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生きづらさを感じる人々21「死にたくて、未遂をしているわけじゃない」祖母は失踪、父と祖父が自殺。拒食症や会食恐怖を抱える。取材から数年後に家族から電話が...〜隆明の場合

厚生労働省自殺対策推進室は10月12日、9月の自殺者数(速報値)を発表した。警察庁の自殺統計に基づいたもので、9月の自殺者数は1,653人。対前年同月比で168人、約9.2%減。2018年の9月までの累計自殺者数は15,578人。対前年比で1,141人、約6.8%減。2012年以降、年間自殺者は3万人台を割っている。また、2014年以降、9月段階で2万人台を割っている。

東日本大震災で被災。生きづらさは解消しない

年間自殺者減少の中でも、自殺者が出ていることに変わりはない。筆者が取材をした男性、佐藤隆明(当時26)も、その一人だ。取材をしたのは2013年12月。話を聞いたのは、東北のある被災地のファミレスだった。このころ、頻繁に筆者は被災地の取材をしていた。そのため、隆明の被災体験から話を聞いた。

震災の日、隆明は仙台のアパートにいた。地震が起きて、すぐに外に出た。

「近くの交差点に多くの人が集まっていました。携帯を見たら、M8.1、津波4mとありました。警察も混乱していました。そのうち、雪も降って来て...。夜9時には仙台駅に行きました。明かりがついていませんでした。会社が避難所になっていたので、そこへ行きました。ネットはつながらないので、翌日まで津波の映像も見ていないし、原発事故のことも知りませんでした」

ただ、隆明の「生きづらさ」は、被災体験とは関連がなく、震災以前の体験が大きい。なかには、さらなる気分の落ち込みで、「生きづらさ」が強くなる人もいるが、そうはならなかった。反対に、震災を機に解消されたという人もいるが、そのようなこともなかったようだ。

物心ついたときから、両親が喧嘩をして、包丁が飛んでくることが当たり前だった

隆明が亡くなったとわかったのは、数年後の、家族からの電話だった。隆明がなぜ亡くなったのかのヒントを探していたとき、メモ帳が見つかった。その中に、筆者に取材を受ける日時、場所が書かれていた。そのため、筆者の連絡先をネットで探した。見つけることができたが、なかなか電話する勇気が出なかったという。

2007年7月ごろ、父親が50代で自殺した。家族の問題や借金があったことが理由ではないか、と隆明は思っている。どうやら、父方の祖父も、隆明が生まれる前に自殺している。祖母は、隆明が16歳のころに失踪している。そんな状況の中で、隆明は中学時代から「死にたい」と考えていた。

家族関係はよいと言えるものではなかった。両親が結婚をしたのは、父の姉の存在が大きい。母親と同じ職場だったので二人を出会わせた。

「二人は望んで結婚したわけじゃないんです。父の姉が無理やり結婚させたんです。父は結婚するつもりはなかったんです。そのためか、物心ついたときから、喧嘩をして、包丁が飛んでくることが当たり前でした。警察も来ていました。両親の仲が悪いのがデフォルトだったんです」

高校のときは拒食症や会食恐怖。発達障害の診断も

16歳のとき、隆明は拒食症になって、心療内科に通っていた。そこで「自律神経失調症」と診断された。

「基本、食べないんです。食べたとしても、すぐに吐きました。それに人と会って食べるのも苦手で、会食恐怖症ですね」

会食恐怖症は神経症の一種で、不安神経症や対人恐怖症でもある。自律神経失調症をともなうことがあると言われている。アメリカ精神医学会の精神障害診断と統計マニュアル5版(DSM−5)では、社会不安障害の特徴とされる。

<他者の注視を浴びる可能性のある1つ以上の社交場面に対する、著しい恐怖または不安。例として、社交的なやりとり(例:雑談すること、よく知らない人に会うこと)、見られること(例:食べたり飲んだりすること)、他者の前でなんらかの動作をすること(例:談話をすること)が含まれる>

こうした特徴が他の精神疾患や医学的疾患ではうまく説明ができないときに、この診断の基準となる。

「自覚したのは大学生のときです。社会的な振る舞いは難しいんですが、就活ではコミュニケーションはできたんです。パターンを積み上げていくと、ある程度できるようにはなったんです。だから、面接で嘘をつくのはできました。経験則によってできるんですが、どこかで、うまくいかない場面が出てしまうことがあります」

