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架空インタビュー2.0 『一般意志2.0』ふたたび

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 東浩紀が『一般意志2.0』についてインタビューを受けている。

「一般意志2.0」が橋下市長の“独裁”を止める?―現代思想家、東浩紀インタビュー(BLOGOS編集部) - BLOGOS(ブロゴス)

 全体に「言い訳解説」的になっているのは、誤解というか攻撃というか、マイナスの風がものすごいから、一言言っとくか、という感じなのだろう。知らないけど。

 そのなかで明らかにぼくの記事に対する反論もある。

東浩紀『一般意志2.0 ルソー、フロイト、グーグル』 - 紙屋研究所

 「しょぼい」という批判にたいして「しょぼくない」と言ってるわけだが、「具体構想がしょぼい」といったのはぼくだから、ぼくの記事への批判だろう。違うの。

 んでもって、誰もインタビューしてくれないので、架空のインタビューをしてみた。

東の具体構想の二つの問題点

リンク先を見る――東さんが“しょぼいというが、お前の想像力が足りないんじゃねーの”と批判しています。

 東さんの構想の柱は、専門家や選良の熟議を、大衆の無意識で抑制するというものだったと思うんです。それ自体は「大事」だとぼくは書きました。一般的にいって、熟議が一部の人間のものでしかないのに、そこにたくさんの人がもっと低いハードルで参加して、日常的なダラダラした感覚をぶつける、それ自体はいいと思うんですね。

 ぼくが「しょぼい」といったのは、東さんのいう具体的な手だてでは、こういう目的をなかなか実現できないんじゃないかということなんです。

――東さんの具体構想は、国会審議の場に、ニコ生みたいなコメントの嵐やソーシャルグラフが現われる大画面をもうけて、国会の熟議を牽制・抑制するっていうことですよね。そこが問題ってことですか。

 はい。二つ問題があると思いますけど、ひとつは本当に熟議の抑制や牽制になるのかということです。もう一つは、現時点でこの技術構想ではおよそ「一般意志」とよべるほどの大衆の無意識を表現することにはならんのではないか、ということです。

二つの問題点その1 本当に熟議の抑制になるのか

――最初の点、「本当に熟議の抑制になるのか」という点ですが、なりませんか。

 あー、いや、もしそういう議会改革がなされるのなら、議会改革としてはぼくは支持しますから、あんまりムキになって「無意味だ無意味だ」と言い募る気はないんですが。

 議会改革の一つとしては支持するけど、それが大衆の無意識が熟議を抑制するという形で民主主義をバージョンアップするほどに変化をもたらすかどうかは、わからない。むしろ過剰に期待しすぎではないかなと思うのです。

――東さんは、“ツイッターやフェイスブックが出てきたとき今みたいな革命性は想像もしなかっただろ。だから俺のいうことが今理解できなくても仕方ないんだ”と言っていますよ。

 東さんの構想が「未来のツイッター」なのか、そうでないのかは、今の時点で東さんがきちんと言語化して証明してくれないと同意しようがありません。自分の構想にツイッターとかネット動画が入っているからといって、それが無条件にツイッター的イノベーションを起こすって思ってもらえると主張するのは虫がよすぎます。ぼくらは東さんをいつでもどこでも肯定してあげる「ファン」じゃないんですから。

 じゃあ、ぼくが今「ツイッターで世界を相手に弁当を売ると年商10億はいける」「弁当販売2.0」とかいったら「そんなわけないだろう」とか「それだけいわれてもよくわかんない」とかいう疑問が当然に出るでしょう。それに対してぼくが「ツイッターやフェイスブックが出てきたとき今みたいな革命性は想像もしなかっただろ。だから俺のいうことが今理解できなくても仕方ないんだ」「いまの俺の主張が理解できない=ツイッターのすごさが理解できなかった10年前の人間状態」「弁当を店頭で売らないっていう構想が新しいんだ。しかし俺は弁当ビジネスマンではないから具体的な弁当ビジネスモデルは考えない」って言ったらものすごく無謀だと思うでしょ。

 東さんの構想に類似したものはすでに現実にいろいろあるので、それを解析して言語化し、提示してほしいんですよ。東さんは何か実験結果を一つくらい示して、「ほら、こんなに熟議を牽制しているよ」とかぼくらを説得すべきです。

――東さんの本では、クリストファー・アレグザンダーの「パターン・ランゲージ」が紹介されていますよ(p.158~)。

 あれはわかりやすいですね。『一般意志2.0』をパラパラとめくっていたつれあいが「この図なに?」って聞いてきたので、「理性による道路や都市の設計じゃなくて、無意識に大衆が行動するパターンを地図におとして、それにそって、もしくはそれを避けて道路や都市をつくるっていう手法だよ」って、ぼくが東浩紀にかわって説明してあげたほどですよ(笑)。

