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社会保障と税を考える(6.社会保障以外のカットの上限は3~4兆円)

さて、今回は社会保障以外でどの程度の支出カットができそうかについて。

と書いたそばから申し訳ないのですが、カットできる額を根拠をもって試算することは私には難しいので、考え方とごく粗い試算を示すだけになってしまいますが。

1.重要だと思う分野でどれだけ削れるかを提案し、それの積み上げが上限
「行政の支出は、最大限どの程度カットできるのか」
これは、共通認識を得るのが非常に難しい問題です。

達成すべきミッションが決まっていれば、その実現にどれだけ必要かは、ある程度の精度をもって試算できるでしょう。
民間企業のコストカットは、これに近いと思われます。収益を上げるというミッションは決まっていて、その効率をよくすることを考えればいい。

しかし、行政の支出カットを考えるとき、達成すべきミッションはどこまでかという、試算しようのない、価値判断を伴う議論が入ることは避けられません
100人いれば100の考え方があるはずです。

福祉を増やせという人もいれば、「夜警国家」で十分という人もいます
防衛費は対中国で拡大が必要という人もいれば、減らしていいという人もいます
ODAは先進国の責務だという人もいれば、ゼロでいいという人もいます
道路や新幹線がほしいという人もいれば、もういらないという人もいます
宇宙開発は夢があるという人もいれば、何の役にも立たないという人もいます

突き詰めれば、行政には、絶対にやらなければならない仕事はないのです。
そのような中で「あの分野はいらないだろ」という議論を始めれば、一方で「いる」という意見が出て、終わりのない不毛な水掛け論にはまり込んでいくでしょう。

ですから私は、政府の支出カットを主張する方には、自分がよく知らなくて不要に見える分野をなくせと主張するではなく、自分がよく知っていて重要だと思う分野の削り方を提案するよう求めたいと思っています。

福祉が重要だと思う人は、社会保障費をどこまで削れるか考えてください。

中国が脅威だと思う人は、防衛費をどこまで削れるか考えてください。
ODAが……道路が……教育が……宇宙開発が……、みんな同じです。

そうやって、その分野が重要だと思っている人たちが、断腸の思いで削れると判断した額を積み重ねたものが、行政の支出カットの上限です。

2.「ザ・無駄」は少ない。役に立つものをやめるまで踏み込まないと削れない
削れる支出は、削って当たり前の「ザ・無駄」と、役に立つんだけどやめるものに分かれます。

「ザ・無駄」に含まれるのは、1つは何の付加価値も生まない間接コスト。企業に仕事を発注するのにどこかの法人を通し、その法人が丸投げ・中抜きするとか。
もう1つは、まったく役に立たないハコモノや公共事業。「私のしごと館」とか、グリーンピアとか、飛行機が飛ばない地方空港とか。

こういう純度100%の「ザ・無駄」は、削って当たり前です。
事業仕分けは「ザ・無駄」をあぶり出すのに成功しましたが、一方で「ザ・無駄」を削っても大きな支出カットにならないことも証明してしまいました。

1兆円に届く支出カットをしようと思ったら、役に立つんだけど、あえてやめたり先送りしたりすることまで踏み込む必要があります。

公共事業なら、整備新幹線、外環道や圏央道、治水対策とかどうしましょう。
防衛費なら、戦闘機や潜水艦、陸上自衛隊の人数とかどうしましょう。
科学技術なら、はやぶさ2とか、メタンハイドレートの採掘とかどうしましょう。

こういうものも削り込んでいかないと、兆円規模には到達しません。

3.削れるものを全部2割削っても、総額では1割しか削れない
削れる支出をぜんぶ2割削るつもりやっても、総額では2割には届きません。
なぜなら、削れない支出とか、増やさざるを得ない支出があるから。

削れないものの代表格は、支出することを対外的に約束してしまっているもの。
戦闘機や潜水艦は長期ローンなので、新規購入をやめても支出は減りません。
B型肝炎訴訟では、被害者に3兆円の和解金を払うことが決まっています。

国連など国際機関の分担金は、交渉しても減らせるとは限りません。

増やさざるを得ないのが目に見えているものもあります。
保育所など子育て支援は、増やせという意見が圧倒的です。
原油価格は上昇傾向。自衛隊や海上保安庁の燃料費が自動的に上がります。

これはごくごく一例で、役所の中で働く実感としては、削りようのない予算はけっこうあるなぁという感じ。
削れるものは何でもかんでも2割削って、総額では1割減らせるぐらいが限界でしょうか。数字は超適当ですが。

4.地方自治体の支出にもカットの余地はあるが、国に比べ額は小さい
行政の支出には、国のほか、地方自治体の支出もあります。

地方財政白書によれば、2009年度で、都道府県が51兆円、市町村が54兆円、都道府県から市町村への補助金もあるので重複を排除すると、合計は98兆円

[画像をブログで見る]

もちろん、こちらにもカットの余地は残っているでしょう。
地方財政の知識はないので語るのは難しいですが、次の理由で既に地方財政のスリム化は進んでおり、国に比べるとカットできる額は小さいと想像しています。

・2004~2006年のいわゆる「三位一体改革」で地方交付税が5兆円カットされた

2007年の地方財政健全化法で監視が厳しくなり、放漫財政ができなくなった

地方交付税を強制的に削り、健全化法で借金も縛ったので、事業費も人件費(人数、給料)も、いやおうなくスリム化させられた感じです。
地方自治体で働く人はみな、国の方が削る余地が大きいと思っていますし、国と地方の両方で働いた私の実感としても、基本的にはそのとおりだと思います。