両親の仲が悪いのが基本だったため、幼い頃はそれが「普通」と感じていた。ただ、取材の1ヶ月前には、心療内科で「発達障害」の診断も受けている。発達障害は遺伝の可能性もあるが、育った環境も影響することがあるとも言われている。

「風の音が喧嘩の声に聞こえる」両親の喧嘩があると幻聴も

隆明が初めて「やばい」と感じたのは中1のとき。家族仲がより深刻になったからだ。小さなアパートで、ちょっと大きな言葉で悪口を言い合うと、周囲に聞こえてしまうことがわかった。ラジオの音量を大きめにして、周囲に聞こえないようにもしていた、というが、実際に周囲に聞こえたかどうかはわからない。

「自分が喧嘩を止めないと、どちらかが刺すんじゃないか」

険悪な二人であれば、離婚することも考えられるだろうが、離婚はしなかった。

「母が離婚しないのは、お金のため。父親が退職金をもらうまで離婚しないだろうと思っていました。離婚して、慰謝料をもらったほうがいいのに、しない」

喧嘩は、何かの電話が発端のときが多かった。そのため、中2のときには、幻聴が聞こえるようにもなったという。

「風の音が喧嘩の声に聞こえるんです。特に風が強いとダメですね。いきなり大きな音が聞こえたりしても、喧嘩に聞こえてしまいます」

そんな幻聴がひどくなったのは高校2、3の頃。3年でひどくなったので、高校には通えなかった。自傷行為をするようになったのは高校3年生になってからだ。それまで、ストレスがたまり、「死にたい」と考えたことはあったが、そんな時は、拒食になっていた。

「生きていくことはできない」遺書を残して父が自殺

父親が自殺したのは、隆明が19歳になっていたときだ。単身赴任先のアパートで亡くなった。縊首(いしゅ)だった。「こうするしかない」「この先、妻と子どもを抱えて、生きていくことはできない」と書き記した遺書があった。遺産についても書いてあったが、母親は読ませてくれないという。

「亡くなる一年前、父は、土地と家を買っています。どうやら、両親の話し合いがあり、『あのアパートにいて、息子が悪くなった。だから家を買う』という話だったようです。母は『持ち家がないとダメ』という考えもあったようです。でも、無理な購入だったようで、母が住宅ローンの連帯保証人。母は『息子も、ローンを払うのが当然』と考えているようです。僕は払う必要はないんですが、どうしても逆らえないんです」

これまでの生きづらさに加えて、支払いのプレッシャーからか、より自殺が頭を過ぎるようになる。

「他にも(生きるための)手段があるかもしれない。しかし、死ぬことに囚われるんです。遺書も書いたんですが、母に見つかり、破り捨てられました。母は、父が亡くなっても淡々としています。たまに悪口をいいます。そんなの、自死遺族の反応じゃない。自責の念はないのかもしれない」

もしかすると、母にとっては、遺族であっても淡々としていたり、悪口を言ったりするのは、日常を平凡に過ごそうとする営みなのかもしれない。しかし、隆明は文字通り受け止めてしまう発達障害の診断を受けている。大学時代も「ネタをネタとして受け止められない」ことで場をぶち壊したことがあったのを覚えている。

「ちゃんと理由があるのに...」大量の薬を飲み、病院へ運ばれる

そんな中で、お酒を飲んで、首を吊ろうとしたこともあった。錯乱したことで、紐が外れたという。その後、薬を大量にのみ、さらに暴れて、壁に頭をぶつけて、血を流していた。そんなときに宅配の人が訪ねてきて、119番通報されて、気がついたら病院にいたことがあった。その病院で「自分でまいた種だから」と言われたことをずっと記憶している。

「そんなことを言われて、被害者のような気がして来た。自殺しか見えないけれど、死にたくて、しているわけじゃない。ちゃんと理由があるのに...」

レストランで話を聞いてしまったのだが、筆者は、拒食症や会食恐怖を抱えているのを取材中に知った。話を聞いていくうちに、苦手な空間だということわかった。今度、取材するときには、別の空間を確保しなければならないと思っていると、バスの時間が来てしまった。

「(体調が)よくなったら東京へ行きたい」とは言っていたが、隆明は取材から数年後に自宅近くの空き地で縊首した。叶わぬ約束になってしまった。

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