 ただし、これは「無意識による理性への抑制」という発想そのものの説明ですから、「無意識による熟議への抑制」という具体モデルの説明ではありません。

――じゃあ、紙屋さんが「東さんは具体的モデルで説明してほしい」っておっしゃってるのは、それこそ具体的にはどういうことなんですか。

 津田大介さんの『情報の呼吸法』(朝日出版社)を読んでいたら、津田さん自身が被災地の支援のバスツアーをやる話が出て来て、「情報と人を結びつけて行動を起こす」という自分の構想に具体性を与えている。その具体例の検証がそのまま津田さんの構想を説明する論理になっている。だから読んでいる方は「なるほど」と思えます。そういうことを東さんもやってみてはどうかということです。

 たとえばですけど、実際に政治家を議論させてそれをニコ生の大画面の前でやってもらい、コメントを流すとか、「いいね!」ボタンを視聴者に押してもらうとか。んで、終わった後に、東さんが参加した政治家にインタビューして「緊張した」とか「あれは痛かった」「強いプレッシャーだった」とか語ってもらってそれをきちんと検証したら、すごい説得力だと思いますけどね。

 でも、今のところ、そうした類似例をみるかぎり、そんなに大きな抑制効果は期待できそうもない。ニコ生政治討論会はいろいろあるけども、それが大画面で、熟議に対してプレッシャーを与えるって恰好でやられているケースはぼくはほとんど知らないんですけど。

首相官邸の「オープン懇談会」はちがうの

――東さんはインタビューで「『ニコ生政治討論会の内容を政治に移す』という話じゃないんですよ。プラットフォームの変革の話なんです。政策論ではなく制度論」とおっしゃってますよ。

 サンドウィッチマンの富沢じゃないですけど、「ちょっと何言ってるかわかんない」。

 足りないぼくの頭で解釈するに、その東さんの言葉は、「政策を生み出す公式の熟議の場(プラットフォーム)への関与(公的な制度にするということ)でないとダメだ」という意味だと思うんですが、どういう場であれ、無意識が熟議への抑制になるかどうかが問題なんですからこの「反論」は反論になっていないでしょう。ニコ生政治討論会がそんなに大したことはないと思われているので、ニコ生を例に出されるのはまずいという思惑が働いたように見えますが。

リンク先を見る じゃあですね、こういう例はどうですか。田坂広志さんという原子力工学関係の学者で、内閣官房参与だった方がいますよね。あの方が、『官邸から見た原発事故の真実』(光文社新書)って本の中で、官邸の会議をネットを通じてオープンにして、国民が直接首相と懇談したということを「政府の在り方が大きく変わる」とおっしゃっていました。ツイッターを使って誰でも質問やコメントを自由に官邸に送れるようにしたそうです。

 田坂さんは、こういうものはツイッターによるアラブの民主革命に匹敵するような大革命を起こすぞ、って興奮されているわけですが、まあ、たとえばそういう具体例の解析が必要なんですよね。

http://nettv.gov-online.go.jp/prg/prg4972.html

――アラブの民主革命って、誰かさんのインタビューで聞いたような話の流れですね(笑)。でも、具体例、あるじゃないですか。その官邸の話は、けっこう画期的だったというわけでしょう。

 いやいや、実際にどれくらい効果があったのか、田坂さんの本を読んでもよくわからないですよ。民主党政権の「仕分け」がネット中継されたのが画期的と騒がれましたが、その後はしぼんでしまったでしょう。初期効果としてのインパクト以外に、制度としてのすごさが本当にあるかどうかは、よく見極めないといけないと思います。だから、よく検証してほしいんです。すでにいろんな方がこの「オープン懇談会」については話しているようですが。

http://blogs.itmedia.co.jp/mm21/2011/06/openkonc-3a06.html

 そもそも、もうそれくらいになると「大衆の無意識」「集団の無意識」ってレベルじゃないでしょ。つまり、懇談会に「ネット参加」して首相に「意見を述べる」っていうふうになるとね。

 熟議の一形態ですね。

 あるいは「朝生」でうしろにドシロウトの傍聴者がいて、ときどきコメントをいうっていう形あるんじゃないですか。あと、今でもNHKあたりでありますけど、視聴者のコメントが随時画面に流れてくるし、番組の途中でファックスやメールが読み上げられたりとか。

 そういう従来のものと東さんの言っている具体構想はどれくらい違うのか。「同じです」っていったら、新しいものを提起しているっていう東さんの立場なくなるでしょ(笑)。

 そして、それはもう「集団の無意識」とかいえるレベルじゃなくて、東さんが熟議に含めてしまっている「市民の明示的な意志表示」(p.117)じゃないのかとか、そういうことを考えちゃうわけですよね。

