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あなた自身の社会〜当事者として向き合っているか?〜

友人から好きな書籍について聞かれた時、あなたは何を紹介しますか?

ここ1−2年その質問をもらった時に、僕は中学生の教科書を紹介しています。それは日本の教科書ではありません。スウェーデンの社会の教科書です。その日本語訳版が、この「あなた自身の社会―スウェーデンの中学教科書」です。

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日本の学校での勉強と社会に出てからの勉強

なぜ、他国の社会の教科書を薦めるのか?それは非常に衝撃を受けたからです。

長い間学校で授業を受けて教科書で学んで来ましたが、これまで教科書そのものの善し悪しについて考えたことはありませんでした。社会に出るまで勉強=教科書が中心だったため、勉強のできる人とはテストの点数の高い人、つまり教科書を中心にしっかりと勉強している人ということだったと思います。それが社会に出るとテストの点数なんて関係のない、リアリティのある社会と突然向き合うことになります。就職するのも、働くのも稼ぐのも自己責任、その後活躍できるかどうかも、教科書の勉強が役立つことは限りなく少ない。気がつけば投票権もあり、国や地域を担う政治家に投票できる権利も持っています。そんなリアリティのある社会に出て初めて、学校の勉強って何だったのか疑問を持つことはありました。

自分自身、社会に出てから多少なりとも勉強しているつもりです。本を読むこともそうですが、仕事を通してや、輝いている人たちと会って話をしたり、時々は勉強会やセミナーなどで間接的に体験を学んでいます。最近ではソーシャルメディアやブログを通して、勉強したり、人と繋がって会ったり。また自分自身情報を発信し、行動することで逆に情報が集まり、知識だけでなく行動や発信を通して学んだりもしています。

学校に行っていた時の教科書の勉強と、社会に出てからの勉強。どちらが役に立ち、成長や成果につながっているかは説明するまでもありません。リアルな社会を知り、多様な人と話し、自分自身の考えを発信して行動をすることの方が社会とつながっている感覚も強いです。

一方、ベンチャー企業で12年働いていると、もっとしっかりと勉強に集中する期間が欲しいと思うこともあります。ベンチャーでなくともがっつりと仕事をしていると、このまま偏ったキャリア・知識・仕事に没頭するのではなく、新たな専門性を身に付けたい、新たな分野で関係を作っていきたいと思います。そうしてMBAを取りに行ったり、社会人でも専門学校や大学に行く人も多いのだと思います。では、学生時代の勉強と、社会人になってから学校で学ぶことは何が違うのか?それは明確に社会やビジネスを意識して勉強し、自分の頭で考えた意見を出して、同じような意識を持って集まる人たちとともに意見をぶつけあうことではないでしょうか。

今思うと果たしてそれは一度社会に出ないと気付かなかったことなのだろうかと疑問に思います。

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photo credit: Funky64 (www.lucarossato.com) via photopin cc

スウェーデンの社会の教科書

では大人の自分がなぜスウェーデンの社会の教科書を読み、それを友人に薦めるほどの衝撃を受けたのか?薦められた友人も今年ベストの本だったとか、教育について考え直させられたとか、みんなそれなりのショックだったようです。

本書の前書きを少し紹介します。

『あなた自身の社会』には、いくつもの特色を指摘することができますが、私は特に次の点に注目しています。第1、「実社会への手引き」となっている。子どもたちが、日常の社会生活を賢く、安全に送るために、いま知っているべき事柄、近い将来において必要となってくる事柄がきちんと説明されています。題材の選択と記述には、子どもの視点が貫かれています。

この、「実社会への手引き」という視点が、まず日本の教科書の何だかリアリティのない内容と比較して、スタートとなる視点が違います。例えば扱うテーマも、いじめ、恋愛、セックス、結婚と離婚という人間関係についてや、暴力と犯罪、アルコールと麻薬、男女間の不平等、社会的弱者や経済的・社会的に恵まれない家庭の存在など、社会の負の面も隠すことなく紹介されています。

社会的存在としての人間に、さまざまな確度から光を当てている。人は周囲の他人とのかかわりをもたずには生きていけない。その他人からは考え方や行動の上で不断に影響を受けている、と同時にこちらからも影響を与えている、などです。人は各人各様の意見をもつ一方、共通した悩みや問題を抱えていることを指摘しています。

例えばいじめの問題を取り扱うにしても、グループ(集団)の存在について紹介をしたり、自分は何者であるか?や、期待が人を動かすこと、男と女で興味分野が違うこと、自国の結婚観とインドの結婚観が違うことなど身の回りの問題から、自分のこと、多様な価値観について紹介されています。日本のように単一民族中心で育つと価値観の違いや他人と違うことを受け入れ難くなってしまいます。

さらに自分は人と考えが違っていておかしいのかもしれないと思うこと自体、他の人もみんなあるとなんだということや、自分に自信を持つ大切さ、受け身ではなく、主体者であることを薦めています。

積極的な姿勢が貫かれている。恵まれない家庭環境に育った者も、犯罪を犯した者も、そうした状況を克服して建設的な生き方ができることを、繰り返し主張しています。社会には、そのためのさまざまな支援が用意されていることも教えています。

