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「革新」が目指したもの――江田三郎と向坂逸郎 - 岡田一郎 / 日本政治史

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「革新」という言葉が使われなくなって久しい。55年体制の時代においては、自由民主党(自民党)を保守政党と呼び、それに対峙する野党勢力の一員で、なおかつ社会主義を目指す政党を革新政党と呼んだ。

革新政党が目指した社会主義の中身は千差万別である。たとえば、民社党は民主社会主義を理念として掲げたが、これは西欧型社会民主主義と同義である。公明党は人間性社会主義を理念に掲げ、日本共産党(共産党)は1960年代に中国共産党と決別して以来、自主独立の社会主義路線を貫いた。

このように革新政党の社会主義といっても、その内容は政党ごとに異なった。そのうえ、同じ政党内にも様々な意見が存在する場合があった。そこで本稿では、革新政党の中でもとくに明確な理念を掲げ、さらにそれが広く人口に膾炙した人物を2人取り上げ、それらの理念が今日の日本にどのような意味を持つのかを考察してみたいと思う。

2人の人物とは江田三郎と向坂逸郎である。2人とも日本社会党(社会党)に属し、1960年代までは同じ理念を掲げる同志であった。しかし、1960年代以降、2人が目指す社会の像は大きく異なるようになり、2人は激しく対立するようになる。2人はどのような社会を目指したのだろうか。

江田三郎と構造改革論

江田三郎は岡山県出身の農民運動家である。長姉夫婦の援助で、当時、日本の植民地であった朝鮮半島の商業学校で学んだ江田は、日本人が植民地でいかに横柄なふるまいをしているかに気が付いた。そして、植民地支配について学ぶために神戸高等商業学校(現在の神戸大学)、次いで東京商科大学(現在の一橋大学)に学んだ。

大学在学中にプロレタリア文学などに触れた江田は、大学を中退して農民運動に身を投じ、戦後は社会党左派の政治家となった。農民運動出身の江田は、農地改革で土地を得た農民たちが保守化し、農村における社会党の支持基盤が次第に弱体化していったことに早くから気が付いており、新たな理念の必要性を感じていた。

当時の社会党左派の理念は労農派マルクス主義というものだった。労農というのは戦前に刊行されていた雑誌の名前である。岩波書店から刊行されていた『日本資本主義発達史講座』の執筆陣は、日本を半封建的な社会ととらえ、民主主義革命を行った後に社会主義革命をおこなう必要があるという立場をとった。それに対し、雑誌『労農』に拠ったマルクス主義者たちは、日本を封建遺制は残るものの発達した資本主義社会だととらえ、来るべき革命は社会主義革命であると主張した。このため、講座派・労農派と区別されるようになったのである。

そして、社会党左派では来るべき社会主義革命は平和革命だと考えられていた。すなわち、武力で政権を奪うのではなく、労働者が社会党の下に結集して組織化されれば、社会主義の社会になると考えられていたのである。そのため、社会党左派の任務は、労働者に社会主義の正しさを教えて、社会党の下に結集させることとなる。現に、向坂はこの考えの下に、全国の労働者のもとを訪れ、『資本論』を講義し、社会党員を増やすよう尽力していた。

しかし、江田はそのような考えに次第に疑問を覚えるようになった。1960年には三池炭鉱で大規模な労働争議が起こり、さらに同じ年に日米安保条約の改定をめぐって全国で大規模な反対運動(安保闘争)がおこったにもかかわらず、それらは社会党の躍進にはほとんど結びつかなかったからだ。従来の労農派マルクス主義では、社会党が取り組んでいる社会運動が社会主義の実現にどう結びつくのかあいまいだと江田は考えた。

このとき、江田が党本部の書記たちから紹介され、心を奪われたのが構造改革論という考えである。構造改革論とは、イタリア共産党のパルミロ・トリアッティが提唱した考えで、社会構造の改革をすすめていくことで社会主義に到達するという考えであった。この考えに触れた江田は、労農派マルクス主義ではあいまいになっていた部分を構造改革論で補うことができると考えた。

江田側近の書記たちに構造改革論を紹介した経済学者の佐藤昇は、「政治的な民主主義というものが曲がりなりにも確立されていれば、ほかの改革は政治的民主主義を通じてできるということです。政治的民主主義が確立しているところで革命をやれば、それは民主主義を否定する反革命になってしまう」(1)と述べていたという。構造改革論は社会党が議会制民主主義の政党に生まれ変わるのに不可避の理論だったのである。

だが、社会党左派は構造改革論を、彼らが改良主義と軽蔑する西欧型社会民主主義の理論だと考え、鋭い批判を加えた。その急先鋒に立ったのが向坂逸郎である。

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