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- 2012年03月04日 09:00
『個』と『仕事』と『ソーシャル』を考えるにあたって
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FTMフォーラム 第4回Green Table 開催概要
2月23日(木)に、国際大学GLOCOM主催のFTM フォーラム(Future Technology Management フォーラム。 議長:村上憲郎GLOCOM教授・主幹研究員、多様な人々を幸せにする「スマート社会」の構想と、その実現に必要な技術を取り巻く制度・カルチャー・企業経営を議論)の一貫で開催されているGreen Table (今後5年以内に社会の中心を担う世代の研究者、経営者、技術者、社会活動家をコアメンバーとしたラウンドテーブル)の第4回目が開催されたので参加した。
これで4回シリーズのうち、2~4回に3連続で参加することになり、この場の雰囲気、メンバーの個性等知る事が出来て、大変楽しかった。議論は毎回収斂するより拡散する事が多く、最終回の今回もシリーズ全体の雰囲気を象徴するようにパネラーと会場が入り乱れて大いに議論が盛り上った。開催概要は下記の通り。
第4回FTMラウンドテーブル(Green-Table)「個」と「仕事」と「ソーシャル」: GLOCOM
・日時:2012年2月23日(木)18:00~20:00
・会場:国際大学GLOCOM ホール
・話題提供:「個」と「仕事」と「ソーシャル」
・プレゼンター: 閑歳孝子 (株式会社ユーザーローカル 製品企画・開発担当)
慶應義塾大学環境情報学部卒業後、日経BP社に入社、記者・編集職を経て株式会社ケイビーエムジェイに転職。2008年より株式会社ユーザーローカルにて企画・開発を担当。アクセス解析ツール「ユーザーインサイト」やTwitter解析サービス「TwiTraq」などを開発する傍ら、ソーシャル家計簿サービス「Zaim」や写真スライドショーサービス「Smillie!」など個人サービスも多数。
・概要
これまでの「シェア」「生産性」「消費」という議論を踏まえた上で、ではこのような社会では個人がどのように働くべきなのかを議論したいと思います。特に 20-30 代では「お金はギリギリ食べられるくらい稼げればいい」という低消費・高ソーシャルな体験を求める動きの一方で、「大金を稼いで高級車を買ったり豪華客船でクルーズしたい。年金に備えたい」というような高消費・安定指向の動きも感じます。不可避な少子高齢化が迫っている中で、これからの「働く」という概念はどうなっていくのか。できれば、パネラーの方たち自身が今後をどう捉えているのかということも伺ってみたいです。
・プログラム
18:00 ~ これまでの議論の整理: 庄司昌彦(国際大学GLOCOM主任研究員)
18:10 ~ 話題提供「個」と「仕事」と「ソーシャル」
閑歳孝子 (株式会社ユーザーローカル 製品企画・開発担当)
18:40 ~ ディスカッション
川崎裕一 (株式会社kamado代表取締役社長)
閑歳孝子 (株式会社ユーザーローカル 製品企画・開発担当)
庄司昌彦 (国際大学GLOCOM 講師・主任研究員)
藤代裕之 (NTTレゾナント株式会社 新規ビジネス開発担当)
水野耕 (パナソニック株式会社 メディカルデバイス開発室)
19:30 ~ オピニオンメンバー・会場も含めた全体ディスカッション
20:00 終了
閑歳さんからの話題提供
今回は、急速に変わりつつある社会において、『個』の働き方の変化、新しい可能性、既存の会社組織における『個』のあり方との対比等をテーマに、(株)ユーザーローカルの閑歳さんがまず話題提供をして、それをベースにパネラーが議論し、途中からは、会場の参加者も加わって議論が沸騰した。
皮切りに提示されたのが、次の図だ。
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既存の分析タームが追いつかない
この図、なかなか興味深い。かなり多義的な解釈を許す余地があり、思わず自分でもこの中に別のセグメントを書き入れて見たくなる。あまりの急激な社会の変化に、既存の分析タームが追いつかないということかもしれないが、自らの言いたい事が書き表しきれないという表情が印象的な閑歳さんのジレンマも伝わってくる。私の頭にも、過去の古くさい分析タームが次々と去来する。『ニーチェ的なルサンチマンが変質する余地はあるのか』『日本的スノビズムがまたやって来ているのか』・・・。うーん、どうにもしっくり来ない。マルクスは下部構造としての経済の重要性を強調したが、『低消費・高ソーシャル』の時代には、『経済』の規定する物的代謝を超越するマインドが生まれて来ているのではないか・・・。だめだ、自分の頭の中の分析装置もいかにも古臭い。
