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サウジ記者殺害事件 ムハンマド皇太子との「蜜月」から一斉に引いた欧米諸国に感じる違和感

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共同通信社

サウジアラビアの著名ジャーナリストの殺害をめぐり、果たして同国の実権を握るムハンマド皇太子(33歳)がどれほど関与していたのかが、最大の山場となってきた。

これまでの報道では、トルコ人女性と結婚するためにトルコ最大の都市イスタンブールのサウジアラビア総領事館を訪れたジャーナリスト、ジャマール・ハーショグジー(ジャマル・カショギ)氏は、皇太子の側近を含む「実行犯グループ」によって殺害され、その「遺体は切り刻まれた」(トルコ政府筋)と言われている。何と残酷で、痛ましい最後だろうか。

当初はハーショグジー氏が総領事館を無傷で出たと説明してきたサウジ政府は、最近になって、同氏が「館内の職員と殴り合いになって死亡した」と認めた。政府高官はサルマン・ビン・ムハンマド皇太子が命令したのではなく、実行部隊が「勝手に」行動したという。

記者死亡は「殺人」……サウジ外相が認める 皇太子の指示は否定(BBCニュース)

サウジアラビアでは今でも公開処刑が行われる

Getty Images

ハーショグジー氏はサウジの政策を批判し、国外に出ざるを得なくなったジャーナリストだ。生前は米ワシントンポスト紙のコラムニストとして活躍してきた。

誰の指令で殺害が行われたにせよ、ジャーナリストの死には「言論の封殺」という面が見え、世界中に批判が広がった。「サウジアラビアの強権政治が生んだ蛮行」、「体制に批判的な言論の弾圧は、到底許されない」(読売新聞の社説、10月22日付)という表現が各国政府の批判の肝をよく表している。

しかしながら、一斉に吹き出したサウジ批判に筆者は若干の違和感もある。

ハーショグジー氏殺害事件の少し前まで、ムハンマド皇太子は「改革派」として欧米社会で大きな期待をかけられた人物だった。それが180度変わって、今度は「100%悪い人物」になってしまった。

もちろん、政府批判の著名ジャーナリストが間接的にでも国が関与した形で殺害されたとなれば、犠牲がたった一人であったとしても「怖くて物が言えない」雰囲気を作り上げるのに十分だ。脅し効果は非常に大きい。

しかし、「ジャーナリストの殺害」+「言論の封殺」ということで批判するのであれば、対象になりそうな国は他にも複数いそうである(ここでは詳細しないが、例えばロシア、そして大量のジャーナリストを「テロリスト容疑者」として逮捕し、投獄しているトルコなどが思い浮かぶ)。

また、サウジアラビアはもともと民主主義国家ではなく、言論の自由が広く保障されている国でもない。さらに公開処刑が行われている国でもあり、死刑を廃止している欧州各国からすれば「残酷な」制度を実行してきた。

こうした点を考え合わせると、 ことさらハーショグジー氏の殺害が今回これほど世界中で大騒ぎになっている背景には複雑な中東政治の絡み合いやサウジ国内の政争といった要素があったと思われる。欧米諸国とムハンマド皇太子の「蜜月」とその急変を辿ってみた。

ムハンマド皇子が作った新しいサウジアラビア像

Getty Images

サウジアラビアは18世紀頃から現在までサウジ王家が支配してきた。国名はアラビア語で「サウド家のアラビア」、正式な建国は1932年である。国民は厳しいイスラム教の宗派ワハビ派の戒律を厳守することになっている。

ムハンマド皇太子(「ムハンマド・ビン・サルマン」のアルファベット表記の頭文字を取って「MBS」とも呼ばれる)は1985年8月31日生まれ。当時皇太子だった父サルマン・ビン・アブドウルアジーズの長男である。

首都リヤドのキング・サウジ大学で学士号を取り、政府機関で働いた後、2009年にリヤド州知事だった父の特別顧問となった。

父サルマンが2015年に国王兼首相なると、息子ムハンマドを国防大臣や他の重要な職に就かせた。

しかし、ムハンマド皇太子が欧米で「改革派」と見なされるようになったのは、サウジアラビアの近代化構想だった。

「ビジョン2030」と呼ばれた一連の経済・社会改革案は、世界最大の産油国サウジの「石油収入からの脱却」を目指すものだった。そのためには石油外の収入を大幅に増やすと共に、国営の石油企業「サウジアラムコ」の株を一部民間化し、3兆ドル規模の政府系投資ファンドを発行することを計画した。政府系投資ファンドとして世界最大規模だ。

教育課程の変更、女性の職場進出への支援、若者層を対象にした巨大娯楽施設の建築など、新たなサウジアラビアの夢を描いて見せた。

2017年6月、国王はムハンマドを皇太子として正式に任命した。皇太子はさらに経済や社会の開放化に向けて歩を進めてゆく。

まず、前年に決定されていた、官僚や軍隊勤務者に対する減収を中止。同年9月、女性の車の運転禁止令を今年6月から廃止するという発表がなされた。

この禁止令解除には皇太子の尽力があったとされ、「ムハンマド皇太子=改革派」というイメージはより強力になった。

筆者は、この頃、ムハンマド皇太子を改革者として捉え、好意的な文脈で紹介する論考を英メディアでよく目にした。

しかし、中には注意深い報道もあり「果たして額面通りに受けっていいのか」という疑問の声も出ていた。中東専門家や在英のサウジ出身の批評家の中には「まだ分からない」という人もいたが、サウジアラビアが欧米型の民主主義(選挙、法の支配、報道の自由、男女平等など)を実現することへの願望が強く、「改革を歓迎」という論調が支配的だった。

米英にとって、サウジアラビアは武器販売の大顧客であり、「テロの戦争」に勝つためのパートナーでもある(実際には、2001年の米大規模中枢テロの実行犯の大部分がサウジ出身であったにも関わらず)。この面からも、ムハンマド皇太子がこれまでと違う、新しいサウジアラビア像を描き、欧米が描くところの近代国家に向かっているという構図は都合が良かったに違いない。

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