私の心は基本、国家公務員なので、「国の方がムダが多い」と言われると反発したくもなりますけどね。
いろいろ言いたいこともありますが、地方交付税5兆円カットに免じて飲み込んで、大局的に見れば地方の方がカットの余地は小さいということで止めます。

それに、国と地方の財布は違うので、地方で支出カットをしても国に直接は還元されず、その意味でも国の財政収支の改善への貢献度は低くなります。

5.給料は現在は民間と同額だが、リストラがないことを理由に少なめにできる
給料については、現在は人事院が調べた民間の給料と同額になっています。
理由もなく「民間と同額」というタガを外して下げるのは人材の質への影響が大きいですが、リストラがないことを理由にすればある程度は下げられるでしょう。

ざっくりですが、民間より1割ぐらいは下げても大丈夫かなぁ。それでも人材の質がある程度下がるのは避けられませんが、崩壊までは至らないでしょう。

「民間の給料と同額」と書いたのを見て、「嘘つけ、民間より多いだろ」と思われた方もいるでしょうから、その点について解説を。
細かく書きだすとそれだけで連載2~3回分になるので、簡単に。

「公務員の給料が民間より多い」という主張の根拠は、大きく言って2つ。
統計上、平均年収が民間412万円、国家公務員637万で1.5倍多い

人事院の調査は大企業だけ対象。大部分を占める中小企業を入れていない

前者は、非正規やアルバイトの扱いが違うので、比較に適さない数字です。

民間の412万円は「民間給与実態統計調査」という統計を使っていて、これは非正規社員や、労働時間や日数が少ないパートタイム・アルバイトも入れた平均。

国家公務員の637万円は人事院の調査によるもので、8時間・週5日の正規職員だけの平均。

後者は、企業数ベースでは少ないけど、従業員数ベースでは十分多いです。

確かに人事院の調査対象は、従業員50人以上の企業に限られており、企業数ベースでは1割に足りませんが、従業員数ベースは65%をカバーしています。

もちろん、こんなおざなりな文章では全然納得いかないという方も多いでしょう。
ただ、「50人以上の企業の正規社員(全体の65%)と、公務員の正規職員の給料は同額」という点はおそらく正しいので、あとはそれをどう評価するかです。

6.カットできる額は、最大で3~4兆円ぐらいか
以上、最大限にカットしようとしても、1~5のような考え方でしかできないのが現実だろう、という私の予測を述べてみました。

改めてまとめておくと、
重要だと思う分野でどれだけ削れるかを積み上げたものが上限
「ザ・無駄」だけ削っても額は小さい
削れるものを全部2割削って、総額で1割カットになるのが上限
地方自治体のカットできる余地は国より小さい
給料は現状(民間と同額)より1割ぐらいはカットできる

いろいろ反論もあるでしょうが、深めていくと底なし沼のように抜け出せないので、私の実感はこうだと言うことで終わりにして、これを前提に試算してみます。

つまりは、
・給料は1割カット。人員削減は激務に免じて勘弁いただいて、人件費は1割減
事業費は削れるものを全部2割カットで、総額では1割カット
ということ。

国家公務員の人数は56万人、人件費は5兆円。ちなみに、23万人が自衛官です。
これを1割カットして、国家公務員の人件費のカットは0.5兆円

事業費は、社会保障以外を総額で1割カット。
前回
紹介したように、国の支出220兆円のうち、国債費、社会保障費、地方交付税交付金、財政投融資を除くと、29兆円。

この中に人件費相当分が7.5兆円(国家公務員5兆円、補助金のうち先生の人件費分2.5兆円)あるので除くと21.5兆円で、その1割で事業費のカットは2兆円

地方自治体をどうするかですが、仮に、国の削減額の半分を削って国に還元できるとして、0.5兆+2兆の半分で、地方自治体の支出のカットは1.25兆円

全部を足すと、0.5兆+2兆+1.25兆で、3.75兆円削れるということになります
内訳はともかく、3~4兆円削れるというのは実感には合ってる感じ。

ということで、今回の結論は、社会保障以外でカットできる上限は3~4兆円、ということにしておきます。

ただ、これだけ削るのもまったく簡単ではない、ということも強調しておきます。
事業費は削れるものは何でも2割削る前提ですからね。2割って大変なことです。

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とりあえず書きなぐってみましたが、「もっと削れるだろ」という人は全然納得できないでしょうね。

私個人の実感として、3~4兆円はいい感じの数字(かなり厳しいけどやれない数字ではない)だと思っているというだけで、根拠薄弱なのは認めますが。

これぐらいならできるだろ、関係者の反対はぜんぶ政治が抑えるから(←重要!)やってみろと突きつけられたら、やらざるを得ないと想像しています。

逆に、10兆とか20兆とか言ってると、迷走するばかりで何も進まないでしょう。
実情を何も知らずでっかい数字を吹っかける人より、ギリギリできそうな数字を読み切って突きつける人の方が、はるかに手強い。

小泉内閣で、社会保障費を毎年2200億円抑制しましたが、これは、竹中氏率いる経済財政諮問会議がギリギリの数字を突きつけ、支出カットに成功した好例。
これが医療を崩壊させたという評価もあることは知ってますが、良し悪しはともかく、手段としてはとても有効だということで、見習うべき点もあるでしょう。

次回は、どんだけ削っても納得できない人にどうやったら納得してもらえるか、いけにえを血祭りにする劇場を演じるプロセスが必要だろう、という話。

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