既存の大企業の責任
そんな抽象論より、この図を見てずばり『既存の大企業』を対立軸に持って来て、議論を加熱させたのがパネラーの一人、NTTレゾナント(株)の藤代氏だ。日本の既存の大企業の多くがあきらかに行き詰まり、何らかの出口を求めて行かざるをえないにも関わらず、変化を好まない頑迷な経営層の壁に阻まれて身動きができないままに、いつの間にか市場での競争力がガタ落ちになってきているという認識は藤代氏ならずとも共有する人は多い。日本の大企業にいる個人は大方素質は申し分ないものの、このような苦境期にあって本来経験を積むべき実践の場がどんどん少なくなって来ている。一方、ベンチャー企業にいたり、自分で起業しようというような『個』は、冷や汗と脂汗を流しながら、貴重な体験を積み上げていく。しかも、『高ソーシャル』が時代の競争力のキーファクターとなろうとしている中、あろうことか大企業の多くは、個人がソーシャルに参加することを禁止するところも多い。少なくともあまりいい顔はしないところが今でも本当に多い。客観的に見て、このまま3~5年経過すれば、大企業の中の『個』の市場での競争力は今以上に大きく落ちていくことが予想される。藤代氏も停滞の責任者として団塊世代等、大企業の中高齢経営者を非難する。
日本企業のポテンシャル
すると会場からは、日本企業のポテンシャル、成長の時代を支えた人材のポテンシャルは捨てた物ではないと切り返す意見が出る。少なくともすべてを否定されてしまうのはおかしいということだろう。今回の議論の中には出てこなかったが、戦後の日本経済の成功をリードしたのは、松下幸之助、本田宗一郎、盛田昭夫、井深 大といった、日本が世界に誇れる起業家、かつ経営者達だ。確かに、今の経営者層に彼らに匹敵する人物を見つけるのは難しいが、偉大な起業家達の薫陶を受けて(直接ではないにせよ)育った優秀な人材はまだ沢山いるはずだ。そういう人たちの潜在力の高さを過小評価してはいけない、という主旨の指摘もあながち説得力がないわけではない。
ボタンの掛け違い?
どうやら、問題設定を考え直さないと、折角いい議論が出来そうなのに、前提がすれ違ってしまっている。しかも、閑歳さんが本当に期待する議論はおそらくこの、組織 vs 起業家という二項対立を超えて、働くことの価値意識の変化とそのような働き方が本当に可能になって来ているのか、というようなあたりにあるように見える。そこがまったく置き去りになっている。
市場認識を整理するために
仕事のことを語るには、日本の市場で今何が起きているのか、ある程度共通認識を持っておくことが不可欠だろう。しかも日本企業と一言でいってもピンキリだ。成功し、今でも成長している企業ももちろんある。だが、今回想定されているのは、かつて『非常に輝いていた日本企業が急激に衰退している』ことを象徴している企業、ということになるから、今回のパネラーにも急遽パナソニックの水野氏が呼ばれたように、IT/電気分野の企業群およびその市場について取り上げてみるのが一番間尺に合いそうだ。下記の図をご覧いただきたい。
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プラットフォーマーが既存起業を駆逐
昨今、テレビの価格が大きく下落し、ソニー、パナソニック、シャープ等一様に打撃を被っているわけだが、次世代のテレビとして注目されているのは、Google TVであったりApple TVだ。数ヶ月遡ると、電子書籍リーダーでソニーやシャープが惨敗したことは記憶に新しい。この場合の勝ち組も韓国メーカーとかではなく、まだ日本市場に本格参入しているわけではないのに、Amazon(Kindle)のほうだったりする。要は、この市場では単にデバイスの機能の優劣が問題なのではなく、コンテンツやコンテンツのバックヤードのレイヤーを統合して、『場』を総合的に支配する、Google、Apple、Amazonのような『プラットフォーマー』が既存企業を駆逐し、プレゼンスを拡大している。すでに、パソコン、携帯電話等では決着がついたと言っていいような状況だし、長く話題になってきたソニーのウオークマンとAppkeのiPodについても、失礼ながら決着はついたと言わざるをえない。そして、まだ『プラットーフォーマー』の洗礼を浴びていない製品やサービスも、早晩壊滅的な影響を被ることはもはや疑いえない。(このあたりの事情については、私の過去のエントリー プラットフォーム戦略に勝利する『決め手』 - 風観羽 情報空間を羽のように舞い本質を観る をご参照頂きたい。)
