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「”派遣切り”再びのおそれ」をNHKが報道した背景

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「あっ、シゲさん・・・!」

 10月14日(日)、NHK「おはよう日本」に登場した人物の顔に驚きとともに懐かしさが広がった。

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 鈴木重光さん。

 労働組合「首都圏青年ユニオン」に相談に訪れた日、当時は日本テレビでディレクターをしていた筆者はこの労組をビデオカメラで撮影していて、リーマンショックで派遣切りされて、家も追い出されそうだという身の上話もたまたま横で聞くことになった。

 この頃、36歳だった鈴木さん。私たちメディアの人間にとって最初はとても堅い人だった。メディアの人間である私たちが話しかけても虚ろな表情で愛想がなかった。

 彼は川崎にある大手トラックメーカーの工場で働いていたが、「派遣切り」に遭い、派遣会社が工場労働者が住むための寮としていたマンションから立ち退きを迫られていた。

 その後、彼は労組に相談にのってもらいながら、会社側と闘うことを決意した。

 勤務していた工場の近くで出勤する会社側の職員らに向かって理不尽さを訴えるため、早朝、支援する数十人の労組関係者も集まった場所でマイクを握った鈴木さん。ところが、突然、嗚咽とともに話せなくなってしまった。

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「自分はずっと孤立して働いてきました。でも、今こんなにも多くの人たちが応援してくれるなんて・・・」

 一見、堅い表情ながら、内実はウエットで人情に熱く感激してしまう鈴木さんの「素」の姿が見えた瞬間だった。その頃から次第に鈴木さんは少しずつ変化した。労組の活動を始め、いろいろな活動に積極的にかかわるようになり、いろいろな人たちとつながるようになった。

「世の中、こんなに面白いことをやっている人たちがいたんですね。ずっと工場で知らなかった。自分の人生も面白くなってきましたよ・・・」

 笑ってそう話していた彼の表情は忘れない。

 純朴な人柄の鈴木さんはいろいろなものを吸収して、人生の面白さを追求していった。いつしか周囲の人たちから愛情を込めて「シゲさん」と呼ばれるようになった。

 農業体験の活動、芸術関係の活動、秋葉原事件の被害者の活動など、いろいろかかわっていったと記憶している。そのうちに自らも率先して活動をするようになった。10年前の年越し派遣村もボランティアを手伝った。社会を変えていく「活動家」を養成しよう・・・と「年越し派遣村」の村長を務めた湯浅誠氏らが呼びかけた「活動家一丁あがり講座」の初代の受講生の一人にもなった。

 その後、私が取材する活動などにしばらくの間、顔を出していたシゲさんだったが、次第に音信不通になっていた。

 それがNHKのニュースの画面で”再会”を果たした。

”派遣切り”再びのおそれ

 そんなタイトルで「おはよう日本」の朝7時半くらいに始まったニュースは、冒頭、2008年末の年越し派遣村の映像が流れた。

あれ(年越し派遣村)から10年、景気の回復で深刻な人手不足も叫ばれる中、再び派遣労働者が仕事を失ってしまう恐れが出てきています。

 そのニュースの中で、主人公として登場したシゲさんは46歳になっていた。現在は徳島に住んでいるという。

 ニュース映像では、顔を出さないように撮影された、当時のシゲさんの声が甦った。

「正社員と同じように仕事をしてきて、切られるのはいちばん最初。こういう方法に納得がいかないまま寮を出なければならない」

 シゲさんは解雇を不当だとして正社員として働き続けることを求めたが、職場復帰は果たすことができなかった。

今のシゲさんがインタビューで語っている。

「企業も人ひとりを人間として見るというよりは材料の一部という認識で、やっぱり使い捨てなんだな・・・」

 そういうシゲさんは徳島県の非常勤職員として、地域の町おこしに携わっているという。

「(派遣切りされたことで)僕の社会的な立ち位置がわかったことがいちばん大きかった」

 そう語るシゲさん。

国は「派遣切り」が相次いだことをうけて、3年前に労働者派遣法を改正した。

 派遣された人が3年勤務した場合には、派遣会社から働いている会社に「直接雇用することを依頼」したり、「派遣会社に正社員などととして雇用」することや別の新しい職場を紹介するなど、義務づけた。

