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安倍首相は訪中で、中国を支援するのか? - 澁谷 司

 今年(2018年)10月25日、安倍晋三首相が訪中を予定している(~27日)。

 目下、中国は景気が悪い上、「米中貿易戦争」の最中にいる。そこで、中国共産党が、我が国に“秋波”を送っているのは明らかだった。

 周知の如く、今年9月、防衛省は海上自衛隊の潜水艦を南シナ海に派遣し、対潜水艦を想定した訓練を13日に実施した、と4日後の17日に発表した。

 おそらく、防衛省は、北京の反応を見るため(或いは、北京が反発しないのを見越して)、故意に海自の訓練を発表したのだろう。

 不思議な事に、普段ならば、猛反発するはずの中国共産党が、殆んど何も日本に抗議を行わなかった。極めて異例である。現在、中国の経済状況が如何に逼迫しているかが窺えよう。

 そこで、我が国の一部学者・研究者から、安倍首相は訪中後、中国支援に乗り出すのではないかと危惧する声が上がっている。

 1989年「六・四天安門事件」(米英の資料によれば、中国共産党が人民解放軍を投入し、丸腰の市民・学生ら1万人以上を虐殺)後、まもなく(日本を含む)欧米は北京政府に対し、厳しい経済制裁を課した。

 ところが、翌年7月、海部俊樹政権は、第16回先進国首脳会議で(ヒューストン・サミット)円借款再開を表明し、あっさり対中経済制裁解除宣言を行っている。

 その頃、中国共産党内では「改革派」と「保守派」が鋭く対立していた。まさに、党内分裂の危機、国家存亡の危機を孕んでいたのである。そこで、中曽根康弘(故・胡耀邦総書記と親交が深かった)や竹下登ら元総理が、海部首相に、対中円借款再開を促したという。

 確かに、西側が対中経済制裁を継続する中、海部政権がいち早く中国共産党を助けたという批判はもっともである。

 ただ、当時、今の習近平政権とは異なり、「改革派」の旗手、胡耀邦総書記、趙紫陽総書記と続き、中国が開かれつつあった事は間違いない。もしかして、中国が「民主化」へ舵を切るかもしれないと期待されていた時期である。

 そのため、海部内閣が、対中経済制裁を継続すれば、中国共産党の「保守派」勢力が勢力を増すと判断したとしても、決して不思議ではなかった(結果的に、判断ミスだったが)。

 また、対中制裁解除当時、「天安門事件」後、登場した江沢民(「改革派」と「保守派」の妥協の産物)が、どのような人物かを知っている日本人は殆んどいなかったのではないか。

 その後、江沢民主席が「保守派」である事が知れた。それが明確になったのは、1994年の「愛国主義教育運動」(=「反日教育」)が展開されてからである。

 後の歴史を見てから、ある時点の政策を批判するのは、言わば“後知恵”に過ぎない(仮に、江沢民が「改革派」かつ「親日派」だったら、海部首相は“慧眼”だったと賞賛されていただろう)。

 結局、海部首相は「早過ぎた対中経済制裁解除」という“汚名”を着せられている。無論、政治家は結果責任を問われるので、そういうレッテルを張られても仕方ないかもしれない。

 さて、今の習近平政権は、誰がどう見ても、「超保守派」である。そして、日米をはじめ、大多数の先進国(特に、指導者)はそう思っているだろう。従って、安倍首相が、このような政権に「塩を送る」とは考えにくい。

 思えば、2012年12月、安倍首相は「セキュリティ・ダイヤモンド」構想(自由主義と民主主義国家、日本・米国ハワイ・オーストラリア・インドで、膨張する中国を封じ込める)を引っさげて再登場した。

 現在、米トランプ政権は、安倍首相の「セキュリティ・ダイヤモンド」を模倣し、我が国と連携しながら「中国封じ込め」政策を行っているふしがある。

 また、今年10月4日、ペンス副大統領が事実上の対中「宣戦布告」(「現代版ハル・ノート」?)とも取れる演説を行ったばかりである。

 今回、安倍首相が訪中しても、北京政府に一方的な経済支援を行う可能性は極めて低いのではないか。

 従って、日本の識者の安倍首相による「対中一方的支援」は杞憂に終わる公算が大きい。

澁谷 司(しぶや つかさ)
1953年、東京生れ。東京外国語大学中国語学科卒。同大学院「地域研究」研究科修了。関東学院大学、亜細亜大学、青山学院大学、東京外国語大学等で非常勤講師を歴任。2004~05年、台湾の明道管理学院(現、明道大学)で教鞭をとる。2011~2014年、拓殖大学海外事情研究所附属華僑研究センター長。現在、同大学海外事情研究所教授。 専門は、現代中国政治、中台関係論、東アジア国際関係論。主な著書に『戦略を持たない日本』『中国高官が祖国を捨てる日』『人が死滅する中国汚染大陸 超複合汚染の恐怖』(経済界)、『2017年から始まる!「砂上の中華帝国」大崩壊』(電波社)等多数。

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