 そういうことが概念的に未分化です。

二つの問題点その2 一般意志といえるほどに大量のデータか

――「概念的に未分化」ですか。

 整理されてない。誤解が起きるのもむべなるかな、ですよ。それなのに“誤解されてはたまらない”と言うのはどうかと。

 最初にぼくは、東さんの具体構想は本当に熟議の抑制や牽制になるのかということとともに、現時点でこの技術構想ではおよそ「一般意志」とよべるほどの大衆の無意識を表現することにはならんのではないか、という懸念を表明したでしょ。

――そうでしたね。

 だってネットユーザーの中で国会や審議会の動画をみてコメントしたり、その行動がソーシャルグラフに反映する人って、本当にごく一部でしょ。そういうものは一般意志っていわないでしょう。特殊意志(個別の国民の意志)です。

 ぼくが「これじゃあ議会改革程度の話じゃん」と批判したら、東ファンと思しき人が「全然わかってない。議会改革レベルの話というのは一般意志ではない。特殊意志だ」とツイートしていました。まったくその通りなんですね。でもそれは残念ながらぼくにではなく、そのまま東さんに行ってしまうブーメランなんですけど(笑)。

――そういわれてみると、東さんの例に出したニコ生的なものは最初の「一般意志」のイメージからずいぶんかけ離れている気がしますね。

 東さんの例よりもはるかに「大衆の無意識」を体現しているものは、他にありますよね。

 たとえばいまの政治では、「マーケットの反応」というのを気にします。何かの政策を出すと、株価が反応したりしなかったりして、それが政治への牽制や抑制になりますよね。首相が記者にコメントを求められて、「マーケットはマーケット。粛々と改革を実行します」とか言って、たいていは動揺してないフリをしてますが。

 あるいは、たとえば個人消費が伸びないという統計は、「社会保障に不安がある」とか「国民の懐が温まっていない」とかいうメッセージとして受け取られます。この前そういうやりとりを民主党の岡田さんと共産党の志位さんが国会中継でやってましたよ。

 この種の経済行動は、まさに「無意識」です。個々人は政治へのメッセージをするつもりではなく、目の前のことを考えてやっているものですが、しかしそれはたしかに熟議を抑制したり牽制したりしていますよね。そして、莫大な国民がその経済行動には「参加」している。

 ニコ生的なものよりも、はるかに行動のハードルが低く、しかもはるかに大規模です。「ネットを使って国会中継みるのはごく一部」という批判に、東さんは「他の形態だって一部の国民しか参加していないぞ」と「反論」していますが、マーケットのようなものを想定したら、これは反論になっていないですね。

 東さんが新しいといってもち出しているものが、こういう従来からある「無意識」とどんなふうに違うのかがよくわからんのです。さっき言った通り概念的に未分化なんですね。

――そういうのは「単純な合計」、つまり東さんの言うところの「スカラーの和」であって、東さんが提唱している「ベクトルの和」ではないんじゃないんですか。

 個別の銘柄の株を売買するなんてそれこそいろんな思惑ですし、今年の消費を控えようという行動なんかはこれもいろんな動機や事情から出ていることでしょう。しかし、それが一つの統計になると、あたかも何か全体で意志を示したかのようなものになってしまうわけです。

 でも「マーケットも無意識だ」とかいったら、とくに目新しい主張ではないから、東さんとしては「マーケットは違うんだ」と言わざるをえないわけです。

 そして、もし東さんがそういう具体的な姿や技術について話したくないなら、「技術構想は誰か考えて」とかいう具合に、最初の構えを徹底して貫いておけばいいと思うんですが。ところが自分は技術屋ではないから技術構想はしないといいながら、ニコ生的な具体例を出してしまい、「しょぼい」といわれると今度はそれに噛み付いてしまうのはどうかと(笑)。

――あのニコ生的な話は、ちょっとしたたとえ話というか、東さんのなかでは軽いコーヒーブレイク程度の話題じゃないんですか。

 だから、それならぼくの批判もスルーすりゃいいじゃないですか。

 今年の1月6日付の日経新聞に東インタビューが載ってるんですが「IT使い政治開く」というタイトルで、大々的にお話になっていらっしゃるのが、このニコ生構想ですよ。

 政府内の様々な会議を生中継してしまうのはどうか。動画配信サイト「ニコニコ動画」の生放送番組のように、画面に視聴者からのコメントが流れるようにして、それを出席者たちが見ながら、会議を進める。

 画面には刻々と視聴者のコメントが流れるし、事後的にネット上で「炎上」するかもしれない。基本的には無視していい。コメントする人々には何らの決定権もないのだから。ただ意識せざるをえない。あるのとないのとでは、結論も微妙に変わってくるだろう。

 ITの仕組みを活用し、普通の市民がなにげなく発信する声を集め、精度が高い形で民意をみえるようにする。最終的には大衆の無意識を可視化することにつながる。


 もう真正面からコレですよ。だから、東さんの心の中では「なかなか気の効いたアイデア」だということになっているんじゃないですかね。

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