2月23日(木)に、国際大学GLOCOM主催のFTM フォーラム(Future Technology Management フォーラム。 議長:村上憲郎GLOCOM教授・主幹研究員、多様な人々を幸せにする「スマート社会」の構想と、その実現に必要な技術を取り巻く制度・カルチャー・企業経営を議論)の一貫で開催されているGreen Table (今後5年以内に社会の中心を担う世代の研究者、経営者、技術者、社会活動家をコアメンバーとしたラウンドテーブル)の第4回目が開催されたので参加した。
これで4回シリーズのうち、2~4回に3連続で参加することになり、この場の雰囲気、メンバーの個性等知る事が出来て、大変楽しかった。議論は毎回収斂するより拡散する事が多く、最終回の今回もシリーズ全体の雰囲気を象徴するようにパネラーと会場が入り乱れて大いに議論が盛り上った。開催概要は下記の通り。
第4回FTMラウンドテーブル(Green-Table)「個」と「仕事」と「ソーシャル」: GLOCOM
・日時:2012年2月23日(木)18:00~20:00
・会場:国際大学GLOCOM ホール
・話題提供:「個」と「仕事」と「ソーシャル」
・プレゼンター: 閑歳孝子 (株式会社ユーザーローカル 製品企画・開発担当)
慶應義塾大学環境情報学部卒業後、日経BP社に入社、記者・編集職を経て株式会社ケイビーエムジェイに転職。2008年より株式会社ユーザーローカルにて企画・開発を担当。アクセス解析ツール「ユーザーインサイト」やTwitter解析サービス「TwiTraq」などを開発する傍ら、ソーシャル家計簿サービス「Zaim」や写真スライドショーサービス「Smillie!」など個人サービスも多数。
・概要
これまでの「シェア」「生産性」「消費」という議論を踏まえた上で、ではこのような社会では個人がどのように働くべきなのかを議論したいと思います。特に 20-30 代では「お金はギリギリ食べられるくらい稼げればいい」という低消費・高ソーシャルな体験を求める動きの一方で、「大金を稼いで高級車を買ったり豪華客船でクルーズしたい。年金に備えたい」というような高消費・安定指向の動きも感じます。不可避な少子高齢化が迫っている中で、これからの「働く」という概念はどうなっていくのか。できれば、パネラーの方たち自身が今後をどう捉えているのかということも伺ってみたいです。
・プログラム
18:00 ~ これまでの議論の整理: 庄司昌彦(国際大学GLOCOM主任研究員)
18:10 ~ 話題提供「個」と「仕事」と「ソーシャル」
閑歳孝子 (株式会社ユーザーローカル 製品企画・開発担当)
18:40 ~ ディスカッション
川崎裕一 (株式会社kamado代表取締役社長)
閑歳孝子 (株式会社ユーザーローカル 製品企画・開発担当)
庄司昌彦 (国際大学GLOCOM 講師・主任研究員)
藤代裕之 (NTTレゾナント株式会社 新規ビジネス開発担当)
水野耕 (パナソニック株式会社 メディカルデバイス開発室)
19:30 ~ オピニオンメンバー・会場も含めた全体ディスカッション
20:00 終了
閑歳さんからの話題提供
今回は、急速に変わりつつある社会において、『個』の働き方の変化、新しい可能性、既存の会社組織における『個』のあり方との対比等をテーマに、(株)ユーザーローカルの閑歳さんがまず話題提供をして、それをベースにパネラーが議論し、途中からは、会場の参加者も加わって議論が沸騰した。
皮切りに提示されたのが、次の図だ。
リンク先を見る
既存の分析タームが追いつかない
この図、なかなか興味深い。かなり多義的な解釈を許す余地があり、思わず自分でもこの中に別のセグメントを書き入れて見たくなる。あまりの急激な社会の変化に、既存の分析タームが追いつかないということかもしれないが、自らの言いたい事が書き表しきれないという表情が印象的な閑歳さんのジレンマも伝わってくる。私の頭にも、過去の古くさい分析タームが次々と去来する。『ニーチェ的なルサンチマンが変質する余地はあるのか』『日本的スノビズムがまたやって来ているのか』・・・。うーん、どうにもしっくり来ない。マルクスは下部構造としての経済の重要性を強調したが、『低消費・高ソーシャル』の時代には、『経済』の規定する物的代謝を超越するマインドが生まれて来ているのではないか・・・。だめだ、自分の頭の中の分析装置もいかにも古臭い。
既存の大企業の責任
