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ひとりで死んでも孤独じゃない

ひとりで死んでも孤独じゃない: 「自立死」先進国アメリカ (新潮新書)
  • 作者: 矢部武
内容(「BOOK」データベースより)

身体が悪くなっても、子供が近くにいても、アメリカの老人は最期まで極力ひとりで暮らそうとする。個人の自由と自立こそ、彼らが最も重んじている価値だからだ―。高齢者専用住宅、配食サービスのNPO、複数世帯がつかず離れずで暮らすコーハウジングなど、独居老人と社会の紐帯を確保するためのさまざまな取り組みを紹介すると共に、「自立死」を選ぶアメリカ人の姿から、日本の高齢者支援のあり方も考える。
NHKスペシャル『無縁社会』をきっかけに、日本でも「孤独死」を心配する人が増えてきました。

「孤独死するのはイヤだから、子どもがいたほうがいいよね」

「でも、子どもがいても、面倒みてくれるとはかぎらないし……

日本は平均寿命が高い国なのですが、その一方で、「人間が長生きするがゆえの問題点」も多く抱えています。

医療の現場にいると、「90歳の親を、60代半ばの子どもが介護している」という事例をたくさん目の当たりにします。

自分が高齢になるまで、身内を介護し、介護から解放されたときには、もう自分に介護が必要な状態になってしまう。

それでも、「身内が介護するのが正しい」のですよね、少なくともいまの日本では。

この新書のなかでは、「アメリカの高齢者サポート事情」が実例を挙げながら説明されています。

アメリカ人は、高齢になり、身体的な不自由が出てきても、極力「自立して生きる」ことを希望する人が多いそうです。

脳卒中による左半身マヒの71歳女性の言葉。

彼女は、退院してから1年くらい息子夫婦と同居していましたが、後遺症がある程度回復してきたため、高齢者専用アパートに移ってきたそうです。

 ならば息子夫婦とずっといっしょに住む気はなかったのですかと聞くと、「冗談ではありません。私は自立した女性ですよ」ときっぱり答えた。

「どんなにすばらしい人たちでも、快適な家でも、長くいっしょに住めば、不満やストレスがたまってくる。私は一人暮らしが合っているのです。自分に何ができて、何ができないかを誰からも強制されず、すべて自分で決められるというのはすばらしい。体が不自由でも、高齢者支援センターやMOW(一人暮らしの高齢者の家に温かい食事を届けるサービス)などに頼めば家事や食事の配達もやってくれるし、なんとか自立した生活を送ることができる。自分にとってはそれが一番落ち着くし、安心できるのです。
アメリカでは、親が子どもに「自立すること」の大切さをいちばんに教えていくそうです。

そして、そう子どもに教えてきた親たちは、自分が年を取ったからといって、「弱音」を吐けない面もあるのでしょう。

そういう背景があるにせよ、アメリカの高齢者たちは、「自立する」ことを大事に考えているのです。

「社会的なサポートは受けても、身内の世話にはならない」

日本とは、「基本的な意識」が違うのです。

そして、アメリカでは、「高齢者がひとりで生きやすいような住宅支援」や「社会のシステム」がつくられています。

「リスクを承知で独居することがあたりまえの国」だからこそ、家で突然具合が悪くなって倒れたときのサポートシステムも進化しています。

日本では、まだまだ「異常が起きたときの緊急連絡用ボタン」などが一般的ですが、アメリカでは、「ペンダント型の、対象者の体調をチェックする小さな機械」で、本人がボタンを押す間もなく倒れても、異常を感知するシステムもあります。

もちろん、こういうサービスの恩恵を、すべての独居高齢アメリカ人が受けているわけではないのでしょうけど。

アメリカでは、「ある程度以上の年齢になったら、リタイアしてのんびり暮らす」のが一般的ではあるのですが、この新書では、医療用のニードル・チューブなどを製造するマサチューセッツ州のヴァイタニードル社が紹介されています。

この会社は従業員48人の約半数は65歳以上で、平均年齢は74歳。80~90代の高齢者を積極的に雇用しながら、高い生産性を維持し、高成長を続けているのです。

この会社のハートマン部長は、こんなふうに話しておられます。
 もちろん企業なので利益をあげなければならないのは当然だが、積極的な高齢者雇用は生産性や製品の品質等の面でもプラスになっているという。