 それにもかかわらず、派遣で働く人たちからの相談が労組のホットラインなどに寄せられているという。

 私もシゲさんが派遣切りされた頃に何度も取材させてもらった「派遣ユニオン」の関根秀一郎書記長もこのニュースに登場して以下のように語っていた。

「バーンと切られてしまって、これからどうしようというような追い込まれ方をされている方がたくさんいらっしゃいます。これから増えるだろうと思います」

 実際には、国が労働者派遣法の改正で絵に描いた形での雇用の安定やキャリアアップには全然つながっていないという現状がある。

 NHKのニュースでは、最近、雇い止めに遭遇した神奈川県に住む40代の女性も登場する。正社員への登用を夢見て努力してきたが、それはできないと告げられ、法改正が「やりがいを尊重してくれる法律ではない」と失望を語っていた。

なぜ、「雇い止め」が横行しそうなのか

 プレジデントオンラインでジャーナリストの溝上憲文氏が解説しているのでこちらを参照してほしい。

2018年、派遣社員の「雇い止め」が横行する背景

今年は派遣社員の「雇い止め」が横行するのではないかと予想されている。その証拠にすでに弁護士団体などがネット上での無料相談をはじめている。

出典:プレジデントオンライン「9月に『派遣切り』が急増するワケ」」

 「雇用の安定を図る」「キャリアアップにつなげる」などという美辞麗句の下で行われた労働者派遣法の改正。

 しかし、これでは不十分だという声は当初からあった。だが、相次いだ政権交代や経済界を声を重視する政権の長期化などで現在のように「骨抜き」状態をつくってしまったといえる。

 実は、「この3年」というのがこの秋から適用になる業種には、放送関係の職種が数多く含まれている。

 つまり、「派遣切り」の問題に直面しそうな人たちの中には、以下の人たちも大勢含まれている。

テレビ局などで働く契約社員のディレクター、AD、カメラマン、レポーターらだ

テレビ局にはそうした「派遣社員」は数多くいる。実数だけならば正社員よりもはるかに多いだろう

 それなのに、当のテレビ局では忙しすぎるのか、あまり問題の深刻さを本人たちが理解していない印象だ。

 今回、NHKがニュースで伝えた「年越し派遣村から10年後の”派遣切り”再びのおそれ」のニュース。一部の労組や弁護士らがいくら訴えても、この問題に対するメディアの関心は高いとはいえない。

 実はテレビ局で働く人たちにとっても切実な問題なのである。10年目にシゲさんのような人たちを取材した放送局でも「派遣切り」が横行しかねない環境になっている。そのことはもっと大手メディアで報道されてもいい。今回のNHK報道はそうした意味では画期的なものだということができる。

(キャスター)「法律を改正したのにどうしてこのようなことが?」

(社会部記者)「企業の努力に委ねられているからなんです。法律で雇用の安定などが義務づけられたとはいっても、いわば努力目標に過ぎず、実効性を伴わない、と指摘する労働組合もあります」

 もし、今、リーマンショックのような事態になったらどうなるのか?

 NHKは専門家のインタビューを伝えた。

法政大学 浜村彰教授

「景気が悪化してどこも縮小している場合は人員が全体として余剰していますから、けっきょく、派遣労働者が解雇されてしまう。その構造は今も変わっていませんから、もし景気が悪化して日本の企業が生産縮小、業務縮小した場合には、また大量の派遣切りが起きる可能生は非常に高いと思っています」

 再び派遣切りが起きるリスクがあると、ニュースは警鐘を鳴らして終わった。

 そういえばこのところの米国を中心に株価が急落したり不安定な状況を見せている。

 10年前に派遣切りを取材した筆者も、当時、職や住居を失った人々と今もコンタクトしている。

 その大半がその後も、「正社員」の仕事につけないままに不安定な雇用状況の中にいる。

 ある日、突然、仕事を失う、ということが人生にとって大きな影響を与えるという証拠だと思う。

 その日、虚ろな目で心ここにあらずといったシゲさんの表情を思い出す。

 テレビでは徳島にいる彼は「ふっきれたような表情」を見せていた。

 それがせめてもの救いだ。

※Yahoo!ニュースからの転載

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