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「給料は安いよ」韓国の若者にとって日本企業は金銭的な魅力なし? - 澤田克己 (毎日新聞記者、元ソウル支局長)

 日本政府が外国人労働者の受け入れ拡大に向けて新たな在留資格を作ろうとしている。安倍晋三首相は「移民政策ではない」と強弁するが、実質的な政策転換だ。労働力不足という現実を直視した政策を作らねばならないのは当然だが、日本社会には気になる思い込みが未だにあるように見える。日本が外国人労働者を大量に受け入れるといえば「多くの外国人が殺到するはず」というものだ。今や、そんな時代ではないのに…。

 少なくとも金銭的な面での日本の魅力は大きく減少している。先日、韓国の外交官と話した時にそれを実感させられた。若年失業率の高さが社会問題となっている韓国では、日本をはじめとする外国での就職を数年前から政府が後押ししている。日本に駐在する外交官として日本企業への就職支援を行わなければならない彼は、こう言ったのだ。

 「日本企業は初任給が安いでしょ。日本で労働力不足だという職種は、その中でもさらに給料が安いことが多い。韓国企業の方が高い給料を出すから、韓国の若者はその水準を考えながら就職先を探そうとする。ミスマッチが多くて苦労するんですよ」

日本で就職する韓国人は急増しているが…

 韓国の青年(15~29歳)失業率は10%前後で推移しており、大きな社会問題となってきた。金大中政権以来の新自由主義的な経済政策の下で超競争社会となり、企業が即戦力しか採用しなくなったことも背景にあるのだろう。韓国政府は雇用を増やすよう企業に圧力をかけているものの思うような効果を上げることはできず、朴槿恵政権が海外での就職支援を本格化させた。現在の文在寅政権もこの路線は踏襲している。

 日本ではちょうど、労働力不足が深刻化していた。韓国人にとって日本は、里帰りしやすい隣国であるうえ、文化的な共通点も多い。韓国語と日本語は文法が似ているから、言葉も学びやすい。一方で日本企業側では、韓国人の若者は優秀なうえに日本文化への適応力が高いと評価される。そうした条件が重なったことで、日本で就職する韓国人の若者は急増した。

 厚生労働省によると、日本で働く韓国人(特別永住権を持つ在日韓国人以外)は昨年10月末時点で5万5926人。2012年10月末時点は3万1780人なので、5年間で76%増えた。ただし、外国人労働者の総数もこの間に68万人から128万人へと9割近く増えているので、韓国人の増加率が特に高いわけではない。日本で労働力不足が深刻さを増しているうえ、世界市場に進出しなければ生き残れないとグローバル人材の獲得が叫ばれ、さらには韓国政府が強く海外就職を後押ししている割には増えていないと見ることもできそうだ。

後輩たちへの助言「給料は安いよ」

 若者の海外就職を後押しする事業を行っている大韓貿易投資振興公社(KOTRA)が今年、同社の事業を通じて日本企業に就職した若者455人を対象に行ったアンケート調査がある。回答数は115人と少ないものの、なかなか興味深い内容なので紹介したい。

 まず目につくのは学歴と日本語能力の高さだ。回答者は、専門学校卒2人を除く全員が4年生大学卒以上だった。87%の人は日本で学校生活を送ったことがないと回答したのに、日本語能力は「ネイティブ並み」が22%、日本語能力試験(JLPT)で最上級となる「N1」レベルが65%だった。就職先の業種は「ITおよび情報通信」が36%と最多で、次に多いのは製造業の26%。回答者の88%が正社員で、職種はエンジニア45%、経営管理(人事や総務など)15%、国内営業13%である。単純労働ではなく、日本人と伍して働いていることがうかがえる。

 日本で就職したことに「満足」が66%、「不満足」は10%だった。日本で働く理由(複数回答)は、「海外生活を経験したい」が60%、「韓国での就職が困難」が48%など。半数近くは、将来的にも日本に残るつもりだと回答した。

 これだけ見ると日本での就職はバラ色のようだが、「日本で就職しようとする後輩たちへの助言」という自由記入での回答には厳しい認識が垣間見える。日本での女性差別や民族差別に触れるものもあるが、それ以上に目立つのは「若い社員を育てようという意識のある日本企業で働くことに魅力はあるが、おカネを期待するならやめた方がいい」という助言である。KOTRAの報告書からいくつか拾ってみよう。

 「金銭的な面では日本での就職と韓国での就職に違いはない。経験と挑戦を重視する人なら、日本での就職も一つの選択になりうる」

 「税金(と社会保障)がとても高いので、はっきり言って給料を考えるなら勧めたくない。やりたい仕事があって、経歴を積みたいと来るならともかく、おカネのことを考えるなら来ない方がいいと思う」

 「日本の初任給は安いという事実をきちんと認識してから来るべき」

 「物価は高いし、家賃も高いからおカネは貯まらない。税金を払ったら残らない」

韓国の大企業1年目の年棒は…

 では、韓国の大卒初任給はいったいいくらなのだろうか。韓国経済研究院が今年3月、売上高上位500社を対象に行った調査結果を発表した。それによると、3500万ウォン以上4000万ウォン未満(約348万~397万円)が34%でもっとも多かった。次が4000万ウォン以上4500万ウォン未満(約397万円~447万円)で25%。4500万ウォン(約447万円)以上という企業も18%あった。

 前述のKOTRA調査で入社1~2年未満と答えた91人のうち、年収350万円を超えているのは20人(22%)。韓国の大企業だったら8割近い人が初年度から3500万ウォン(約348万円)以上もらっているというのだから、日本企業の給料が見劣りすると言われても仕方ないだろう。だからこそ、韓国での就職は厳しいと言ってもいいのかもしれない。

 ちなみに、民間調査機関の労務行政研究所が東証1部上場企業を対象に行った調査として今年4月に発表した大卒初任給(月給)の平均は21万1039円である。ボーナスを入れても、韓国企業の平均には届かないだろう。

 私もソウルで勤務していた時、日本メディアで働く韓国人スタッフに言われたことがある。「やっぱり日本企業はいいよ。給料は安いけど、定年まで安心して働けるからね」。そう。超競争社会の韓国企業では、高い倍率をくぐり抜けて大企業に入社しても生き残るのが大変なのだ。サムスンの元役員からは「入社して5年もすると同期で給料に2倍の差がつくのは当たり前だ。解雇されるわけではないけれど、仕事のできない人は(居場所がなくなって)自然と消えていく。それがサムスンの競争力の源泉だよ」と言われた。

 日本企業と韓国企業のどちらがいいか。私には即答できないけれど、これが現実である。

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