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社会保障と税を考える(7.支出カットは生け贄パフォーマンス付きが効果大)

 前回は、社会保障以外での支出カットは3~4兆円が上限と書きました。
 しかし、この上限に達することは容易ではありません。

 道路も鉄道も、教育も、科学技術も、防衛費も、あらゆる分野で大幅カットとなると、あらゆる分野の関係者が猛烈に抵抗することが予想されますから。
 一方で、行政の支出からあまり恩恵を受けない層からは、いくら減らしても、まだまだ減らせるんじゃないのという目で見られ続けるでしょう。

 そこで、実際に削ろうと思うと、
 ・関係者の抵抗をどうやって抑えるか
 ・関係者でない人に、十分なカットをしたとどうやって納得してもらうか
というプロセスが重要になります。今回は、そういったプロセスの話。

1.関係者の抵抗をどうやって抑えるか
(1)抵抗を抑える鍵は、削る側の公平性・専門性と、削られる側の裁量の余地


 よく「官僚の抵抗」「既得権者の抵抗」などと言いますが、彼らに抵抗させないには2つのコツがあります。

 1つは、不利を与えるなら、すべての分野に公平に同じ程度の不利を与えること。「ふーん」と思うかもしれませんが、これは決定的に重要です。

 官僚は基本的に損得ではなく論理で動きます。
 収入が少ないから全部の支出を聖域なく削ると言われれば、論理では反論できません。しかし、恣意的に特定の分野だけ狙い撃とうとすると、その不公平さに論理で反論する余地を与えてしまいます。

 なので、支出を削ろうとする側にとっては、「全部の支出を聖域なく同じ基準で削った」と説明できるようにすることが重要になります。

 もう1つのコツは、改革の大きな方針を決めて言い渡し、あとは官僚や既得権者の側に裁量の余地を残すこと。

 どの支出の優先順位が高いか低いかとか、この支出をどの程度削れるかとかは、担当する官僚の側がいちばんよく知っています。
 外側からの「これの優先順位は低いだろ」「あれはこれぐらい削れるだと」という意見は的外れなことが多くて、その的外れさが抵抗する余地を与えてしまいます。

 「トータルでこれだけ削れ。削り方は任せる」と言えば、その削る額が公平なものであれば抵抗の余地はなく、最適な削り方の案を自ら作るしかありません。

(2)失敗例「事業仕分け」、成功例「小泉政権の歳入・歳出一体改革」
 こう見ていくと、民主党政権の事業仕分けは、官僚にことごとく抵抗の余地を与えていて、支出の総額をカットする手段としては失敗に終わる運命にありました。

 特定少数の事業に絞って狙い撃つという不公平なものだったし、個々の事業についての議論も素人じみていて専門性を欠いていたし。
 詳しい事情も知らないのに、細かい部分まで結論を決めて、裁量の余地を残さず押し付けていたし。

 まぁ、事業仕分けの目的は、支出の総額のカットではなく、目に付くムダを削ったり政権浮揚のパフォーマンスだったのだろうから、その意味では成功してるけど。

 一方で、成功したと言えるのは、小泉政権での歳入・歳出一体改革
 支出カットの効果は極めて大きかったのですが、時の経済・財政担当大臣、竹中平蔵氏は学者らしくパフォーマンスをせず、専門的で地味な議論に終始したため、記憶にない人が多いと思います。

 どういうことをやったのかは、「骨太の方針2006」が最もわかりやすいので、興味のある方はリンク先の資料の37ページ以降をご覧ください。

 社会保障、地方財政、公務員人件費・独立行政法人・公益法人、公共事業、文教、科学技術予算、防衛関係費、政府開発援助(ODA)など、政府の支出のほとんどの分野を網羅して、支出削減の包括的な方針を掲げています。
 特に重要なのは、社会保障費の毎年2200億円(5年間で1.1兆円)の削減と、公共事業の毎年3%削減

 毎年ちょっとずつ削減という「できない」とは言いにくい方針を決めて、やり方は各省庁の裁量にゆだねています。

 こうすると、削減案を作って手を汚すのは各省庁になるので、竹中氏が直接矢面に立たずに済むメリットもあります。実によく考えられたやり方だと思います。

 巧拙に差が出たのは、民主党の政治家と竹中氏の能力の違いではなく、政府の支出カットは政治家ではなく経済学者の方が適任ということ。

画像を見る ←「巧拙」のイメージ画像

 やりたい政策がある政治家には支出のカットはできず、やりたい政策などなく政府の支出が小さいのは善だと確信している経済学者にはできるということです。

2.関係者でない人に、十分なカットをしたとどうやって納得してもらうか
 支出のカットだけで済むのなら、竹中氏のように専門的で地味にやればいいのですが、今回は増税する必要もあるので、国民に「十分に支出カットをした」と納得してもらうことが必要になります。

(1)無駄遣いの代表者を成敗する演出つきで、本当に大きな額を削る
 まず最初に言っておくと、パフォーマンス、演出だけではダメです。
 国民は愚かではありません。事業仕分けのように目立つムダだけ削っても、トータルの削減額が小さければ、本気でやってないだろとすぐに見透かされます。

