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失踪ジャーナリスト報道の違和感

失踪したJamal Khashoggi氏 flickr April Brady/Project on Middle East Democracy

宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

【まとめ】

・失踪ジャーナリストはサウジ王族に近いエスタブリシュメント。

・米サウジ関係の悪化は不可避か。

・レッドライン超えに気付かぬサウジ王家はいずれしっぺ返し受ける。

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されないことがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=42485でお読みください。】

今週のハイライトは何と言っても在イスタンブール・サウジアラビア総領事館訪問後に行方不明となった同国人ジャーナリストの「失踪事件」だろう。この事件、どこかの国の出来の悪いスパイ映画に似て、あまりに謎が多く、驚くべきことばかり。だが、報じられた情報の多くはフェイクかもしれない。筆者が気になった点を列挙しよう。

まず失踪者の名前が気に入らない。日本ではカショギ氏とされているが、それは違う。事件発生当初の英語ニュースでは同氏の姓をKhashoggi「カショーギと読んでいたが、これも正確ではない。Khashoggiは同氏が使った英語名に過ぎず、アラビア語ではカショーギではなく、Khaashuqjii(ヵハー・シュク・ジー)と発音するからだ。

名前なんてどうでも良いではないか、と言う勿れ。姓がKhaashuqjiiとなれば、これは典型的アラブ姓ではない。そう、ジャマール氏の祖父はトルコ系であり、サウジ人女性と結婚した後、サウジアラビア初代国王の主治医となった人物である。ジャマール氏はサウジ王族に近いエスタブリシュメントの一員ともいうべき人物なのだ。

その証拠に、イラン・コントラ事件で有名になったサウジの武器商人、アドナンも彼の親戚だという。報道からはジャマール氏が、サウジ政府に批判的な新聞記者で、サウド王家から迫害を受けていた悲劇のジャーナリストというイメージが強い。しかし、実際にはジャマール氏も裕福な家庭出身であり、およそ反体制派ではないのである。

▲写真 アドナン・カショギー氏 出典:Roland Godefroy(Wikimedia)

米ワシントンポストによれば、今回の事件では、サウジ皇太子がジャマール氏を本国に帰国させた上で拘束するよう命令していたという。俄かには信じられない話だが、もしこれが事実であれば、米サウジ関係の悪化は不可避だろう。総領事館内で殺害し、遺体を切断して本国に持ち帰ったとなれば、米国人は黙っていられないからだ。

米国主要メディアは連日大騒ぎだし、連邦議会も超党派でサウジを厳しく批判し始めた。当初煮え切らない発言を繰り返していたトランプ氏ですら、10月14日にはCBSのインタビューに答え、ジャーナリストの殺害が真実ならば、米国はサウジに対して「深刻な罰」を与えるだろうと発言している。サウジは何を勘違いしたのだろうか。

▲写真 トランプ米大統領のサウジアラビア訪問に同行したクシュナー氏(左から2人目)。ムハンマド皇太子の姿も(同4人目)。2017年5月20日 リヤド 出典:The White House flickr

米国識者の中には、サウジ皇太子と特別な関係を維持してきた大統領娘婿のクシュナー氏が同皇太子を「大胆にさせた」張本人ではないかと批判する。この事件については今週のジャパンタイムズに英語でコラムを書いた。ご関心のある向きはご一読願いたい。

〇 欧州・ロシア

今週も大きなニュースはない。懸念すべきは14日のドイツ・バイエルン州議会選挙で、同州を地盤とする国政与党のキリスト教社会同盟(CSU)が歴史的大敗を喫したことだ。CSUの得票率は前回より10%程度下落、逆に、極右政党AfDが得票率10%で初めて議席を獲得した。メルケル政権にとっては危険信号である。

▲写真 メルケル独首相 出典:Angela Merkel facebook

〇 中東・アフリカ

サウジジャーナリスト失踪事件を受け、経済界にも激震が走った。Virgin Groupはサウジ公的投資基金との紅海観光関連投資案件協議を停止。10月23日にリヤドで開催予定のサウジ皇太子主催投資会合にはCNN、New York Timesは勿論、JP Morgan、Ford、日経新聞、世界銀行までが参加中止を発表したという。

それでもサウジ政府は強気で、「このような脅しを完全に拒否し、より強力な行動で応じる」と述べたそうだ。筆者のこれまでの経験からサウジが態度を変える可能性は低い。しかし、これまでとは異なり、今回の事件はやはりレッドラインを超えている。これに気付かないサウジ王家はいずれ、しっぺ返しを受けるに違いない。

〇 東アジア・大洋州

13-21日に韓国大統領がフランス、イタリア・バチカン、ベルギー、デンマークを訪問する。先般の南北首脳会談を受け、北朝鮮との関係改善を働き掛けるのだとすれば、大きな勘違いだ。現在の韓国大統領は根っからの「反米」「米朝戦争巻き込まれ反対」派なのだろう。こうした「革新系」が政権を握るとこうなってしまうという典型例だ。

〇 南北アメリカ

対北朝鮮政策でボルトン大統領補佐官が第二回目となる米朝首脳会談について、「今後2-3カ月のうちに」開催されることを期待すると述べたが、同日、トランプ氏はマティス国防長官について「彼は去るかもしれない「彼は民主党員のようだ」などと述べたそうだ。この政権、一体どうなっているのか。

内部にいる人間が分からないことを外部の我々が知る由もないが、マティス長官の辞任が現実となれば、個人的には大きなショックだ。同長官はトランプ政権の中で最も有能で尊敬されている閣僚の一人であり、海兵隊大将として米安全保障政策の基本を理解していると思うからだ。残念だが、辞任はもう時間の問題かもしれない

▲写真 マティス米国防長官 出典:米国防総省ホームページ

〇 インド亜大陸

ブータンで総選挙が行われる以外に特記事項なし、今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きはキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

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