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スウェーデンの「IT ガイド」――移民と高齢者が進めるインテグレーション - 穂鷹知美 / 異文化間コミュニケーション

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ヨーロッパでは2015年の難民危機以降、難民や移民と住民との間の摩擦や、移民に対する排外的な動きを扱う報道がとみに増えました。このような報道に日々接していると、ともすると、ヨーロッパ各地で移民と住民の間に緊張が高まっているような心地がしてきます。

しかし実際は、暴力沙汰や排外主義の強まりなど、先鋭的な動きは一部に確かにありますが、社会全体を見渡せば、大部分のセクターにおいて日々、地域住民と難民・移民たちは平穏に暮らしています。社会の「不協和音」にばかり目を向けていると、社会全体の潮流への理解や大局的な視点が弱まる危険があります。

ただし移民のインテグレーション(社会への統合)は、自然発酵するかのようにレッセフェールで順調に進行していくというものではありません。むしろ、そうならないケースが多くあり、それらを教訓にして、今日、ヨーロッパ中(とくに西ヨーロッパ)に共通するインテグレーションへの基本姿勢や対応策ができ上がってきたと言えます。

今日、ヨーロッパのインテグレーションにおいて、以下の二点が共通する特徴になっていると考えられます。まず、異なる社会的・文化的背景をもった移民たちが、社会のなかで役割を担いながら共存していくためには、移民側と受け入れ側両者において理解と労力が必要で、そのためには一定の時間がかかるという理解を前提としていること。

二つ目は、それらを踏まえて、(国から割り振られるなどして)移民の初期、中期的な受け皿となる自治体や地域社会では、官民協働で様々なかたちの支援のためのプログラムを実施し、積極的にインテグレーションに関わっていることです(インテグレーションの取り組みの概要については、別稿(穂鷹、2016)をご参照ください)。

今回は、近年、自治体が支援する難民のインテグレーション・プロジェクトとして高い評価を受けている、スウェーデンの「ITガイド」プロジェクトを紹介します。このプロジェクトでの、移住先の社会で活路を見出そうとする人々への具体的な支援や地域社会の住民との交流をみていくことで、ヨーロッパでの移民をめぐる状況を、時事ニュースとは別の角度から捉える機会になればと思います。

※以下のレポートでは、「移民」を、他の国から来て、一定期間、ある国に居住する人全般を指すものとします。この意味で「難民」として入国した人々も、「移民」の範疇に含まれています。

※「インテグレーション」にはシステムの統合や、統合教育など複数の意味がありますが、ここでは、移住者の移住先の社会での平和的な共存や統合という意味でのみ使用します。


スウェーデンのITガイド

「ITガイド」というプロジェクトは、夏季休暇を利用してなにか仕事がしたい、という難民の若者からの相談をルンドベリGunilla Lundbergが受けたのがきっかけで始まりました。相談を受けたルンドベリは、相談に来た若者たちに、何かできるのか、と逆に聞き返し、コンピューターやデジタル機器には強い、という返答を得ます。そこで、ルンドベリは、コンピューターに関連する仕事を夏季休暇の間でも必要とする人がどこかにいないかと考えをめぐらせ、思いついたのが、難民が高齢者にデジタル機器の使い方を教えるという「ITガイド」だったと言います。

ルンドベリは、早速、2010年からエレブルーÖrebroという自治体で、難民の若者たちがスウェーデン人の高齢者たちにデジタル機器の使い方を有償で教える「ITガイド」の活動を開始します。難民の若者たちは、語学学校などの授業がない土曜日や語学学校の授業の後の時間に、図書館などの公共施設のインターネットカフェで、コンピューターやスマートフォンなどの身近なデジタル機器の使い方について教えるようになりました。

プロジェクトをはじめるとすぐ、難民側と高齢者側の双方において、このプロジェクトへの需要が高いことが判明します。そして、年々、賛同する自治体や支援する団体が増えていきました。2016年には国内10自治体で、現在は20以上の地方自治体で、このような制度が設けられており、ITガイドの数も2016年の80人 から約200人に増加しています。

ITガイドになることができるのは、スウェーデン語がある程度できるようになった、語学の上級クラスに在籍する17歳から22歳の外国出身の若者たちです。彼らは、コンピューターや携帯電話、タブレットほか、電器機器の使い方などのITの知識やチームワーク、また事業の運営についての基本的な知識を学ぶ30時間の研修プログラムを受講します。

このプロジェクトが、スウェーデン社会から評価を得るのにも、時間がかかりませんでした。プロジェクトがスタートして3年後の2013年に、スウェーデンのデジタル社会参加を奨励する大会で「Digidel」”People’s Favorite”賞を受賞し、2016年には、ベルギーのブリュッセルで開催されたthe Social Innovation Accelerators Network (SIAN) award最終候補にも選ばれました。今年2018年には、スウェーデンの優秀なインテグレーションの活動に毎年与えられている「スウェーデン・ドアオープナー賞」の候補にもなりました。


難民にとっての利点

このように、「ITガイド」プロジェクトは、スタートから10年もたたないうちに、インテグレーション・プロジェクトの成功例として各地に広がり、社会的にも高い評価もうけるようになったわけですが、ITガイドの優れた特徴を以下にまとめてみます。

まず、難民の若者たちにとっての(ITガイドになることの)利点についてみていきましょう。

・教えることによって、スウェーデン語の能力を高めることができる。

語学学校に通っていても、学んだ言葉を頻繁に使う機会は、最初はあまり多くありません。言葉がある程度できるようになれば、話す機会が増え、言葉がますます上達する好循環に入ることができますが、言葉があまりできないうちは練習をする場が限られるためです。

しかしITガイドという仕事では、定期的に話す機会が得られ、また正確な文章を介して事象を理解、伝達・説明する練習ができるため、語学の初心者にとって大変貴重な語学練習の機会を提供することになります。

・働いた分の収入が得ることがてきる。

ITガイドは有償の仕事で、多くの難民たちにとって、スウェーデンではじめて自分で稼いで収入を得る体験となります。自分で働きお金を稼ぐ経験は、異国からきてまもない若者たちにとって、新しい社会で生きていくための自信や誇りを少なからず与えると考えられます。

・仕事にやりがいが実感できる。

ITガイドの仕事では、高齢者の技術が上達したり、喜ぶ姿を直接目にすることができることから、自分(の仕事)が人の役に立っていうことを実感できます。また、現在、難民の二大出身国であるアフガニスタンやシリアなどから来た若者たちは、高齢者への敬意や高齢者を大事にする気持ちが強いと言われますが、そうだとすれば、スウェーデンという新天地でも高齢者を助ける行為にとりわけ満足感や喜びを感じるかもしれません。

・チームワークを通して、社会のネットワークを広げられる。

顧客である高齢者との交流や親睦だけでなく、組織の役割やほかのガイドスタッフとのつながりもまた、スウェーデン社会で人々とより広く複雑につながっていく足がかりや、経験を重ねる場になると評価されています。

例えば、ITガイド制度では、働き始めて1年目は個別の相談や指導をするITガイドとして働きますが、2年目以降になると、ITガイドのリーダーとしてほかのITガイドの養成や運営にも携わり経験を広げることができるプログラムになっています。チームの同僚たちの間で交流ができる機会も定期的に設けられています。【次ページにつづく】

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