 ということで、本当に兆円単位で削ることが前提になりますが、やはり、国民に心から納得してもらうには、何らかのパフォーマンス、演出も必要です。
 政治の本質は「まつりごと」、つまりお祭りですから。

 いろいろやり方はあるのでしょうが、古典的ながら効果的なのは、抵抗勢力に強烈な反対の主張をさせ、それを成敗して生け贄に捧げることでしょう。

(2)本丸は公務員人件費と天下り
 公務員の中には「給料は労働の対価として民間と同額をもらっているだけなので、収入不足の財源にすべきものではない。また、削減しても大きな額は捻出できないので、大きな社会保障費を削るのが本筋」と言う人もいますが、認識が甘すぎる。

 総額を減らす観点では確かに社会保障が重要ですが、国民の納得を得る観点も同等に重要で、その観点では公務員の待遇こそが支出カットの本丸です。
 人間は他人の暮らしに嫉妬する生き物ですので、仕方がありません。

 ただ、現役の公務員は、先生やら自衛官まで含んで数が多いし、現役だけに政策への影響力も大きいので、全部を抵抗勢力に回すのは危険すぎる。1割ぐらいのカットで静かに済ませておくのが得策。
 生け贄にすべきは、数が少ない割に目立ち、現役の公務員ではないので影響力も小さい「天下り」、やはりこれしかありません。

(3)天下りの生け贄への捧げ方
 天下りを生け贄に国民の納得を得ようと思うなら、天下りを禁止するのは下策
 天下らず役所に残るだけで、誰も抵抗勢力を演じて成敗されてくれません。天下りなんて誰もしたくなくて、役所に残れるなら誰もが残りたいのです。

 さらに、どれだけ減らしたくても、ある程度の天下りは残らざるを得ません。
 全員を役所に残せば、公務員の平均年齢が上がって、人件費が増える上に、政策が今より硬直的になってしまいます。天下りの最も本質的な意味は、役所のスリム化と、若返りによる発想の柔軟さの維持にあると思うので。

 上策は、天下りは認めた上で、給料の上限を極めて低く設定すること。ざっくり500~700万円あたりでどうでしょう。
 500~700万円なら、人生設計の破綻までは至らないので渋々受け入れる人が多いだろうし、「けしからん」という国民感情も弱まると思うのですが、どうでしょう。

 また、そこまで減らすと、必ず抵抗してくる人も出てきます。
 そういう人が出てくればもっけの幸い。しばらく泳がせて大立ち回りを演じさせた上で、バッサリと首を切って「悪党討ち取ったり~」とやればいいのです。

 その後、ハローワークに行くところまでカメラで追っかけて、職がなくて呆然とするところまで見せられれば完璧ですね。

 ここからは少しまじめな天下りの話。私も含め30代以下の官僚は、天下りなどできるとは思っていません。
 一方で、いずれ後進に道を譲らないと役所のパフォーマンスが落ちるという思いと、そうは言っても自力で再就職先を探せるかという不安を持っています。

 個人的には、慣行として行われている天下りを正式なルールにして、キャリア官僚の人事はこういう感じにすると、かえって安心して働けていいと思っています。

・40代前半で「幹部コース」か「専門職コース」を選択。専門職コースは幹部にはなれず、年収も800万円以上には上がらない
・「幹部コース」は50代前半でいったん解雇。半分は選ばれて幹部になり、残り半分は年収500~700万円で再就職(再就職先を役所の責任で確保)

 500~700万円で満足する人もいるだろうし、絶対に幹部になると自分を高める人もいるだろうし、役所の外で通用する価値を高めて転職する人もいるでしょう。
 特に、役所の外でも通用する価値を高める人が増えるのは大切なこと。天下りよりもそっちが通常ルートになるといいと思います。私にそういう価値は……ないな。

(逆に企業人にも、政策面の知識を深めて役所で働こうとする人が増えてほしい。批判してても自分でやらなきゃ説得力ないって。言うほど簡単じゃないと思うけどね)

 少し脱線しましたが、あらためてまとめると、生け贄のターゲットは天下りで、やり方は天下りの禁止ではなく、給料の大幅削減がいいと思っているということで。

 実務上は、天下りと普通の転職の見分けが難しいのが大問題ですが。特殊法人や公益法人は全部天下りでいいとしても(やや乱暴)、民間企業の扱いが難しい。
 民間企業への再就職は役所からのあっせんはしていないという建前ですが、そういうのを見逃したら意味がないし、逆に普通の転職まで収入を制限したら問題だし。

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 ここまで3回使って、社会保障以外の支出カットについて説明してきました。
 まとめると、支出カットの上限は3~4兆円で、小さくはないけど、20兆円のプライマリーバランスの赤字を埋めるには全くの力不足ということ。

 次回からは、社会保障について考えていきます。
 単なる支出カットの面だけでなく、どういう機能は強め、どういう機能は削ってもいいか、社会保障というものの本質にさかのぼって考えていければ(難)。

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