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中国を変えた"信用格付けシステム"の怖さ

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中国人が急激に「品行方正」に変わりつつある。人々を変えたのは「信用格付けシステム」だ。この仕組みでは、個人が職歴や支払い実績、交友関係などから、350点から950点の「信用度」でランク付けされる。得点が低い人は、金融、不動産、医療などさまざまなサービスで「後回し」にされたため、みんな必死でマナーを守るようになった。しかし、これでいいのだろうか――。


■「予測アルゴリズム」という画期的な統治の方法

広大な領土に多大な人口を擁する中国では、むかしから統治者は「いかに秩序をもたらすか」に頭を悩ませてきた。長い年月の中で、恐怖による圧政、寛容による仁政、教育による統制などさまざまな統治が試みられてきたが、ここにきて、ついに統治者は画期的な方法を手に入れつつあるようだ。その方法とは、「予測アルゴリズム」という情報テクノロジーのことである。

中国では、長年にわたり食品生産や医薬品製造の安全性は保たれておらず、偽装や偽造、詐欺、脱税に官僚の腐敗、学術上の不正も横行し、治安当局の取り締まりも十分な効果を発揮してはいなかった。そのため、企業や消費者の取引コスト、経済秩序に関する行政のコストも大きく、人びとの規範意識を高めることは切迫した課題であった。

そうした中で、新たな統治手法として注目されるのが「予測アルゴリズム」だ。これは、オンライン上の購買や閲覧・行動の履歴といったパーソナルデータや、企業の信用取引データなど、いわゆる「ビッグデータ」を分析し、対象となる人物や企業の動向を予測する情報テクノロジーだ。中国政府は、いま、こうした技術を統治能力の改善に役立てようとしている。

■国民や企業がどの程度信用できるかを査定するシステム

2014年に中国国務院が発表した「社会信用システム建設計画綱要(2014~2020年)」や、中国共産党第13次5カ年計画(2016-2020年)の草案によると、2020年までに中国政府は、国家規模での情報蓄積体制を整備し、それを活用する「社会信用システム」なるものを構築するという。

なんでも政府が発表した資料によれば、「社会信用システム」は、蓄積されたさまざまなデータを基に、国民や企業がどの程度信用できるかを査定する、社会信用度の格付けシステムであるらしい。

「社会信用システム」は、いまだ全貌は明らかにされていない。しかし、それは、電子商取引の最大手であるアリババ・グループ・ホールディングや、ソーシャルメディア大手のテンセント・クレジット・ブリューといった中国の民間企業が、かねて取り組んできた「与信管理サービス」に関わる技術や知見を取り込む公算が高い。

というのも、中国人民銀行は、2015年にアリババ・グループ傘下の芝麻信用など、民間企業8社に信用調査機関としてのパイロット展開をいったん許可したのだが、2018年に信用調査機関としての許可書を正式に交付したのは、新設された百行征信用(略称・信聯)だけだったからだ。

■中国政府の直接的な指導下にある業界団体が筆頭株主に

この百行征信用は、業界団体である中国インターネット金融協会が36%を出資し、パイロット展開を許可された民間企業8社がそれぞれ8%ずつ出資して設立された、企業横断的かつ全国統一的な信用調査機関だ。

中国政府の直接的な指導下にある業界団体が筆頭株主になったことから、信用調査機関としての主導権が当局にあることを、改めて内外に明示した形だ。中国の内閣にあたる国務院が通知した「社会信用システムの概要」でも、「信用情報の統一的な公開と共有を実現する」(国務院 2014)と明記されているので、上述の民間企業8社が保有する顧客データベースや予測アルゴリズムは、百行征信用を経由して、当局主導の社会信用システムに接続される可能性は非常に高いと言われているのだ。

そのため、「社会信用システム」の基本的な仕組みは、芝麻信用などの民間企業が展開する「与信管理サービス」と、基本的には同様のものになると予想されている。民間企業が展開する「与信管理サービス」の仕組みがどのようなものか。ここでは、中国最大手のアリババ・グループ傘下にある芝麻信用が展開するサービスを事例として取り上げよう。


■個人の信用度を「350点から950点」で得点化する

芝麻信用は、第三者決済と電子マネー「支付宝(アリペイ)」の運営が主たる業務で、「与信管理サービス」はそうした業務に付随するサービスの一つだ。芝麻信用では、「与信管理サービス」を“信用生活”と呼ぶ。

信用生活では、アリババ・グループが運営するECプラットフォームを通じて収集されたパーソナルデータや金融貸出情報などを基に、予測アルゴリズムが次の5つの要素を評価し、個人の信用度(芝麻分)を350点から950点の範囲で得点化する。

(1)年齢や学歴や職業などの属性
(2)支払いの能力
(3)クレジットカードの返済履歴をふくむ信用履歴
(4)SNSなどでの交流関係
(5)趣味嗜好や生活での行動

つまり、学歴や職業ステータスが高く、また収入や預金額が高いほか、支払いを滞りなく行っており、友人関係も充実しバランスの良い生活を送っているほど、信用生活の予測アルゴリズムは、その人物の信用度を高く評価するわけだ。そして、信用度が高いほど、ユーザーはより良いサービスを受けることができる。それこそが“信用生活”と呼ばれるサービスだ。

■信用度が高ければ、さまざまな「前金」が不要になる

中国では、車のレンタルや不動産の賃貸、手術などの高額な治療、図書館の本の貸し出しといった公共サービスに至るまで、サービスの大半にはデポジット(いわゆる前金)が必要だ。それだけ中国では、他国では成立するような信用をベースにした取引が困難なのだ。

しかし、信用度の得点が高いと、そうしたデポジットが免除される。さらに病院での受診、海外渡航のためのビザの取得、金融商品の金利などでも優遇が受けられる。信用度が高いほど、生活の利便性が向上するのだ。

人々が自分の能力やキャリアを高めることで、あるいは社会的なルールをきちんと守ることで生活の利便性が向上するなら、個人にとっても、社会にとっても好ましいことのように思う。ところが、この仕組みには深刻な問題もある。

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