犯罪について学ぶ時にも犯罪の行為だけでなく、被害者の気持ちを考えること、自分自身が犯罪の加害者になっていることに気付いていないことがあること、さらには犯罪を犯した後の更生施設でどんなことをするのかまで紹介しています。障碍者についても、日本のように隠さずたくさんの障がい者がいること、そもそも障がい者とは、例えば機能として言葉が話せない人がいたとして、海外で言語が通用しなければそれも一種の言語障がいだし、お酒を飲まないと話せない人も社会的障がい者であると指摘します。そうして自分ごととして捉えた上で、様々な社会保障があることを紹介しています。

子どもたちが自分自身の意見をもつことを徹底して奨励している。「課題」として用意されている170余の質問がそれです。「君自身はどう思うか、友達の意見と比較しよう、みんなで討論しよう」が基本的な問い方です。その一方、これが模範回答だというものは、ほとんどの場合与えられていません。

そしてこれが最も衝撃だったのは、教科書では答えを基本的に出していません。先生も答えを示しません。先生はファシリテーターとして、随所に用意されているインタビューやケースを紹介し、その上で生徒に「課題」を出します。

例えば離婚について。40万人の子どもが両親と一緒に住んでいないことを紹介し、3人の離婚を体験した子どものインタビューがあります。読んでいて非常に心が痛むような子どもの声です。新しい親や新しい兄弟のことまで書いてあります。前半の章では、インドの結婚について、インドでは親が結婚相手を決めることが普通であること、15歳で結婚することを学んでいます。その上で恋愛についての課題は、「インド人は私たちの結婚観についてどういう意見を持つと思うか?また、私たち自身の恋愛観について、あなたはどう思うか?」と問うのです。

離婚については、「離婚は、場合によっては望ましいことでしょうか?親たちは、子どもを可能な限り煩わせないように、離婚をどのように進めているでしょう。討論しましょう。」と親の立場で考えさせています。さらには、「麻薬常習の女性が子どもを産んだとします。子どもを母親から取り上げることについて、どんな意見があり得るでしょう。友達の意見と比較しましょう。」という課題まであります。同性愛者についても紹介し、同性愛者が結婚することや子どもを養子に迎えたいと思うことについて意見を問う課題もあったり、現実社会で人ごととして感情に訴えるようなワイドショーやテレビを見て育つ僕たちと、こうしたリアルな現実と多様な意見、それに対して自分の頭で考えた意見と、友達の意見とで討論するスウェーデンの中学校。大人である自分でも本当に考えさせられる教科書です。

社会は自分たちの手で変革できることを教えている。社会を動かしているあらゆる制度や規則は、異なった見解をもつ人々の妥協の結果として存在している。もし、より多くの支持者を獲得できるなら、それらを変えることが可能になる。この可能性を強調することを通して、子どもたちに、社会は彼ら自らが作りかえていくものであるとのメッセージを伝えています。

スウェーデンには「コミューン」と呼ばれる日本でいうと自治体のような地域共同体があります。その「コミューン」が生活にかなり密接に関係しているそうで、教科書でも1章丸ごと割いて紹介されています。「コミューン」の重要性を紹介するだけでなく、事例を通して行動を起こしてみることの大切や、その結果若くても変化を起こすことができること、その結果良いこともあれば上手くいかないことがあることも、インタビューを通して紹介されています。

日本の学校教育について

2011年、戦後8度目の改訂の学習指導要領が改定されました。2002年の改定、いわゆる「ゆとり教育」依頼の改定で、文科省のホームページには以下のように「生きる力」と紹介されています。

新しい学習指導要領は、子どもたちの現状をふまえ、「生きる力」を育むという理念のもと、知識や技能の習得とともに思考力・判断力・表現力などの育成を重視しています。これからの教育は、「ゆとり」でも、「詰め込み」でもありません。次代を担う子どもたちが、これからの社会において必要となる「生きる力」を身に付けてほしい。そのような思いで、新しい学習指導要領を定めました。「生きる力」を育むためには、学校だけではなく、ご家庭や地域など社会全体で子どもたちの教育に取り組むことが大切です。子どもたちの未来のために。

これから日本の学校教育がどうなるのかはわかりません。こういった改定や、日本でも「熟議」と呼ばれる問題に関わる様々な立場の当事者がその問題について学習し「熟慮」と「討議」を重ねていくという動きが学校教員や学生や社会人たちで始まっています。

またゆとり教育が目指していたのは何だったのか?今の20代がお金稼ぎや出世よりも、ボランティアや社会起業家に憧れる背景に学校教育はどんな役割を果たしていたのか?マイナスの側面だけでなく、新卒採用の面接などを通して話していると彼らの学生時代の体験が活かされている人も目にします。

自分の子どもがこれから学校へ入学することを考えると、自分の軸をしっかり持って、多様な価値観を理解し、オープンでフラットな考えや行動をできるように、優しく強い子に育って欲しいと思います。成熟した日本社会においては、大きな社会も身近な社会も自分ごととして捉え、ソーシャルネットワークのようなインタラクティブなインターネットも活用して世界とつながり、自分や周りの可能性を広げることが大切だと思います。その上で、スウェーデンの社会の教科書のような内容、学校の先生のファシリテーション、友達、そしてコミューンのような地域コミュニティの仕組みはヒントになることも多いのではないでしょうか。

■参考情報

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