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医学部入試差別問題を考える:女子生徒の数学苦手意識は植え付けられたものである

某医科大学における入試時点の点数操作による女性や多浪生の排除が明るみに出たことは、いわばパンドラの箱を開けてしまった感がある。

今回の問題をきっかけに文科省が全国の医学部に過去6年間の男女別合格率の調査を行い、その結果が9月4日に発表された(画像)。それによれば、6〜7割の大学医学部で男性の合格率の方が高く、男女の格差がもっとも男性有利であった大学では1.67倍、平均では1.18倍の開きがあった(ちなみに筆者の所属する東北大学は1.13で平均よりはベター)。

日経新聞:医学部合格率、男子優位6~7割 文科省の全国調査(2018.9.4) [画像を元記事で見る]

「女性の比率を下げたいなら、数学や理科系科目の配点を大きくしたり、問題を難しくすれば良い」という話は確かに聞いたことがある。基礎医学系の科目を勉強する上でも、未来の医療をつくるためには理系科目は必須であることは間違いない。だが、性差に基づく医療の推進、我が国の医療の質の向上のためには、女性の参画はもっと進むべきと思われる。女性医師の方が患者を死亡させにくいというデータもある。(あるいはメディカルビジネスとして医療ツーリズムをイスラム圏から受け入れる際には、女性は女性医師に診察を受ける必要があるので、女性医師の確保が必要なども)。

ところで、本当に我が国の女子生徒は理数系が弱いのだろうか?

義務教育の終了段階にある15歳の生徒を対象としたOECDによる代表的な国際的学力調査(PISA:生徒の学習到達度調査)が3年毎に行われており、文科省や国立教育政策研究所から公表されている。直近のデータは2015年のもの。

我が国の女子生徒の数学の平均点は、OECD諸国の平均より高い。国によって習熟度が異なるということは、生物学的な側面よりも、教育体制等の環境要因が影響することを意味する。

男女差について言えば、日本では平均値で男子の方が若干、高いものの、その差はOECD諸国の中では少ない方である。

今回の調査で注目すべき点は、学習や学力に関する意識に関わる性差との関係を調べた点にある。日本では、数学に対する不安を持つ者が女子に多く、また、女子は成績上位者であっても数学の学力に自信が無い者が多かった。高得点の生徒の中で数学に対する自信が同じだった者の間で比較すると、男女の得点差は見られなかった。

これは、すでに拙翻訳本『なぜ理系に進む女性は少ないのか?』(西村書店、2013年)の中で取り上げられている研究結果と合致する結果である。「数学は天賦の才能である」と教えられると、女子生徒は自信を失い成績も悪くなるという調査報告が掲載されている。

我が国ではいまだに「女性は理系に向かない」という無意識のバイアスが、保護者だけでなく教師にも根強く、そのために本人も知らず知らずの間にそのように思い込む。「リカ」という名前なのに理数系が苦手というキャラクター設定の人形で遊び、「アインシュタインよりディアナ・アグロン」という歌に疑問を持たないように育てられる。

「無意識のバイアス」に関連して、過日、10月11日の国際ガールズ・デーに絡んで、英国の女優エマ・ワトソンの「発言」がウェブ上で拡散された。曰く「女の子がやってはいけない一番悲しいことは、男性の為に頭の悪いふりをすることです。」

どうも実際に彼女がそのように言ったログが取れないということだが、BuzzFeed Newsの解析によれば、この元々の発言に相当すると思われるのは、2006年にオクスフォード大学の学生弁論団体で講演した内容とのこと。当時、映画ハリー・ポッターのクールなヒロイン、ハーマイオニーを演じるときに大事にしていることとして、以下のように記録されている。
‘She bosses the guys around’ and makes having a ‘brain not beauty cool.’ Although ‘slightly socially inept’ Hermione is ‘not ashamed of herself.’ Emma says that the saddest thing for a girl to do is to dumb herself down for a guy. Hermione wouldn’t do it, so neither should anyone else.
この最後の方の部分が取り出され、”The saddest thing for a girl to do is to dumb herself down for a guy.”というエマ・ワトソンの「名言」として拡散されたらしい。

女の子たちは小さい頃からこのように「算数が得意だ/理系だとわかったら、嫌われるかも……」という呪縛に囚われがちなのだ。理系進学の先は医学部だけではないので、理学、工学、農学、生命科学等への女性参画も考慮すると、この問題の及ぶ範囲はきわめて大きい。

そもそも、日本の大学受験における「理系・文系」の起源は、どのくらい前まで遡れるのだろうか? 東京大学の理科/文科I、II、III類という区分は極めて象徴的だ。「自分は女性だから理系に進学しない方が良いのでは?」という判断は、女性のキャリアパスを大きく制限することになり、ひいては、本来持っていた能力が社会で活かされなくなってしまうだろう。同じことは、女性が「リーダーになることを避ける」傾向についても然りである。

冒頭の話題に戻ろう。医学部入試時点で女性受験者が不当に差別され、代わりに能力の劣った男性が入学したのであれば、国民の医療のレベルに影響が生じえた可能性がありえる。ただし、医療従事者の働き方を改善しなければ、ただ女性の入学者を増やしても駄目であることは言うまでもない。

*****ちなみに、今週は土日ともに出張だったのだが、本日の講演は新潟県歯科医師会会館にて女性歯科医師支援の講演会。脳とアブラについての話題に加えて、上記のような無意識のバイアス等についても話した。

また、10月26日(金)には、緊急に日本学術会議主催でシンポジウム「医療界における男女共同参画の推進と課題〜日本学術会議幹事会声明を踏まえて〜」が開催されていた。この資料や報告書が公開されてほしい。

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