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MeToo運動を追い風にする英国「女性平等党」の戦い方

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自由民主党の「一強」が続いている。今月20日の自民党総裁選も、現職の安倍晋三氏が三選を果たしたばかり。

新たな政治勢力が日本社会に大きな変化を起こす・・・そんな展開が起きるのは、いつになるのだろう?

2大政党制の歴史が長い英国でも、一つの党が何十年も政権を取ることはないものの、2大政党以外の政党が政権を取って、政治に大きなインパクトを与えるのは難しい。

そんな英国で奮闘しているのが、3年前に結党した「女性平等党」だ。

女性平等党の党大会の会場で、カメラの前に並ぶ参加者たち(撮影筆者)

人気司会者サンディ・トクスビグ氏とジャーナリスト・作家のキャサリン・メイヤー氏が、「男女平等の社会を作りたい」と立ち上げた。

現在までに、地方自治体及び下院の議席を獲得するところまでは行っていない。この点では大方の予想通りだが、諦めるのはまだ早い。

昨秋米国で端を発した性的ハラスメントや暴力に抗議する「MeToo」運動が女性平等党に追い風となったこともあって、大手政党が女性に焦点を当てた政策を導入するようになっている。

英国で女性が参政権を獲得してから100年になる今年。女性平等党は政界そして社会に何らかの爪痕を残すことができるのだろうか?

筆者は、9月7日から9日までイングランド地方中部ノーサンプトン州ケタリングで開催された党大会に参加して、女性たちの声を拾ってみた。

男性やLGBTも党員・支持者に

党大会の会場となったのは、ケタリング・コンファレンス・センター。受付に入る前の荷物チェックの列に並んでいた筆者は、警備係の初老の男性がポニーテール姿にしていることに気づいた。ポニーテールの部分は茶色に染めてあり、片耳にはイアリング。目にはブルーのアイシャドーが入っていた。

受付に並ぶ実行委員も、会議のプログラム配布や案内係として立つ党員たちもほとんどが女性だが、あちこちに男性の姿があった。男性でもカラフルなメークをしていたり、スカートをはいていたりする。長年一緒に過ごしてきたという風情の女性同士のカップルも珍しくなかった。

女性平等党の党員・支持者は約4万人。このうち、男性・女性という二者択一の枠組みにとらわれず、様々な性的指向を持つ人が参加していた。日本でいうところの「性的少数者」、つまり「LGBT」(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー)の人たちだ。

性的指向だけではなく、人種や地域も多様だ。

セッションの合間にお茶を飲んでいると、参加者が話しかけてくる。昔からの友人同士が集まったかのような雰囲気だ。

「日本人なの?私は中国人の血が入っているから、同じ『アジア系』ね」といって、ウィンクをしてきたのはロンドンのカムデン地区に住むエマ・コーさんだ。党員は全員がどこかの支部に所属しているので、「あなたの支部を見つけるわよ。近くにないのなら、作ればいい。在英邦人の支部というのも、いいわね」という。

会場のあちこちにはそれぞれの支部が作った垂れ幕が掲げられていた。コーさんによると、女性平等党は地域ごとに支部が設置され、党員たちは自分たちが所属する支部を誇りに思っている。その誇りを形にしたのが、それぞれがユニークな、手作りの垂れ幕だった。

それぞれの支部が作った垂れ幕が会場に掲げられていた(撮影筆者)

個々の党員が支部という組織にまとまり、支部が全体を支える仕組みが見えてきた。

英国にはこれまで「女性」をキーワードにした政党はなかった

党大会初日夜の開会式には、参加者全員がひときわ大きな会場に集まった。

女性平等党の結成は2015年。だが、党大会は第1回目が開催された2016年以来開かれておらず、今回で2回目だ。他の既存政党のように人材や資金が十分にあるわけではないため、毎年の開催はできなかったのだという。

これまでの業績を振り返る短い動画が上映された後で、党の共同設置者トクスビグ氏が「ほかの政党ではこんなことはやらない」と言って、「オープン・マイク」と呼ばれるセッションを開始した。会場から手を上げた人にマイクを渡し、壇上で言いたいことを好きなように言ってもらう形だ。

学生、母親、スポーツ組織の委員、自治体の職員、アーチストなど、様々な社会的位置にいる女性たちが次々と壇上に立つ。「こんな政党の存在を何十年も待っていました」とある女性が述べると、大きな拍手が湧き起こった。確かに、英国にはこれまで、「女性」をキーワードにした政党はなかった。

党大会の最終日に選出される、党の実行委員会のメンバーの立候補宣言の場にもなった。登壇したある男性は、実行委員になりたいから投票して欲しいと呼びかける。「僕は女性や子供に対する暴力を撲滅したい。だからこの政党に入った」という。