 その理由はこうだ。若い従業員は、より良い条件を提示する会社があれば、すぐに転職してしまうかもしれないが、高齢従業員は「これが最後の職場である」との意識が強く、プライドを持って仕事をしている人が多い。従って会社への忠誠心が強く、定着率が非常に高い。また、高齢従業員の多くは公的医療保険(高齢者用のメディケア)や年金を受給できる年齢に達しているので、会社としてもそれらを提供する必要がない、という経済的なメリットもある。さらに高齢従業員は幅広い分野で豊富な経験を積んでいる人が多く、若い従業員も彼らからいろいろ学んだりして刺激を受け、相乗効果も生まれているという。これらのメリットの加え、高齢従業員は丁寧で正確な仕事をする人が多いということは前にも述べた。

 それでも、「高齢者を多く雇うのはリスクが高く、生産的でない」との批判は根強く存在する。たしかに「高齢者は病気などで欠勤しがちで、ケガをしやすい」などのリスクはあるかもしれないが、それは経営上の努力で回避することが可能だという。同社は従業員の病欠などで生産体制に支障が出ないような対策を取っている。作業場の従業員は皆、病気や休暇などで欠勤した人の補完ができるように、複数の仕事を処理する教育訓練(クロス・トレーニング)を受けているのだ。
この会社で働いている最高齢者は、99歳の女性なのだそうです。

彼女は、いまでも6時間×5日間、週30時間の仕事をこなしているのだとか。

「仕事をしていること」が、彼女にとっての生きがいであり、会社にもちゃんと利益を与えています。

もちろん、若い人と同じような力仕事は難しいでしょうが、職種や働き方をちゃんと考えれば、「働ける高齢者」はたくさんいるはずです。

これだけ高齢者人口が増えれば、「もう年なんだから」というのではなく、「できることをやってもらうようにする」のが、もっとも合理的なのかもしれません。

このハートマン部長の話を読むと、「労働力としての高齢者」は、これからの世界の大きな「資源」であるような気がします。

僕も「孤独死」はイヤだな、自分の遺体がウジまみれになって発見されるのは避けたいな、と思っています。

その一方で、子どもや妻に迷惑はかけたくないな、とも考えてしまいます。

この新書を読んでいると、アメリカ人は「死んだときの状態」よりも、「高齢者として、どう生きていき、死を迎えるか」について試行錯誤しているようです。

日本でも「ひとりで死ななければならない人」は増えていかざるをえないでしょう。

でも、「誰にもみとられずに死んだから不幸」だというのは、日本人の伝統的な「思い込み」なのかもしれません。
 しかし、ここで注意しなければならないのは、必ずしも単身世帯の増加が、独居者の孤立や孤独死の増加につながるわけではないということだ。実は、単身世帯の増加は日本に限らずほとんどの先進国で起きている。これは世界的な傾向なのだ。日本のメディアは、「2030年には単身世帯が全体の4割に迫る。それが孤独死の急増につながるのではないか」と大騒ぎしているが、北欧諸国ではすでに4割近くになっている。2010年のOECDの調査では、単身世帯の割合は日本29.5%に対し、ノルウェー37.7%、フィンランド37.3%、デンマーク36.8%である。しかし、これらの北欧諸国で独居者の孤立や孤独死が深刻な社会問題になっているという話は聞かない。

 また、ニューヨークのマンハッタンでは全世帯の半数以上が単身者だが、私が資材した限りでは住民の多くは孤立していない。ここは世界で最も都市環境の密度が高い地域の一つであり、社会的インタラクションがさかんで、人々は多くのつながりをもっているからである。
これまでずっと「家族で助け合っていくのが正しい」という考えを受け継いできた日本人に、急に「自立せよ」と言われても、すごく難しいとは思うんですよ。

でも、これからの人口動態を考えると、「高齢者も自立せざるをえない時代」がやってきているのは間違いありません。

「ひとり淋しく死にたくはない」けれど、「死ぬときは、みんなひとり」なんですよね。

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