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"干しいも"の9割が茨城産に変わった事情

さつまいもを蒸して乾燥させた「干しいも」。江戸時代に静岡県で生まれた和スイーツだが、いまや全国の生産量の9割を茨城県が占めている。どこでも作れそうな商品だが、なぜ茨城県が圧倒的なシェアを誇っているのか。単純なようにみえて奥の深い、干しいもの秘密とは――。

干しいも(画像提供=幸田商店)

■年間生産量1万トン、市場規模は200億円

コンビニやスーパーの店頭に並ぶ食品も、すっかり秋になった。リンゴやナシの果物と並び、季節を感じられる食品が「さつまいも」だろう。秋に収穫を迎え、本来の旬は10月から翌年1月だと聞く。

さつまいも関連商品のひとつに「干しいも」がある。昔ながらの商品だが、近年は多様化が進む。国内の年間生産量は約1万トン、市場規模は約200億円と好調だ。

人気の理由は「健康志向」だろう。よく知られる食物繊維のほか、ビタミンやカリウムなどの栄養分が豊富に含まれる。このため、「干しいもチョコ」のようなアレンジレシピが広がり、スイーツとしても人気だ。

干しいもで生産量日本一なのが、実に9割のシェアを持つ茨城県だ。なぜ圧倒的なシェアを持つようになったのか。その背景を紹介したい。

■「静岡発祥」が「茨城特産」になった理由

干しいもは、収穫後に貯蔵して甘みが増したさつまいもを蒸し、皮をむいてスライスし、乾燥させた食品。保存による熟成や水分の蒸発で糖化するので、加糖の必要がない。この自然な甘みも特徴だ。原材料が「いも」だけなのに、商品として決して安くないのは、こうした加工の手間がかかるからだ。

もともと江戸時代の文政年間(1818年~1831年)に、現在の静岡県御前崎で誕生したという。それが明治時代の1908年に茨城県に伝わり、特に那珂湊(現ひたちなか市)で盛んになった。今でもひたちなか市は、茨城県内で最も生産が盛んな地域である。

発祥地の静岡県ではなく、茨城県の特産になった理由は、以下が定説だという。

・静岡県は「お茶」や「メロン」など、他の農産物に主流が移った
・茨城県の水はけのよい土壌が、さつまいもの生育に向いた
・那珂湊は、冬場に海から吹く冷たい風も適しており、漁師の副業として広がった

食の歴史を振り返ると、日本人とさつまいもは深い関係にある。代表的なのは、江戸中期、徳川吉宗の統治時代に行われた青木昆陽の「甘藷(かんしょ=さつまいも)」の栽培だ。これにより当時の飢饉を救っただけでなく、西日本で「救荒作物」として知られていた甘藷が東日本にも広がった。静岡と茨城の干しいも栽培もこの延長線上にある。

■茨城ならではの「丸干し」

ひたちなか市で、干しいもの生産・加工を行う会社のひとつに「幸田商店」がある。戦後まもなく、現社長・鬼澤宏幸氏の父が創業した。当初は肥料問屋だったが、地域特産物の干しいもを扱うようになり業容を拡大。大学卒業後、食品商社の国分で食品流通業務に携わった後、家業に入社した宏幸氏が、前職の経験も生かして、主力の「べっ甲ほしいも」(品種は「いずみ」)をはじめ、さまざまな関連商品を企画する。

そのひとつが「べにはるかの干しいも」だ。べにはるか(紅はるか)は2010年に品種登録された新顔だが、甘いさつまいもブームをつくった「安納芋」に匹敵する甘さを持ちながら、すっきりした後味が特徴だ。商品には大きく分けて「丸干し」と「平干し」がある。

「平干し」(平切り)は全国的に知られる形で、ストーブの上やオーブントースターで加熱して食べた人も多いだろう。これに対して「丸干し」は、蒸した原料芋を丸々干したもの。平干しに比べて厚いので乾燥に要する期間が2~3倍かかる希少品だ。

筆者は、スポーツ大会の取材でひたちなか市を訪れた際、販売ブースで「海風ほしいも」を見かけて、同社に興味を持った。平干しの干しいもがサーフボードに似ているため、パッケージにはサーフボードのイラストが描かれている。購入してから「茨城おみやげ大賞2016」の「最高金賞」に選ばれたことを知った。

■生産手法を進化させた「干しいも新工場」

2018年7月、幸田商店がひたちなか市に新設した工場の開所式があった。事業が拡大する国産干しいも製造センターの役割で、約2500平方メートルの建物内に冷凍庫、解凍庫、仕分けエリア、加工場、保管倉などを備える。