そんな抽象論より、この図を見てずばり『既存の大企業』を対立軸に持って来て、議論を加熱させたのがパネラーの一人、NTTレゾナント(株)の藤代氏だ。日本の既存の大企業の多くがあきらかに行き詰まり、何らかの出口を求めて行かざるをえないにも関わらず、変化を好まない頑迷な経営層の壁に阻まれて身動きができないままに、いつの間にか市場での競争力がガタ落ちになってきているという認識は藤代氏ならずとも共有する人は多い。日本の大企業にいる個人は大方素質は申し分ないものの、このような苦境期にあって本来経験を積むべき実践の場がどんどん少なくなって来ている。一方、ベンチャー企業にいたり、自分で起業しようというような『個』は、冷や汗と脂汗を流しながら、貴重な体験を積み上げていく。しかも、『高ソーシャル』が時代の競争力のキーファクターとなろうとしている中、あろうことか大企業の多くは、個人がソーシャルに参加することを禁止するところも多い。少なくともあまりいい顔はしないところが今でも本当に多い。客観的に見て、このまま3~5年経過すれば、大企業の中の『個』の市場での競争力は今以上に大きく落ちていくことが予想される。藤代氏も停滞の責任者として団塊世代等、大企業の中高齢経営者を非難する。
日本企業のポテンシャル
すると会場からは、日本企業のポテンシャル、成長の時代を支えた人材のポテンシャルは捨てた物ではないと切り返す意見が出る。少なくともすべてを否定されてしまうのはおかしいということだろう。今回の議論の中には出てこなかったが、戦後の日本経済の成功をリードしたのは、松下幸之助、本田宗一郎、盛田昭夫、井深 大といった、日本が世界に誇れる起業家、かつ経営者達だ。確かに、今の経営者層に彼らに匹敵する人物を見つけるのは難しいが、偉大な起業家達の薫陶を受けて(直接ではないにせよ)育った優秀な人材はまだ沢山いるはずだ。そういう人たちの潜在力の高さを過小評価してはいけない、という主旨の指摘もあながち説得力がないわけではない。
ボタンの掛け違い?
どうやら、問題設定を考え直さないと、折角いい議論が出来そうなのに、前提がすれ違ってしまっている。しかも、閑歳さんが本当に期待する議論はおそらくこの、組織 vs 起業家という二項対立を超えて、働くことの価値意識の変化とそのような働き方が本当に可能になって来ているのか、というようなあたりにあるように見える。そこがまったく置き去りになっている。
市場認識を整理するために
仕事のことを語るには、日本の市場で今何が起きているのか、ある程度共通認識を持っておくことが不可欠だろう。しかも日本企業と一言でいってもピンキリだ。成功し、今でも成長している企業ももちろんある。だが、今回想定されているのは、かつて『非常に輝いていた日本企業が急激に衰退している』ことを象徴している企業、ということになるから、今回のパネラーにも急遽パナソニックの水野氏が呼ばれたように、IT/電気分野の企業群およびその市場について取り上げてみるのが一番間尺に合いそうだ。下記の図をご覧いただきたい。
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プラットフォーマーが既存起業を駆逐
昨今、テレビの価格が大きく下落し、ソニー、パナソニック、シャープ等一様に打撃を被っているわけだが、次世代のテレビとして注目されているのは、Google TVであったりApple TVだ。数ヶ月遡ると、電子書籍リーダーでソニーやシャープが惨敗したことは記憶に新しい。この場合の勝ち組も韓国メーカーとかではなく、まだ日本市場に本格参入しているわけではないのに、Amazon(Kindle)のほうだったりする。要は、この市場では単にデバイスの機能の優劣が問題なのではなく、コンテンツやコンテンツのバックヤードのレイヤーを統合して、『場』を総合的に支配する、Google、Apple、Amazonのような『プラットフォーマー』が既存企業を駆逐し、プレゼンスを拡大している。すでに、パソコン、携帯電話等では決着がついたと言っていいような状況だし、長く話題になってきたソニーのウオークマンとAppkeのiPodについても、失礼ながら決着はついたと言わざるをえない。そして、まだ『プラットーフォーマー』の洗礼を浴びていない製品やサービスも、早晩壊滅的な影響を被ることはもはや疑いえない。(このあたりの事情については、私の過去のエントリー プラットフォーム戦略に勝利する『決め手』 - 風観羽 情報空間を羽のように舞い本質を観る をご参照頂きたい。)
- SeaSkyWind
- IT関連ビジネスを中心に思想などを社会学等文化系の語り口で