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中国「臓器移植の闇」海外からの移植ツーリズムが激増する中、死刑囚からの臓器摘出疑惑くすぶる

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今年8月、バーミンガムで開かれた中国の人体標本展。死刑囚の遺体が使われた疑惑が浮上している(筆者撮影)

[ロンドン発]英BBC放送のワールドサービスが10月に入り、2回にわたって「中国の臓器移植」について特集を組んだ。中国の外科医は「1995年に右胸を撃たれ、心臓が鼓動し、息をしている患者から臓器を摘出した。中国当局の指示には誰も逆らえなかった」と生々しく証言した。

「肝臓移植1120万円」

BBCのジャーナリストが肝臓移植を希望する患者を装い、外国人の臓器移植希望者を募集する中国の病院に電話したところ、10万ドル(1120万円)で移植が受けられるから中国に渡航してくるよう促された。

肝臓移植を受ける場合、レシピエント(受容者)に適合するドナー(提供者)が現れるまで何年も待たなければならないのが普通だが、中国では3カ月でドナーが見つかったという。どうしてジャスト・イン・タイムの「オンデマンド臓器移植」が中国では可能なのか。

背景に、2015年に全面禁止されたはずの、処刑された死刑囚からの臓器移植が今も続けられているのではないかという重大な疑惑があぶり出されてくる。こうした中には中国当局から弾圧される気功集団「法輪功」の学習者や新疆ウイグル自治区のウイグル族、「良心の囚人」と呼ばれる政治犯が含まれている恐れがある。

中国問題に関する米連邦議会・行政府委員会(CECC)は10月10日に発表した年次報告書で「中国臓器移植の闇」についてこう指摘している。

「当委員会はこの1年、中国で処刑された死刑囚からの臓器摘出を禁止する法整備の努力を何一つ目にすることはなかった。よって中国当局に法整備を強く求めている」「死刑執行の数とそれを取り巻く環境について透明性を大幅に向上させるとともに死刑になる犯罪を限定するよう中国当局に圧力をかけている」

「嫌がらせや独断による拘束、公訴提起といった法輪功への弾圧は続いている。国際機関は、法輪功学習者を含む服役囚の臓器を使って大量の移植手術が行われているとの報告に重大な関心を抱いていると表明している」

「臓器調達システムは国際基準を満たすよう改善されたと中国当局は主張しているが、医療専門家や国際人権団体は、移植希望患者の待機期間は短く、臓器移植データの矛盾に倫理上の懸念を示している」

闇に包まれた中国臓器移植の歴史

英議会でも昨年12月から3度にわたって「中国臓器移植の闇」について報告が行われている。米ニューヨーク大学医学部アーサー・キャプラン教授が前書きを書いている「中国臓器収奪リサーチセンター(ニューヨーク、COHRC)の調査報告書『医学の大虐殺 改革の名の裏で続けられていた暗黒の臓器移植(筆者仮訳)』(2018年版)から中国臓器移植の歴史を振り返っておこう。

1960年代、最初の臓器移植。中国共産党中央軍事委員会は62年以降、死刑囚や重罪の服役囚について「革命の手続き」に基づき原材料として扱えると規定

70年代、臨床の臓器移植始まる。「良心の囚人」からの臓器摘出は78年の記録が最初

80年代、中国政府が、処刑された囚人の遺体や臓器の使用を一定の条件下で許可する規則を公表

90年代、新疆ウイグル自治区のウイグル族の政治犯が臓器摘出の対象に

99年7月、中国共産党が法輪功の処刑を始める

2000年、臓器移植と臓器移植センターの数が急激に増え始める

02~03年、臓器だけに絞った身体検査が家庭教会キリスト教徒とチベット族を対象に行われる

05年7月、中国衛生省副大臣が移植臓器の大多数は死刑囚から摘出されていることを認める

06年、中国で広範囲にわたって法輪功の学習者から強制的な臓器の摘出が行われている疑惑が初めて浮上。独立の調査結果から疑惑は真実であることが判明。これ以降、中国の高官は数回にわたって臓器提供に関する説明を変更

07年7月、中国衛生省が違法な臓器移植は無秩序な市場が原因だとして、認定病院でしか臓器移植手術を行えなくする新たな資格制度を導入。1000以上の病院が資格申請するも認定されたのは164病院。中国当局は一貫して、臓器は処刑された死刑囚から摘出されていると説明

10年3月、上海や天津など19の省や都市で同意に基づく臓器提供プログラムを試験的に実施

13年8月、最初の2年間で同意に基づく臓器提供は207件だったにもかかわらず、臓器提供プログラムを「中国臓器移植即応システム」として中国全土に拡大

13年11月、「臓器の23%は同意に基づく提供」との見解。164の認定病院のうち38病院だけが死刑囚の臓器使用を中止すると約束

14年12月、「臓器の80%が同意に基づく提供」との見解。臓器移植の責任者が15年1月から処刑された死刑囚からの臓器使用は止めると発表。しかし「死刑囚もいったん同意に基づく臓器提供のシステムの中に入ると同意があったとみなされるため、死刑囚の臓器はもはや存在しないことになる」と説明

15年、「臓器の100%は同意に基づく提供」との見解。中国当局は「処刑された死刑囚の臓器使用は完全に終わった」と発表

16年6月、中国臓器移植の闇を追及する3人が大規模なオンデマンド臓器移植の実態について680ページの報告書を公表。臓器移植の規模は公式統計をはるかに上回る規模で行われている疑惑が浮上

17年、中国が主張する改革について、複数の国際臓器移植組織はPRキャンペーン、歪められたデータ、ショーケースとしての臓器移植センター、国際フォーラムでのプレゼンテーションによるごまかしだと認定

18年、COHRCが336ページの報告書を発表。中国の同意に基づく臓器提供と監督システムは有名無実と批判。中国当局は改革したと発表しているにもかかわらず、司法手続きを経ずに処刑された「良心の囚人」からの臓器摘出は大規模に続けられていると告発

海外からも移植希望者が殺到

問題は処刑された死刑囚からの臓器摘出が今も続けられているか否かだ。真相は文字通り「闇」の中で、決定打となる直接証拠はない。しかし限りなく「黒」に近い間接証拠は枚挙にいとまがない。

COHRCの調査によると、99年以前は150だった中国の臓器移植施設は07年には1000以上の病院が衛生省に臓器移植の継続を申請するまでに拡大。肝臓移植の件数は99年から00年に10倍にハネ上がり、00年から05年にかけ3倍に膨れ上がった。

1つの部門が1日に10~20件以上の腎臓移植手術を行うことも珍しくない。国内患者だけでなく、海外からも移植希望者が殺到するようになった。05年、イスラエルの患者は2週間後に心臓移植手術を実施すると連絡を受けて訪中。レシピエントの要望(オンデマンド)に応じてドナーが現れるのが中国臓器移植の特徴だ。

16年10月には1つの病院で心臓、肝臓、腎臓移植10件と角膜移植6件が行われた。17年10月の時点である病院の臓器移植の待ち時間は数日から数週間とされ、追加料金を支払えば“特急”で手術が受けられるという。

レシピエントに適合する腎臓のドナーが現れるまでの待ち時間(中央値)は1300日超、英国では1200日超とされるが、中国では移植の再手術を含めて待ち時間は数日から数週間と言われる。中国の国際臓器移植ネットワーク支援センターのサイトには「私たちは生体腎移植を実施しています。死体腎移植とは完全に異なります」とまでうたっている。

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