開所式では、新工場の見学も実施された。この工場は、今年6月から法律で制度化された「HACCEP」(ハサップ。食品衛生管理の国際基準)に対応している。原材料の納入→選別→製品製造→出荷という作業の流れをエリアごとに分け、製造時の菌汚染や異物混入を防ぐという。

たとえば、干しいもの製造作業は「清潔区」、作業後の番重(薄型の運搬容器)洗浄作業などは「汚染区」となる。各現場には計量スピードを上げた機械、本体丸洗い可能な機械などが導入された一方で、アナログ面も残した。

「5S(整理、整頓、清潔、清掃、しつけ)の徹底」や「毎日指差呼称」の文字が、デジタル機械のすぐ横に貼られていたのが印象的だった。鬼澤氏は「機械任せにしない、ヒトの力が欠かせない」と説明する。本格稼働して2カ月たち、生産は順調だという。

■商工会議所が手がけた「ヒット商品」

もちろん、干しいもを手がけるのは同社だけではない。実は、ひたちなか商工会議所(以下、会議所)はアイデア豊富な団体として知られる。その会議所主導で開発されたヒット商品に「ほっしぃ~も」というパイ菓子がある。2010年に発売し、いまでは年間約160万個も売り上げる。もともとは会議所で「市の銘菓をつくろう」と企画された商品だという。

だが、お菓子の開発は専門家の知見が必要だ。そこで同市内の本店を含めて県内に11店を構える「お菓子のきくち」(菊池雅人社長)の協力を仰いだ。地元の菓子組合の組合長でもあった菊地氏の試行錯誤により、干しいもの食感を生かし、余計な加工をしない商品が約半年後に完成。翌年に発生した東日本大震災で一時消費が低迷する時期があったが、現在は人気商品としての地位を確立した。

ひたちなか市の玄関口・JR勝田駅内にあるコンビニには、干しいも関連商品がずらりと並ぶ。そのなかでも「ほっしぃ~も」はひときわ目立っている。

一方、幸田商店も県都・水戸市の玄関口であるJR水戸駅の駅ビル「エクセルみなみ」に直営店舗を持つ。店舗面積3坪の小さな店だが、「地物・手作り・健康志向」の土産品として訴求した結果、年間約6000万円の売り上げを持つ人気店に成長した。

ご当地企業が本気で手がける→地元特産としてのヒット商品となる→注目度がさらに上がる、という好循環となったのだ。

■「高齢化」や「中国産商品」が課題

ただし、ひたちなかの干しいも業界にも課題は残る。

たとえば製造工程の6割は「サツマイモの皮むき作業」が占めている。自動皮むき機も開発されているが、へこみ部分の皮むきなどは機械ではむずかしく、完成度は人がすぐれているという。だが作業担当者は高齢化が進んでいる。いつまでも頼ることはできない。

中国からの「輸入干しいも」の存在も無視できない。かつては茨城産の4分の1程度という低価格や一定の品質が評価され、2004年には1万トンを超える輸入量だったが、国内産食品の安心・安全への評価が高まり、近年は中国産の輸入量も減ったという。最新の中国産の数字は発表されていないが、業界関係者の推計では2017年は約4000トンといわれる。現在では国内産食品の安心・安全への評価が高まり、輸入量は落ち着いているが、また輸入量が急増することがないとはいえない。

■「ありモノ探し」と「ないモノづくり」

干しいもは単純なようにみえて、奥の深い食品だ。このため新規参入は簡単ではない。茨城県の干しいもがブランド化できたのも、「おいしさ」にこだわってきたからだろう。だが、それだけで生き残れるほど甘くはない。

スイーツなど派生商品の開発は、さらなる進化として大切だ。新たな魅力を訴求すれば、丸干しや平干しの伝統商品にも注目が集まる。これらは地場商品の可能性を広げる「ありモノ探し」と、今までにない商品を開発する「ないモノづくり」の取り組みだ。

新商品の開発は、社内や業界の若手・中堅社員のやる気にもつながる。健康イメージがあり、長年にわたる“喫食習慣”がある干しいもだからこそ、可能性も広がるのだ。

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高井 尚之(たかい・なおゆき)
経済ジャーナリスト・経営コンサルタント
1962年名古屋市生まれ。日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆多数。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。

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(経済ジャーナリスト 高井 尚之)

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