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松坂大輔がソフトバンクではなく中日で再起できた理由 - 新田日明 (スポーツライター)

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 中日ドラゴンズの新監督に球団OBの与田剛氏が決まった。チームは今季5位と低迷し、6年連続のBクラスにあえぐ。第2、3回WBCに参加した日本代表・侍ジャパン、そして今季まで3年間に渡って楽天で投手コーチを務めた新指揮官には投手陣再建の期待がかかる。中でも今季、新天地で今季6勝4敗、防御率3・74をマークし、復活の狼煙をあげた松坂大輔をどのように〝操縦〟していくのかも注目ポイントだ。

 一見接点がないようにも思えるが、2009年開催の第2回WBCでは侍ジャパンのエースだった松坂を投手コーチとして側面からサポート。当時絶頂期にあった怪物の良き理解者として実は当時、かなり密な関係にあった。来季から現場を離れてシニアディレクターに就く森繁和前監督同様、ベテラン右腕を気持ちよく投げさせながら勝ち星を上積みさせるプランを今から頭に描いているはずである。

ソフトバンク時代との違い

 さて、その松坂は今季のチームで周囲の期待以上に貢献した。福岡ソフトバンクホークスでは昨季まで3年間在籍しながら一軍で中継ぎとして1試合のみの登板に終わり、防御率18・00。右肩痛のコンディション不良に悩まされたことで散々な内容に終わったものの、昨オフはソフトバンクからのコーチ就任要請を断って現役続行の道を模索した。ここで手を差し伸べたのが中日だった。

 かつての西武ライオンズ時代から昵懇の森前監督と編成部に席を置く友利結氏が中心となり、今年1月の入団テストを経て入団。「通用するはずがない」とささやかれた下馬評を覆し、不死鳥のごとく蘇った。

 今季は他の先発陣と違って登板間隔を大幅にあける〝ゆとりローテ〟の特権が与えられている。だからといって、チームの中で浮いた存在になっているわけではない。むしろ、完全に打ち解けている。マウンド外では若手投手陣たちから質問攻めにされながらも、嫌な顔ひとつ浮かべることなく自分の経験を基に適切な助言を送っているのは今や中日での日常的な光景だ。肩書きこそ付いていないが、いわば兼任コーチのようなポジションと言っていい。つい、1年前までは考えられなかった光景である。

 ソフトバンク時代はチームの戦力が充実していたこともあり、移籍当初から12球団ナンバー1ともっぱらだった先発投手枠に割って入るのは困難と大半の人たちが予想していた。しかも、どちらかといえば4年前のソフトバンク入りがフロント主導で進められたプランだったのは多くの球界有識者が知るところだ。実際のところ当時の現場サイドは松坂の獲得を望んでいなかったともささやかれていた。だから〝飼い殺し〟になったとしても決して不思議はなかったのだ。

 そういう雰囲気を自らも感じ取っていたからこそ、この頃の松坂にはどことなく暗い表情が漂い、野球を楽しめていないように見えた。ソフトバンクに移籍後初めてチームの春季キャンプに参加した際もほとんど笑顔がなく、どこか窮屈そうで居心地の悪さを覚えているように感じられたのは松坂を昔から良く知る関係者ならば皆同じ思いだったはずである。

こんな内情だとは思わなかった〟という誤算

 昔から松坂は現状の立ち位置に甘んずることなく高い目標を定め、そこに向かって突っ走ることを生きがいとする性格の持ち主だ。だからこそソフトバンク入りした直後の目標はまず一軍の先発ローテーション入りであり、年間を通じての活躍だった。しかしながら「どれだけ頑張ってアピールしたとしても。一軍に入る機会はもしかすると巡ってこないかもしれない」と考えるようになれば、途端にモチベーションは低下していく。ホークスのチーム内からも「あれだけやる気を失いかけてしまったら結果も伴わなくなるどころか、コンディションだって悪化してしまいますよ」と同情的な声が聞こえてきたように、松坂の心中には入団早々から〝こんな内情だとは思わなかった〟という誤算が生じていたようだ。

 そして案の定、移籍1年目の開幕直前となるオープン戦期間中に右肩のコンディション不良で戦線離脱するハメになる。大型契約で大金をもらっているにもかかわらず、右肩の違和感を理由に一軍で投げない。そんな手負いの怪物に対し、周囲からの風当たりが強まるのも無理はなかった。

 メジャーリーグから9年ぶりに日本復帰が決まった際には熱烈な歓迎ムードだった在福メディアからも手のひらを返してバッシングを浴びせられるようになり、関係性は急速に悪化。チーム内外で孤独感にさいなまれながら、四面楚歌に近い形になった。しかも愛する妻と3人の子どもたちを米国のボストンにある自宅に残し、自分は日本に単身赴任――。並の神経しかない人ならば孤独な状況にも耐えかねて、とうにギブアップしていたことだろう。

 だが、それでも松坂は諦めなかった。このままでは終われない。どれだけ嘲笑されようとも、そう念じながら心を折らずに自分を信じ続けたからこそ今季は不死鳥のごとく蘇ったのだ。プロで3年間もまったく戦力にならず、1勝もできなかった男が復調を遂げたことは前所属先のソフトバンクだけでなく海の向こうのメジャーリーグでも驚きを与えている。

世界のベースボールプレーヤーに勇気を与える

 シカゴ・カブスで編成部門の責任者を兼務するセオ・エプスタイン球団社長も松坂の復活に目を白黒させている1人だ。かつて2006年のオフ、ボストン・レッドソックスでのGM時代に西武ライオンズからポスティングシステムでメジャーリーグへの移籍を希望した松坂の獲得を決め、大金を投じて独占交渉権を獲得。入団にこぎつけた。ルーキーイヤーの2007年に15勝を挙げてチームのワールドシリーズ制覇に尽力し、翌2008年にも18勝を飾って2年連続のポストシーズン進出に貢献した松坂の活躍ぶりは無論、今でも彼の脳裏に焼き付いている。

 今年の夏、カブスを取材するためシカゴの本拠地リグレー・フィールドを訪れたという記者によれば、松坂が日本で復活を遂げたことについて振ってみると、笑みを浮かべながら「すでに知っているよ」と即答されたという。そして、同球団社長はこうも続けたという。

 「驚きを禁じ得ない。日本に帰ってから彼がどういうプレーをするのか注目していたが、最初に所属した球団(ソフトバンク)では残念ながら結果が出なかった。その後数年間も満足な投球ができなかったので、彼の野球人生は終わりを迎えると思っていた。ところが、移籍した今の球団で復活した。メジャーリーグを含めプロフェッショナル・ベースボールの世界では、長いブランクのハンディキャップを乗り越えて再びトップレベルのプレーを見せることは極めて困難だ。しかし、彼はそれをやってのけた。これは本当に信じられず、凄いことだ」

 日本球界での松坂の復活に関しては球団関係者や米メディアのビートライターたちから耳にしていたという。かつての〝ビジネスパートナー〟としてエプスタイン球団社長は、次のようなエールも送っていたそうだ。

 「かつて一緒に仕事をした仲間として彼の復活は心から嬉しく思うし『グッド・ラック』と言いたい。そして彼の復活は同じような境遇に置かれている世界のベースボールプレーヤーに力強い勇気を与えることにつながるだろう」

 松坂にとっては、きっと心を奮い立たせられる言葉だと思う。ちなみに「まだまだ、こんなもんじゃない」とは今季の成績に関する本人の自己寸評だ。松坂世代と呼ばれた同期の主力選手たちは次々とユニホームを脱いでいるが、39歳を迎える来季も怪物右腕のさらなる「超復活」が期待される。

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