「自分が言わなければ誰も言う人がいないこと」を選択的に言うべきだというのが僕の考えです。自分が黙っていても、「似たようなこと」を言ってくれる他の人がたくさんいるのであれば、あえて自分にあたえられた機会をそのために使うことはない。それより「自分しか言う人がいないこと。自分が黙ったらこの世から消えてしまうかもしれない知見」を語るべきだと僕は思います。

 でも、申し訳ないけれど、『新潮45』からは、「自分たちがこの記事を掲載しなければ、他にそれを伝えるメディアが存在しない」というようなひりひりした使命感はまったく感じられなかった。似たような記事を掲載している似たようなメディアは他にいくつもある。ネットまで勘定に入れれば「似たような言葉」はほとんどどこでも読むことができる。

 世の中に流布している「政治的に正しい言説」に挑戦することに僕は反対しているわけではありません。僕自身これまで「政治的に正しくない言説」をしばしば述べてきたからです。定型的なものの見方に異を唱えて、言論の場の風通しを良くするために、それはぜひとも必要なことだと思うからです。でも、あえて世間の良識に逆らってものを言う以上、きびしい反論を受け、場合によっては信頼関係や仕事を失うリスクは勘定に入れなければいけない。僕はリスクを取って書いています。

 でも、『新潮45』の場合、書き手にも編集者にも「リスクを取る覚悟」が感じられなかった。編集者たちがこのような「異論」を世に問うことが必要だと考え、それに使命感を覚えていたのであれば、「あまりに常識を逸脱した偏見と認識不足に満ちた表現が見受けられました」という社長声明が出た時点で、辞表を懐にして社長と対決してよかったはずです。少なくとも、公の場に出てきて社長声明に反論し、雑誌と執筆者の「名誉」を守ろうとしたはずです。それが「政治的にリスクのある記事」を掲載した雑誌の編集者としての筋目だと思う。

 それができないというのは、それだけの覚悟がなかったということです。深い考えもなく、「炎上上等」くらいのカジュアルな毒気に駆られてこんな記事を掲載してしまって、反響の大きさにびっくりしている。この「平常時の感覚」で「異常なこと」をしている気の抜け方に僕は驚かされました。……

街場のメディア論 (光文社新書)
posted with ヨメレバ
内田 樹 光文社 2010-08-17

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