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「地面師」の暗躍よりも深刻な積水ハウス経営陣の病巣

共同通信社

超大手企業の積水ハウスがなぜ簡単に騙された?

先週来、「地面師」なる最近ではあまり耳にしない単語がニュースを賑わしています。土地の権利者ではないものが、書類関係を偽造することで所有者になりすまし、売買契約を成立させて土地購入代金をだまし取るという、いわゆる不動産絡みの詐欺集団です。

バブル経済全盛期には地価高騰を背景として不動産業界で派手にうごめいており、当時銀行員だった私は飛び込み客でそれと思しき人たちと何回か相対したことがありました。

バブル崩壊後はすっかり鳴りを潜めていた彼ら「地面師」ですが、TOKYO2020を前に都心一等地の地価高騰を受けて、最近また活動を活発化させているようです。

今回は、騙された相手が超大手企業であったこと、その騙し取られた金額がそのへんの詐欺事件と比べて桁違いであったこと、などの理由でかなりメディアの注目を集めているようです。

騙された企業は住宅販売大手の積水ハウス。騙された金額は55億円。取引の対象となった土地は五反田駅近くの一等地で、業界とは無縁な私でも通りがかった折に、「ここはなんで古い旅館廃業後に放置されているだろうか」との記憶が明確に残るほどの目立つ物件で、業界内では売りにさえ出れば引く手あまたといわれていた有名物件だったようです。

メディアとお茶の間ニュースウォッチャーたちの関心は、もっぱら「地面師」なる人たちの生態とその手口に集中しています。しかし企業経営を扱う私の仕事柄からは、被害者である業界有数の大手企業である積水ハウスほどの会社が、なぜいとも簡単に騙されてしまったのか、経営の背景に何か隙があったのではないか、そちらの方に大きな興味を引かれました。

異例の長期政権がつくり出した馴れ合い的な企業風土

実はこの問題、今年の年頭に発表された積水ハウスのトップ人事と共に、わずかに水面上に頭を出して多少話題になってもいました。

積水ハウスが10年ぶりのトップ交代を発表したのは、今年1月24日のこと。仲井嘉浩常務が社長に昇格し、阿部俊則社長が会長に。和田勇会長は相談役に退くというものでした。ところが、その後この人事は実は阿部社長が企てたクーデターであった、と和田会長が一部メディアに発言するに至り世間を賑わせることになったのです。

事の発端は本年1月の同社本決算で、土地取引詐欺事件50億円を越す巨額損失が発生したことの責任問題が取締役会で議論となり、和田会長が阿部社長の解任動議を提案したものの否決され、逆に自身が辞任に追い込まれることになったというものでした。

この話にある土地取引詐欺事件というものが、今回「地面師」暗躍で話題になっている五反田の旅館跡地取引というわけなのです。

確かに、和田会長はCEOを兼務して実権のある会長職にありましたが、主に海外事業を担当し、国内事業に関しては阿部社長の責任下で管理がなされていたというのが現実のようで、和田会長が主張した阿部社長解任は表向き筋が通っています。

しかし、最大権力者である和田氏が筋の通った主張をしたにもかかわらず、それは否決され、逆に自身が辞任に追い込まれる事になってしまった。それは、なぜなのか。ちょっと不思議な感じがしてきます。

和田会長は解任ではなかったのですが、辞任を促され仮にそれを突っぱねたとしても阿部社長から逆襲の解任動議が出されれば負けが見えていたので、辞任を余儀なくされた実質解任というのが事実のようです。

取締役会が会長に辞任を促した理由は詐欺問題の責任追及ではなく、「経営の世代交代を目的とした後進への実権譲渡」であったとされています。そしてそれが理由であったからこそ、阿部社長は取締役会決議を自己の勝利に導けたと思われるのです。

和田会長は社長時代から通算で20年の長きにわたって経営の実権を握って経営トップのイスに座り続けてきました。オーナー経営でもなくサラリーマントップとしては、異例の超長期政権であるといっていいでしょう。

一人の人間が大きな権力を握って長期にわたって組織運営を牛耳るというのは決して良いことではなく、むしろ組織内の緊張感の欠如や馴れ合い的な風土を醸成するなどその弊害の方が大きいといえます。

実は積水ハウスの政権の長期化傾向は、和田会長のさらに先代である、奥井功氏の時代にもみられ、社長・会長で12年、ルーツをたどれば同社中興の祖である田鍋健氏は、29年間の長期にわたり社長を務めたという悪しき伝統が、その組織風土の根底に脈々と流れているのです。

これだけ当たり前のように長期政権が続くことで組織風土として、役員間における相互牽制をはじめとした積水ハウスのガバナンスが甘くなっているといわれても、決して否定できない状況にあると考えます。

超長期政権経営による”ガバナンス崩壊”を反省すべき

今回の詐欺事件で、同時に同じ「地面師」グループからニセの土地売却を持ちかけられた複数の不動産業者は、途中で何か変だというリスク感知アンテナが作動して難を逃れていると聞きます。

ところが超大手の積水ハウスだけが、報道されている限りでもいくつかの感知ポイントがありながら見過ごし、まんまと詐欺集団の策略にハマったというのは、まさしく経営風土に起因するガバナンスの甘さではないのかと思うのです。

1月の同社役員人事で阿部氏は、「経営若返り」を理由に和田氏を辞任に追い込みながらも、既に10年社長のイスに座ってきた自らは代表権を持った会長職についています。

いってみれば和田氏のポジションをそのまま引き継いだ形となっており、超長期政権経営がはらむガバナンス崩壊に対する積水ハウスサイドの反省は全く見えていないといえるのです。

超大手の積水ハウスがなぜ「地面師」たちに狙われたのか、同業他社と比較したガバナンスの甘さが詐欺師たちの目から見ても明らかだったのではないか、そんな観点からの反省ある対応が今こそ同社経営陣には求められているのではないかと思うのですが。

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