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暴かれた「漫画村」、ブロッキングは本当に必要か? - 河本秀介 (弁護士)

 アニメや漫画などのコンテンツ産業にとって、出版社や作者に承諾なくコンテンツを公開し、広告収入などを得る、いわゆる海賊版サイトが大きな問題となっています。

 海賊版サイトの中には、「漫画村」(既に閉鎖)などのように、国内で出版されているコミックの主要タイトルのほぼ全てが無料で読めるようになっているサイトもあります。

 当然ながら、海賊版サイトのアクセス数がいくら増えても権利者には1円も還元されません。また、出版社や作者としては、本来であれば出版や配信によって得られたはずの利益が奪われているため、多大な被害が生じているといえます。

 このような海賊版サイトは実態を掴むのが難しく、既存の手続では差止や損害賠償が困難だとして、プロバイダ側でユーザのアクセスを遮断する、いわゆる「ブロッキング」を実施すべきという議論もされています。

 そんな中、先日、漫画家から委託を受けた弁護士の一人が、米国の訴訟手続を利用することにより、海賊版サイト(おそらく「漫画村」だと思われます)の運営者とみられる人物の氏名や住所などの情報を取得することに成功したことを発表しました。

 この弁護士はどのような方法でサイト運営者を特定したのでしょうか。また、これにより海賊版サイトに対するブロッキングの議論はどうなるのでしょうか。

(svt1992/Gettyimages)

運営実態の解明が困難であった「海賊版サイト」

 出版社や作者といった著作権者に無断で漫画などの著作物をインターネット上にアップロードし、利用者に閲覧させることは、著作権を侵害する行為です。

 このような違法アップロードに対しては著作権法に基づく刑事罰が科せられる可能性があります。また、出版社や作者は、違法アップロードによって不当に利益が奪われていることになりますので、著作物を違法アップロードした者に対して、本来得られたはずの利益を損害賠償請求することが考えられます。

 もっとも、損害賠償請求などを行うためには、まずは著作物を違法にアップロードした者(加害者)がどこの誰かなのかを突き止める必要があります。インターネットには匿名性がありますので、通常は容易ではありません。

 違法アップロードがSNSや掲示板などのウェブサービス上でなされている場合には、ウェブサービスの管理者やプロバイダに発信者情報を開示させることが可能です。この場合、多少手間はかかりますが、多くの場合、加害者の氏名や住所を突き止めることが可能です。

 これに対して加害者が独自に海賊版サイトを立ち上げ、管理・運営しているような場合には、ウェブサービスを介した情報開示はできません。

 この場合でも、ドメインの所有者情報や、IPアドレスからホスティングサービスを割り出すことで、ウェブサイトの運営者が誰なのかを突き止めることができる場合もあります。

 しかしながら、海賊版サイトの運営者は、通常は、ドメイン取得代行サービスなどにより所有者情報を匿名化しています。また、海外のホスティングサービスを利用している場合、日本の裁判手続により発信者情報の開示を求めることには困難があります。

 とりわけ悪質性の高い業者の場合、他の世界から孤立した法律の及ばない地域などに設置されたサーバによる匿名性の高いホスティングサービス(いわゆる「防弾ホスティング」)を利用して運営者がどこの誰なのかを巧妙に隠蔽しており、運営の実態を突き止めるのは困難でした。

CDNを通じた発信者情報取得の手段とは

 今回、前述の弁護士は、従来とは異なる方法で漫画村の運営者情報の取得に成功したと発表しました。

 海賊版サイトは、サーバにアクセスが集中することによる通信障害を防ぐため、往々にして、コンテンツデリバリネットワーク(CDN)と呼ばれる配信サービスを利用しています。CDNは契約者のサーバにあるデータを世界中に設置されたサーバにコピーして配信することで、契約者のサーバへのアクセス負荷を低減し、通信速度を維持するサービスを提供しています。今回運営者が特定されたとされる海賊版サイトも、米国のCDN大手であるクラウドフレア社のサービスを利用していました。

 同弁護士は米国の法律事務所と提携し、米国の裁判所にクラウドフレア社に対する著作権侵害訴訟を提起し、米国の裁判所の命令により、クラウドフレアに漫画村の運営者に関する情報を開示させたということです。

 現状では海賊版サイトが防弾ホスティングだけで大量の通信を行うことは困難です。よって、海賊版サイトが匿名性を維持したまま通信速度を確保するためにはCDNなどを利用することが必要になってきます。CDNから情報を得ることが可能となると、海賊版サイトなどの運営者を特定できる可能性が高まるといえます。

