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特集:ソウルで体感した朝鮮半島情勢

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今週は18日から20日にかけて、文在寅大統領が平壌を訪問しました。韓国大統領としては金大中、盧武鉉に続く3度目の訪朝となりますが、これは今年3度目の南北首脳会談でもあります。ここへきて朝鮮半島情勢の変化はまことに急であります。

たまたま筆者は先週ソウルに出張し、第12回目の日韓戦略協力対話に出席してきまし た。韓国の国立外交研究学院(KNDA)と日本の平和・安全保障研究所(RIPS=西原正理 事長)のが毎年秋に行っている会議で、今回は3回目の参加でありました。

本号では、ソウルで体感した朝鮮半島情勢に関する私的見解を報告してみます。

●「3-2-1-0」から「4-3-2-0」へ?

「今は3-2-1-0だが、もうじき4-3-2-0になるかもしれない」――これが何を言っているかお分かりだろうか。答えは以下の通り。

○対北朝鮮の首脳会談


日本としては、「ほら、お宅だけが乗り遅れているよ」と言われているようで、焦りを感じるところかもしれない。もちろん日本の首相が、金正恩委員長と急いで会う必然性は乏しいのである。それでも、今年になってからの北朝鮮外交のペースがいかに速いかが、 日本国内に居るとわかりにくくなっているのではないだろうか。

そしてこの間に、米中韓3か国の対北朝鮮関係はそれぞれ劇的に変化しつつある。

1. 中国は既に対北朝鮮関係を好転させている。かつての冊封体制を復活させたかのように、相手国の指導者を3回続けて呼びつけ、逆に政府専用機を貸し与えるという厚遇ぶりを示している。国境地帯における「経済制裁破り」も黙認している模様。

▶ 中国側からすれば、長年の頭痛の種であった北朝鮮が擦り寄ってきて、緩衝地帯(バッファー)として位置付けるという本来の目標を取り戻したことに満足している。逆に北朝鮮側は、中国に「取り入る」ことで後顧の憂いをなくした。 中朝はともに対米関係を睨みつつ、したたかに相手を利用している形。

2. 米国ではトランプ大統領が、米朝首脳会談の成果をアピールしつつ、金正恩委員長への信頼を強調している。2度目の首脳会談要請に対しても前向きである。

▶ ただしポンペオ国務長官以下の担当者たちは、北朝鮮の言動を額面通りには信用しておらず、非核化の実務は停滞している。

▶ 9月5日に、匿名政府高官がニューヨークタイムズ紙に暴露したように、政権内には大統領が間違った政策を遂行することを防ごうとしている「大人たち」がいる。こうしたトランプ政権の「二重構造」は、最近の危なっかしい米国外交を紙一重で救っているけれども、透明性を低下させてもいる。

3. 韓国では文在寅大統領が、やや前のめり気味に対北外交に取り組んでいる。今週は韓国大統領として3人目の訪朝を果たした。

▶ 5月には8割を超えていた文在寅政権の支持率は、ここへ来て5割を割り込むほど悪化している。公約通り最低賃金を「2年間で3割」も上げたところ、案の定、経済の現場が混乱している1平壌行きは、ナショナリズムを喚起して人気回復を、との狙いがありそうだ。しかし韓国政治の動きの速さから考えると、 再び民意が戻ってくるとは考えにくいのではないか。

▶ 今週の”The Economist”誌がこの間の事情を冷ややかに描いているので、本号のp7に抄訳を掲載しておいた。同記事のポイントは、「韓国国内に、増税を受け入れてでも南北統一を」という機運がほとんど存在しないこと。北朝鮮経済の建設資金をどこから得るのか、という目途がついていない。

●日朝関係の思考実験をしてみると…

かくして今週で「3-2-1-0」は「3-3-1-0」に進化した。とはいえ、それで日本国内が焦りを感じているかといえば、答えはノーであろう。いくら金正恩の外交的な露出が増えたからと言って、それで「北朝鮮が変わった」と信じる人はほとんど見当たらない。

逆に韓国側には、一足飛びに北朝鮮の経済建設にジャパンマネーを期待する向きがある。しかるに日本側としては、「馬鹿も休み休み言ってほしい」ということになる。なにしろ北朝鮮の非核化はまだ始まってもいないし、日朝間には拉致問題も横たわっている。なおかつ、国連制裁が解除されたわけでもないのである。

それでも以下の説明が難しいところなのであるが、北朝鮮が完全に非核化し、拉致問題にも納得のゆくような解決が得られるのであれば、いつかは「日朝国交正常化を」という日が来るだろう。その場合は1965年の日韓基本条約において、韓国向けに無償3億ドル、 有償2億ドル(円借款)の資金協力をしたときと同等の措置が取られるべきであろう2。そうなったときに、日本国内の反論はあまり多くないのではないかと思うのである。

2002年9月17日の平壌宣言では、以下のように具体的に書かれている3

双方は、日本側が朝鮮民主主義人民共和国側に対して、国交正常化の後、双方が適切と考える期間にわたり、無償資金協力、低金利の長期借款供与及び国際機関を通じた人道主義的支援等の経済協力を実施し、また、民間経済活動を支援する見地から国際協力銀行等による融資、 信用供与等が実施されることが、この宣言の精神に合致するとの基本認識の下、国交正常化交渉において、経済協力の具体的な規模と内容を誠実に協議することとした。

その後、北朝鮮側は「ミサイル発射のモラトリアムを2003年以降もさらに延長していく」という上記の宣言を破っているから、あんなものは死文化している、と言い張ることもできよう。とはいえ、金正日委員長がサインした同文書は、北朝鮮側はけっして無視できないはずである(もちろんその息子である金正恩も!)。

1960年代の対韓円借款は、鉄道設備改良事業、浦項製鉄所の建設、さらには医療、教育、 上下水道などのインフラ投資にも使われ、韓国経済の建設に資することになった。同様なことが北朝鮮に対して行われる可能性も、いずれは検討の必要が生じることだろう。

ちなみに戦後賠償を考える際には、「対韓国モデル」よりも「対中国モデル」(対中円借款方式)の方が適している、との指摘もある。これは荒木光弥・国際開発ジャーナル主幹が言っていることで、北朝鮮は中国の後ろ盾を必要としているし、同じ政治体制(一党独裁)であるし、中朝国境の向こう側には朝鮮族が多く住んでいるから、と言う4。つまり 北朝鮮は、「韓国よりも中国の成功を見習う方が賢明だ」というわけである。

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