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特集:米中は貿易戦争から新冷戦へ

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本誌が今年 7 月 6 日号で、「米中貿易戦争の開戦前夜」というテーマを掲げたときは、「高関税政策だからと言って、貿易『戦争』とまで言い切っていいのだろうか」と内心では躊躇したものです。それが今月になってみると、「これはもうただの『貿易』戦争と呼ぶのでは、生ぬるいのではないのか」と正反対に感じるほどになっています。

今の米中関係は、むしろ「新冷戦」と呼ぶ方がふさわしいように思われます。なぜそんなことになったのか。米中の双方に理由があるのでしょうが、この対立は中間選挙目当ての一時的な現象ではなく、相当に長引くと考える方がよさそうです。日本外交の舵取りも、これから先はかなり困難なものになるのではないでしょうか。

●ペンス副大統領の「中国叩き」演説

まずは 10 月 4 日、マイク・ペンス副大統領が行った「対中政策演説」(Administration’s Policy Toward China)から話を始めなければならない1

この演説が行われたハドソン研究所と言えば、ワシントンにある保守系シンクタンクの中でも特に「反中色」が強いところである。「100 年マラソン」で知られるマイケル・ピルズベリー氏が所属するところ、というと通りがよいかもしれない。同氏の著書『China 2049』は、中国が建国 100 周年に当たる 2049 年までに世界の覇権国になる野望を持っている、と指摘したもの。ペンス演説は、冒頭部分で客席のピルズベリー氏に声をかけているし、同氏のコメントも引用している。

ペンス演説は、約 40 分間にわたって「中国叩き」を行っている。取り上げられている 「罪状」は広範囲にわたる。目立つところを抜き書きすると以下のようになる。

* 中国共産党は関税、クォータ、通貨操作、強制的技術移転、知的財産の窃盗(Theft)、産業補助金などの政策を使って、世界第2位の経済となった。

* 中国の船舶は尖閣諸島周辺を巡回している。南シナ海の人工島にミサイルを配備した。今週は米海軍の駆逐艦に対して異常接近をしている。

* 米国の技術の助けも借りて、類例のない監視国家を築いている。「グレート・ファイヤーウォール」と呼ばれる検閲は、中国人民の自由な情報の流れを規制している。

* キリスト教、仏教、イスラム教徒などを迫害している。過去10年に150人以上のチベット僧侶が焼身自殺した。100万人のウイグル人を投獄し、思想改造を行っている。

* 「借金漬け外交」(Debt Diplomacy)を使って影響力を拡大している。スリランカやベネズエラを見よ。中南米の国に対して台湾との断交を迫っている。

* 米国の民主主義(含む中間選挙)にも干渉している。これに比べれば、ロシア人の工作などたいしたことはない(→ロシア・ゲートを小さく見せたい?)

と、この辺までは想定の範囲内だが、以下の部分などは「え、そんなことまでやっていたのか」と少し呆れるところである。
And Beijing routinely demands that Hollywood portray China in a strictly positive light.

It punishes studios and producers that don’t. Beijing’s censors are quick to edit or outlaw movies that criticize China, even in minor ways. For the movie, “World War Z,” they had to cut the script’s mention of a virus because it originated in China. The movie, “Red Dawn” was digitally edited to make the villains North Korean, not Chinese.
つまり彼らは、ハリウッドに圧力をかけて、「中国を善く描くよう」に要求しているというのである。『世界戦争 Z』という映画では「中国が原産のウイルス」、という設定を変えさせられたし、『赤い夜明け』という映画ではデジタル処理を施して、犯人役を中国人から北朝鮮人に変えさせられた、とのこと 2

この辺は「シャープパワー」というよりは、単なるモンスター・クレイマーのようなものだが、いかにも中国の横暴さが伝わってくるエピソードである。他方、デルタ航空のウェブサイトに「台湾」という表記があったことで抗議を受けた、という指摘は、日本企業であれば日常茶飯事なので、「今ごろ何を言っているのか」という気もする。

さらに、「卒業式で中国人留学生が米国の自由を賞賛したところ、中国版 SNS で非難の対象となり、その家族までもが嫌がらせを受けた」とか、「中国にとって好ましからぬ講演者を呼んだ大学は、後から大規模なサイバー攻撃を受ける」といった事例も紹介されている。中国の影響力は、アカデミズムの現場にも浸透していると考えると、なかなかに背筋が寒くなる事態と言えよう。

●「対中冷戦」を宣戦布告したものの…?

しかしこのペンス演説、中国を批判する部分はいいのだが、米国がどのように対応していくのかという解決策についてはあまり語っていない。強いて言えば、トランプ大統領をヨイショしつつ、以下のようなポイントについて軽く触れている程度である。

1. 防衛費を増額し、宇宙やサイバー空間で能力増強を図る
2. 対中制裁関税を実施し、さらに倍増させる用意がある
3. 自由で開かれたインド太平洋地域の国々と連携する
4. CFIUS(外国投資委員会)を強化して、中国の投資を監視する

だからと言って、このペンス演説を「単なる選挙目当ての思い付き」と受け流すことも適切ではない。昨年末に公表された国家安全保障戦略などを引用しながら、総合的な対中政策の転換を表明しており、時間をかけて作られたことが窺える。もしも来月、東アジアサミット(シンガポール、11/14)や APEC 首脳会談(ポートモレスビー、11/17~18)に代理出席するペンス副大統領が、中国首脳がいる目の前でより具体的な対抗策について述べるとしたら、その場の緊張は相当なものになることだろう。

この演説を受けて、ウォルター・ラッセル・ミード教授は、「第 2 次冷戦が始まった」「1971 年のキッシンジャー補佐官訪中以来の米中関係の転機」と評している3 。ミード教授と言えば、トランプ政権を「ジャクソニアン」と位置付けている政治学者だが、同じジャクソニアンとされるレーガン大統領の「対ソ演説」に喩えている点が興味深い(The speech sounded like something Ronald Reagan could have delivered against the Soviet Union: Mr. Xi, tear down this wall!)。

それからグレアム・アリソン教授は、「事実上の対中冷戦布告」と呼んでいる4 。アリソン教授は以前から、「トゥキディデスの罠」という構図で米中衝突の可能性に警鐘を鳴らしていた。「自分が言った通りだ」と誇っても良さそうなところだが、この記事は全体に暗いトーンで書かれている。

すなわち米国は、①中国と立ち向かうという戦略を取りつつも、中核となる戦略文書(対ソ冷戦の青写真となったジョージ・ケナンによる長文電文のようなもの)を欠いており、②中国経済は巨大であって、多くのアジアの国にとって最大の貿易相手国であり、③同盟国や国内の支持を集められるかどうかに不安がある、という。

ゆえに最後の一文は、”We should be worried, too.”で締められている。 なみに今週号の”The Economist”誌が、それとほぼ同工異曲のコラムを掲載しているので、抄訳を本号 7p に掲載しておいた。ご参照願いたい。

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