改めて女性平等党の6つのミッションを見てみると、

 

—政治とビジネスにおいて、平等参加を実現する
—教育の場において、平等参加を実現する
—男女同一賃金を実現する
ー育児とケアにおいて、男女平等を実現する
—メディアにおける男女平等を確保する
—女性に対する暴力を撲滅する

党のミッションが、先の男性の心に響いたようだ。

「オープン・マイク」のセッションは午後8時過ぎに始まり、次から次へと声を上げたい人の列は11時のお開きまで途切れることがなかった。

人工妊娠中絶容認の政治機運を作る

国政及び地方レベルで政治家を出していない女性平等党。なんらかの政治的業績は上げているのだろうか?

党大会2日目、ソフィー・ウオーカー党首の演説に耳を傾けてみた。英国の政党の党大会でヤマになるのが、党首による演説だ。ここでいかに党員の心をつかみ、メディアの注目を引くことができるかで、その政党が大きな政治機運を作り、英国を変えていく力があるかが分かる。

演説中のソフィー・ウオーカー党首(撮影筆者)

ウオーカー党首は、議席獲得はできていないが「既存政党が次第に女性平等党の方針を取り入れるようになってきた」と指摘する。

例えば、英領北アイルランドでは人工妊娠中絶が原則認められていないが、これが認められるよう後押しをする政治機運を作ったのは女性平等党であるという。また、中絶ピルを自宅で服用できるよう、イングランド地方の法律改正の際にも大きな役割を果たした(2回服用する必要がある中で、以前はどちらの場合も医療機関で服用するよう決められていた)。

来年3月、英国は欧州連合(EU)から離脱する(=ブレグジット)予定だが、ウオーカー党首は「女性平等党は親欧州の立場をとる。ブレグジットの進展いかんにかかわらず、今後は欧州他国の女性政党と協力しながら、女性が生きやすい世の中をみんなの手で作っていきましょう」と話す。

英国内で女性の地位向上を目指すだけではなく、欧州全体に広がる夢をウオーカー党首は描いて見せた。「女性平等党、欧州の女性政党と結束予定」という見出しの記事が、複数のメディアで報道された。

演説が終わると、ウオーカー氏の娘が壇上に登り、母親に抱きついた。割れるような拍手となった。

MeToo運動を追い風に「立ち上がるなら今しかない」

英国の女性の地位を様々な統計を使って調べてみると、例えば下院での女性議員の比率は32%、上院は25.7%(日本では衆議院が10.1%、参議院で20.7%)。昨年時点で、英国の労働人口の46.5%が女性だが、上場企業トップ100社の経営陣の中で取締役の女性は28%に過ぎない。英国全体の男女の平均賃金格差は昨年時点で18.4%(日本は24.5%)。

日本と比較すれば統計上の数字は英国の女性の方が良いようだが、それでもまだ男女「平等」とまではいかないようだ。

若い女性は自分たちの社会的地位や将来について、どう思っているのだろうか?

 

党の実行委員でもあるアミカ・ジョージさんは、18歳だった昨年、あるニュースに愕然とした。イングランド地方北部の都市リーズに住む10代の少女たちが、生理用品が買えないために学校を休みがちだというのである。

アミカ・ジョージさん(撮影筆者)

ジョージさんは早速、ソーシャル・メディアを使って生理用品無料化運動を始めた。貧困で学校給食が無料になっている少女たちを対象に、生理用品も無料で使えるようにするための運動だ。

 

メイ首相に無料化を訴えようと、官邸前でのデモを呼びかけた。「せいぜい自分の友人、親戚が参加するだけだろう」と思っていたら2000人近くがやってきたという。

ジョージさんだけではなく、他の地域でも少女たちや大人が同様の運動を開始していた。今年9月から、スコットランド地方の学校では生理用品が無料で提供され出した。イングランド地方でも南部ミルトンキーンズの自治体が、生理用品の無料配布を決定している。こちらでは13歳の少女ページ・キルトンさんの運動が実を結んだ。

「英国の若い女性たちは女性であることで不当に扱われていると感じているのでしょうか?」とジョージさんにたずねるとこう答えが返ってきた。

「それは人によって、あるいは住んでいる地域や家庭によって答えが変わるでしょう。私自身は、不当に扱われていると感じたことはありませんでした。

でも、MeToo運動が起きて、いかに女性が犠牲となってきたかを知りました。経営陣に占める女性の割合もとても低い。私たちの世代の女性たちは、現状に怒りを感じています。

MeToo運動が加速化する中、『社会を変えるなら、今だ!」と思いました」。

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