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「QR決済」で出遅れた日本人が理解すべき大転換の本質

【日本のQR決済はどうなる?(大前研一氏)】

 現金を持ち歩かず、クレジットカードや電子マネーで済ませる人が増えている。とはいえ、日本はまだまだ現金決済が中心だ。中国をはじめとした諸外国と比べあまり普及していないことも影響しているだろうが、使い勝手の悪さが大きな原因だろう。経営コンサルタントの大前研一氏が、キャッシュレス化が進まぬ日本で暮らす日本人が、遅れを取り戻すために何を理解すべきなのか解説する。

 * * *
 ようやく日本国内でも、デビット方式(※決済すると代金がリアルタイムで預金口座から引き落とされる決済方式)の「QRコード決済サービス」が拡大し始めている。

 これは、客が店のレジなどに掲示されているQRコードを専用アプリで読み取るか、客がスマホに表示したQRコードやバーコードを店がタブレット端末などで読み取ることによって決済を行なうシステム。国内では、オリガミの「Origami Pay」、LINEの「LINE Pay」、楽天の「楽天ペイ」、メタップスの「pring」、NTTドコモの「d払い」、アマゾンの「Amazon Pay」が続々と登場し、さらにソフトバンクとヤフーの「PayPay」も10月5日にサービスを開始して、乱戦模様になっている。

 だが、これらの多くは未だ地域・店舗限定であり、銀行口座との間で直接やりとりができないため、プリペイド(前払い)か4週間のフロート(後払い)、クレジットカード払いを使っている。中国のeコマース最大手アリババ傘下の金融会社アント・フィナンシャルの「余額宝」などのように、MMF(マネー・マネジメント・ファンド)と直接やりとりできるものは見当たらない。

 しかも、この変化はあまりにも遅々としている。たとえば中国のQRコード決済の利用者は、すでにアント・フィナンシャルの「アリペイ(Alipay=支付宝)」が約5億人、SNSとオンラインゲーム最大手テンセントの「ウィーチャットペイ(WeChat Pay=微信支付)」が約9億人に達している。利用者は重複しているが、それを勘案しても中国人の大半は両方、もしくはいずれかのQR決済サービスを使っているわけだ。

 その結果、決済だけでなく貯金や資産運用、融資などの金融サービスも両社が手中に収め、一時は中国全土に普及した「銀聯カード」や、融資を受けるのが難しい国策銀行は、あっという間に凋落してしまった。

 経産省はキャッシュレス決済比率を2025年に40%に高めることを目指しているが、そう簡単にはいかないだろう。なぜなら、世界的にQR決済革命というシー・チェンジが起きているにもかかわらず、その意味を多くの日本企業が理解していないからである。

 たとえば、三菱UFJ銀行などのメガバンクは独自のデジタル通貨の発行を目指したり、QR決済の実験をしたりしている。しかし、それらはあくまでも自己都合優先で顧客は二の次だ。本来は蓄積されていて然るべき顧客の信用情報もビッグデータとして活用できず、そのサービスは高コストの全銀システム(※注)をはじめとしてフリクション(摩擦)だらけである。

【※注/全国銀行データ通信システム。決済業務の中核を担うオンラインのデータ通信システムで、日本のほとんどの預金取扱金融機関が参加しており、そのコストは預金者の手数料によって賄われている】

 また、そもそもQR決済が本格的に普及したら、日本の銀行はクレジットカードの手数料という最大の収入源を失ってしまう。預金を集めて企業や個人に貸し出す“本業”の「預貸業務」では全く儲かっていない彼らが、眠っていても手数料が入ってくる金城湯池のクレジットカード事業を脅かすQR決済の導入を本気で急ぐとは思えない。

 だが、QR決済への移行自体は、さほど難しいことではない。もともとQRコードは1994年に日本の自動車部品メーカー・デンソーの開発部門(現在のデンソーウェーブ)が発明したもので、日本はテレビ番組でも使っているほど広く普及している国だから、それを決済手段として本格的に導入するかどうかは、関連業界が決断すればよいだけの話である。

 しかし、メガバンクだけでなく、楽天やヤフーも自社内に銀行事業やクレジットカード事業を持っていて、少なからず金融庁の支配を受けている。このためQR決済サービスへの参入が遅れたことは否めないし、今後も本腰を入れて取り組むかどうかは疑問が残る。つまり、純粋な“QR決済派”は、既存のエスタブリッシュメントにはいないのだ。

 中国の場合、アント・フィナンシャルやテンセントは失うものがなかったから、一気呵成にQR決済サービスを拡大して銀聯カードを凌駕することができた。日本でもQR決済革命というシー・チェンジの意味を深く理解し、金融庁の支配を受けることなく純粋にQR決済に賭けた企業が、群雄割拠の戦国時代を制するのではないだろうか。

※週刊ポスト2018年10月26日号

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