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港区・児童相談所反対の声から浮かび上がるこの国の「分断」の巻 - 雨宮処凛

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 東日本大震災が起こる直前まで、この国で話題になっていたニュースを覚えている人はどれくらいいるだろうか。

 それは「大相撲の八百長問題」。もうひとつ、ワイドショーを賑わせていたのは「タイガーマスク」運動だ。

 児童養護施設に、「伊達直人」なる人物からランドセルなどが寄付されるという現象が前年末から広がっていたのだ。伊達直人とは、タイガーマスクの主人公。孤児院で育ち、大人になってからは素性を隠して孤児院に寄付していたというエピソードを持つそうだ。全国の施設に様々な寄付が送られるという善意の連鎖に「心あたたまる話」としてメディアに取り上げられていた。その報道のされ方は、最近でいうとスーパーボランティア・尾畠春夫さんの活躍を伝えるものと近い空気で、「今時、こんないい話があるんですねぇ」という空気に満ちていた。

 そうして東日本大震災から2年後、「子どもの貧困対策法」が成立。子どもの貧困に注目が集まる中、全国各地に数え切れないほどの「子ども食堂」が広がった。私の友人知人の中にも、ボランティアでそんな取り組みにかかわる人は多い。10年以上貧困問題にかかわる私の周りには、そんなふうに子ども食堂をしたり、手伝ったり、ホームレス状態の人々への炊き出しをしたり、夜回りをしたりを当たり前にしている人たちがたくさんいて、私もほんの時々だが、手伝いに行ったり、少額だけどカンパしたりする。「困った時はお互い様」。どんな現場にもそんな空気があって、そんなものに触れる時、この社会の「底力」に触れた気がする。

 さて、そんな話がある一方で、最近、悲しいニュースを目にした。

 それは、南青山に児童相談所が建設されることに対して、住民たちが反対の声を上げているという報道だ。

 建設されるのは、児童相談所だけでなく、DV被害者を一時保護する母子支援施設など。どちらも貧困の取材をしていればよく耳にする施設であり、また、その数の足りなさが問題となり続けている施設でもある。子どもと女性の命を守るために、そしてその後の生活立て直しのために、とても大切な役割を果たす場所だ。

 しかし、地元住民の中にはそんな施設の建設に反対の声を上げている人もいるのだという。事前に十分な説明がなかった、などの意見ならよくわかる。また、虐待やDV問題などになじみがない人に不安があるのは当然と言えば当然だろう。丁寧に説明すればいいと思う。しかし、住民への説明会の様子を見て、一瞬頭がフリーズしそうになった。

 反対している人の中からは、施設ができることによって港区の価値が下がる、というような意見があったのだ。その他にも、そういうところに来る人は困窮していると聞いた、ネギ一本買うのも紀ノ国屋で買い、ランチの単価が1600円の南青山にはそぐわないのではないのか、というような意見もあった。とにかく、なんでこの一等地に商業施設でなくわざわざそんなものを建てるのか、という意見である。

 港区は、東京23区の中でもっとも平均所得が高い街であり、その額は1000万円を超える。また、住民が指摘するように一等地で、特に建設予定地の南青山には高級ブランドショップなどが立ち並ぶ。そんな港区に住む「恵まれた」一部の人が、様々な困難を抱えた子どもや女性を支援するための施設を「港区の価値を下げるもの」としか考えない姿勢に戦慄した。もちろん、報道では賛成派の住民の意見も紹介されていた。今は子育てが大変な時代だから、というような意見に胸を撫で下ろしつつも、ある出来事を思い出していた。

 それは2年前の2016年。東京都国分寺で、6人規模の児童擁護施設の新設計画が断念されたということだ。理由は、やはり一部住民の反対。住民が配っていたビラには何の説明もないまま計画が進んでいることに抗議しつつ、以下のようなことが書かれていた。

 「いじめ、ねたみ、うらみ、つらみの経験 そんな環境を持つ子供たちが同じ学校、同じ地域で過ごすことで〇〇地区に暮らす小さな子供たちや思春期の子供たちへの影響を考えると不安である」

 このような偏見にまみれた言葉に、心の底から憤慨するのは私だけではないはずだ。たった6人の、グループホーム的な施設の何がそんなに怖いのか、と問い詰めたくなってしまう。

 が、昨年には、岐阜県でも同じようなことが起きている。こちらでは児童養護施設建設への反対署名が1300人分も集まり、署名を呼びかけるビラには「周りの子どもたちに様々な悪影響を与える恐れ」という言葉があった。

 児童養護施設とは、虐待を受けたり、親がいなかったり、様々な理由から親と暮らせない子どもたちが入所する場所である。誰だって、安心できる環境であれば家族と暮らしたいに決まっている。しかし、それが叶わないから施設に入るしかない。そのことで一番傷つき、戸惑っているのは本人だろう。

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