 今後、米国の裁判所を活用したCDN事業者からの発信者情報の取得がノウハウとして定着した場合、海賊版サイトが正体を隠匿しながらアクセスを拡大する手段のひとつが使えなくなることになるため、海賊版サイトを抑制することができると期待されます。

海賊版サイトへの対抗手段「ブロッキング」とは

 海賊版サイトに対しては、内閣に設置された知的財産戦略本部でも対策が検討されています。なかでも、ネットユーザが海賊版サイトにアクセスしようとした場合に、プロバイダ側で強制的に接続を遮断するなどの「ブロッキング」の導入の是非を巡って議論となっています。

 これに関して、知的財産戦略本部は本年4月13日、特に悪質な海賊版サイトに対してブロッキングを実施できる環境整備が必要であるとして、法制度が整備されるまでの間の臨時的・緊急的な措置として、特に悪質性の高いサイトについて民間事業者の主導でブロッキングを行うことが適当などとする緊急対策案を決定・公表しました。

 その後、知的財産戦略本部に「インターネット上の海賊版対策に関する検討会議」(タスクフォース)が置かれ、海賊版サイト対策について、ブロッキングの法制度化の是非を含めた議論がされています。

 このように違法なサイトを見られなくしてしまうという措置は、一見すると理にかなっているように思えるかも知れませんが、実は、ブロッキングには、主に憲法に定める通信の秘密との関係で課題があります。

 ブロッキングを行うためには、違法なサイトへのアクセスかどうかにかかわらず、あらゆるネットユーザのアクセス情報を取得し、そのアクセスがブロッキング対象かどうかをチェックする必要があります。

 憲法に定める通信の秘密には、通信の内容だけでなく通信を行ったこと自体の秘密が含まれると解釈されていますので、プロバイダがユーザのアクセス情報を網羅的にチェックすることは、通信の秘密を侵害する可能性があるというわけです。

 ブロッキングに反対する側は、ブロッキングは憲法で定められた通信の秘密に抵触する可能性があり、また、表現の自由や知る権利からも問題が大きいとしています。

 ブロッキングに賛成する意見も、ブロッキングが通信の秘密を侵害する可能性があることは認めたうえで、海賊版サイトへの実態の解明が極めて困難であるため、権利保護のため緊急かつやむを得ない措置として認められるべきとするものが大半です。

 なお、10月15日に開催された検討会議では、ブロッキングに対する賛否の意見が鋭く対立したまま協議が終了し、今後の協議の見通しも立っていないという事態になりました。

ブロッキング導入はパンドラの箱を開けることにならないか

 私の見解ですが、やはりブロッキングには弊害が大きいと言わざるを得ないでしょう。特に、海賊版サイトの実態解明に有効となる可能性の高い手段が見つかった以上、ブロッキングの是非については、ブロッキングが真に海賊版サイトに有効な手段となるかどうかも含め、今まで以上に慎重に検討されるべきだと考えます。

 ブロッキングは、いうなれば国やプロバイダが、有害と判断したウェブサイトを法律などで閲覧させないことができるということです。仮に法律を作ったとしても、安易な運用によってブロッキングの対象がなし崩し的に拡大した場合、インターネットを通じた表現や議論が過剰に制約されるおそれもあります。

 ブロッキングには、運用を一歩間違えると情報の管理社会化を招きかねない危うさがあります。

 これに対して、従来は海賊版サイトに対してブロッキング以外に有用な手段が見当たらないという前提で議論が進められていました。CDNを通じた情報取得の途が拓けたとなると、議論の前提が覆された格好となりますので、従来の議論も見直される必要があると思われます。少なくともブロッキングありきで議論を進めるべきではないでしょう。

 知的財産戦略本部の検討会議での中間取りまとめ案が先送りになったことも、拙速な議論を回避するためにはやむなしと考えます。

 海賊版サイトにより、出版社や作家に多額の損失が生じていることは事実であり、対策が急務であることは間違いありません。また、ブロッキングが海賊版サイト対策に有用な手段となる可能性があることも否定できないでしょう。

 だからといって安易にブロッキングを導入した場合、情報の管理社会化に向けたパンドラの箱を開けることになりかねません。いま一度、原点に立ち戻った議論が必要だと感じます。

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