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仕事だから効率は求められるけど、気持ちが重視される介護。あの頃はいつも心穏やかでいられた - 「賢人論。」第73回梅原大吾氏(中編)

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日本初のプロゲーマーとして知られる梅原氏は、世界でおそらく唯一の、介護現場を知るプロゲーマーでもある。バーチャルな格闘ゲームの世界で「神」と呼ばれる男は、一人の介護ヘルパーとして、リアルな介護の世界をどう見ていたのか。彼の口から語られた言葉は、意外にも、介護現場への強い思いだった。

取材・文/盛田栄一 撮影/公家勇人

負けた人が勝った人を恨んだり、嫉妬したり。そんなドロドロした部分にどうしても馴染めずに“勝負の世界から離れよう”と

みんなの介護 梅原さんは28歳で日本初のプロゲーマーとなる前、1年間ほど介護施設でヘルパーの仕事をしていましたね。介護スタッフからゲーマーに転身したのは、梅原さんならではの、まさに唯一無二の経歴だと思いますが、そもそもなぜ介護の仕事をしようと思われたのでしょうか。

梅原 それについてお話しするためには、僕の人生を十代の頃にまで遡らなければなりません。

僕が姉の影響で格闘ゲームに夢中になったのは10歳の頃。それからはゲームセンターに通い詰め、14歳で「ストリートファイター」ではほぼ無敵になり、15歳のとき全国大会で優勝。17歳で国際大会優勝、世界一になりました。

ところが世界一になっても、僕のことを知っているのは格闘ゲーム界の人間だけ。僕としては自分が有名になることで格闘ゲームの素晴らしさを世に広めたいと思っていたのに、全然そんな風にはなりませんでした。その後、いろいろな大会で優勝しても、状況はまったく変わらない。「世界最強の格闘ゲーマー」と言われても、その毎日はバイトしながらゲーセンに通うだけ。それで、ゲームの世界にいても未来はないと踏ん切りを付け、麻雀のプロになろうと決意しました。僕が23歳の頃です。

みんなの介護 なぜ、プロの雀士になろうと思ったのですか?

梅原 僕は勉強せずにずっとゲームばかりしてきたので、学歴もなければ資格もなく、おまけにコネもありませんでした。まさかそのトシから、野球やサッカーでプロを目指すわけにもいきません。

そんな自分が、腕一本で食べていくにはどうすれば良いのか。それで思いついたのが麻雀です。麻雀ならルールも知っているし、実際にプロも存在する。それに、ゲームをやってきた自分にとって、麻雀がいちばん身近なようにも感じました。

それから、雀荘に勤めながら2年半、麻雀に真剣に取り組みました。一応、腕には自信が持てるところまで上達しましたね。でも、それと同時に「何か違うなあ」という違和感もずっと感じていました。弱肉強食の勝負の世界だから、勝つ人がいれば当然、負ける人もいる。それで、負けた人が勝った人を恨んだり、嫉妬したり。そんなドロドロした部分にどうしても馴染めなかったのです。それである日、「もう、勝負の世界から離れよう」と決意し、すっぱり麻雀を辞めました。

麻雀を辞めたときは、両親も相当驚いていましたね。あんなに一生懸命取り組んでいたのに、そんなに簡単に辞められるものなのか、と。でも僕は、一度決めたら後ずさりしないタイプ。だから、辞めると決めたら麻雀には綺麗さっぱり何の未練もありませんでした。

ゲームや麻雀、飲食店などと比べ、介護は圧倒的に心地良かった。誰かによって競争させられることが一切なかったから

みんなの介護 麻雀のプロになることを止めた後、介護スタッフへと転職するわけですね。

梅原 麻雀を辞めた頃の自分は、勝負の世界に疲れ果てていました。勝ったら誰かに恨まれるし、負ければ自分自身の生活が苦しくなる。もう、そういう世界は懲りごり、という感じでしたね。

両親が医療の仕事に従事していたので、介護の仕事がどういうものかはある程度知っていて、親近感がありました。誰かと勝負することもなさそうだし、介護スタッフとして働いても良いかなと思ったのです。

みんなの介護 勤務先はどのようなところだったのでしょうか。

梅原 有料老人ホームでした。僕が受け持つことになった階は、全体の9割くらいが認知症のお年寄りでしたね。

麻雀の世界でも人生観が変わりましたが、介護の現場でも、やはり人生観が変わりました。僕の実のおばあさんも晩年は認知症を患っていましたが、特に介護の必要もなく亡くなっていたので、要介護のお年寄りに接するのは生まれて初めて。

そんなお年寄りの話を聞いてみると、「若い頃は社長だった」とか、「銀座の有名デパートで働いていた」とか言うのですが、そんな面影など、まるで残っていないわけです。「そうか、人は歳をとるといつかこうなるんだな」と、しみじみ実感しました。それまで、人生の終わりなんて想像も出来なかったのに、現実をいきなり目の前に突きつけられたようでしたね。

自分がまだ若いことに有難味を感じたし、歳をとってから後悔しないために、悔いのない生き方をしようと思いました。

みんなの介護 実際に働いてみて、介護の現場はいかがでしたか。

梅原 ゲームと麻雀の世界以外では飲食店などでもバイトしましたが、介護の仕事は圧倒的に心地良かったですね。それには、誰かによって競争させられることが一切なかったということが大きかったです。

僕は子どもの頃から、自分の意志に関係なく競争させられることが極端に嫌いでした。だから、点数を競い合う形での勉強が嫌いだったし、飲食店のバイトで「売上〇〇万円を目指そう」なんてハッパをかけられても、「オレには関係ない」と思っていました。ゲームのように自分の意志でやる競争なら良いけど、競争を強制されるのは勘弁、という感じですね。

その点、介護の仕事は競争とは無縁に感じました。仕事である以上、ある程度の効率は求められるのかもしれないけど、僕の経験では効率よりも気持ちや丁寧さが重視されたので、いつでも心穏やかでいられました。

確かに、給料が良いとは言えませんでしたが、時間もある程度融通が利くし、何より人に恨まれないどころか感謝される仕事ってなんてありがたいんだろうと思いましたね。下の世話にも抵抗はなかったし、お年寄りは優しい人が多かったので、それほどきついことも言われませんでした。とにかく、介護スタッフとして働いていた頃は、僕にとって居心地の良い時間でしたね。

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