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AIJ、消えた年金〜「無策な政治」が招いた「必然」

社会保障と税の一体改革が注目される中、年金運用に関わる不祥事が発覚した。

「国内独立系の投資顧問会社、AIJ投資顧問が企業年金から運用受託していた約2000億円の大部分が消失していることが証券取引等監視委員会の検査でわかった。金融庁は24日、AIJが長期にわたって高い運用収益を上げているとの虚偽の情報を顧客に伝え、実態を隠していた疑いがあるとして1ヶ月の業務停止命令を出した。

AIJは02年ごろに本格運用を始めた。株価指数のオプションの売りなどで、相場変動に左右されずに安定して高い収益を上げる「絶対収益」の獲得を目指す運用戦略を掲げ、受託資産を急速に増やしてきた。同社の開示資料などによると、11年9月末時点で124の企業年金から1984億円の資産を受託していた。企業年金の運用会社としては大手に次ぐ規模」。

年金資産は将来の年金給付の原資である。国の試算で使われている4.5%という運用利回りに基づけば、今回失われたとされている2000億円という資産は、10年後の3106億円、20年後では4823億円の年金給付資金が失われたということである。

マスコミはチェック体制の甘さ等を大きく取り上げているが、今回の問題を、AIJの固有の問題やAIJに運用委託していた年金基金のチェックの甘さで片付けてしまってはいけない。

問題は、何故多くの年金基金がAIJの示す「負け無し」などいう、素人でも疑うような実績を信じ込み、大手に次ぐ規模になるまで資金を委託して行ったかである。少なくとも、業界の中ではオリンパスの財テクと同様、AIJが長期にわたって高い運用収益を上げていることに対して数年前から疑いの目は向けられており、こうしたことが起きうることは十分「想定内」、「時間の問題」だと考えられていた。

それにも拘らず、年金基金がこうした運用に手を出してしまうのには、それなりの背景がある。

まずは年金基金に求められている運用利回りが、必ずしも高いとはいえないものの現実の経済に対して高すぎること。そしてその中で、年金基金は会計上の制約(財政検証)から実質的に単年度運用を強いられており、基金の存続のためにも目先の収益を追求せざるを得ない状況に追い込まれていたことである。

投資元本の安全性を優先し、利回りが1%前後の国債や生保の一般勘定に資金を置いておくだけでは必要な運用利回りを確保できず、将来の給付金が足りなくなってしまう。従って、年金基金は何かしらのリスクを取って運用せざるを得ない状況に置かれている。

以前は、国債を中心とした国内債券投資で足りない収益を補う役割を、日本株を中心とした株式が担ってきた。しかし、日本株は日経平均で2006年度末の 17,287円から昨年度末で9,755円へ大幅下落、為替は2006年度末の118円07銭から昨年度末は82円88銭へと大幅円高となり、収益の源泉になるどころか年金運用の足を引っ張る主役となってしまった。

こうした市場動向を反映して、年金基金は国内株式への配分を減らし(2006年度の28.04%から2010年度は18.9%:企業年金連合会調べ)、国内債券への配分を高める(2006年度の21.8%から2010年度は26.8%:同)と同時に、価格変動リスクが小さく、元本の安全性が高く一定の収益が見込めるように見えるヘッジ・ファンドなどオルタナティブ投資に頼る傾向を強めて来ている。

こうした状況の中、AIJはオプションなどデリバティブを駆使して毎年8%前後の収益を上げたという(虚偽の)実績を売り物に、年金運用分野で大手に次ぐ規模までのし上がっていった。

本来であれば、投資内容が非公開に近い商品に投資するのは考え難いことである。しかし、それが現実に起こってしまったということは、それだけ日本の年金運用が危機的な状況にあるということの証左である。

今回のAIJ問題の根底には、日本の年金制度が「穏やかなインフレと安定した経済成長を前提」に構築されている中、長期間にわたって歴代政府が円高及びデフレ経済を放置するという「政治的無策」があることを見逃してはならない。

「穏やかなインフレと安定した経済成長を前提」とした日本の年金が、存続の難しい出口の見えないデフレのなかで、「財政検証」に抵触しないような安定した収益の確保を迫られたら…。「負け無し」などいう、素人でも疑うような実績にすがろうとする年金が出て来たとしても不思議ではない。

自見金融相は、AIJが業務停止命令を受けたことに関して、「監督当局としても早急に投資一任業者263社に対する一斉調査を実施することとしたい」と述べた。確かにAIJの様な悪質な投資一任業者を排除することは監督当局として重要な責務である。

しかし、投資一任業者263社に対する一斉調査は根本的な問題解決策ではない。

根本的な解決策は、「穏やかなインフレと安定した経済成長を前提」とした日本の年金制度が存続できる経済環境を作り出すことである。こうした経済環境が整っていれば、多くの年金基金が、AIJの示す「負け無し」などいう、素人でも疑うような実績にすがり、投資内容が非公開に近いAIJに多額の資産を委託するような愚行に走ることは防げたはずである。

今回のAIJの「消えた年金問題」の本質は、日本の年金制度が「穏やかなインフレと安定した経済成長」を前提に構築されている中で、歴代内閣が長年「円高」と「デフレ」を放置して来た「政治的無策」にある。

国民が注意しなくてはならないことは、「財政再建原理主義」に凝り固まった野田内閣が、「政治的無策」を棚に上げ、AIJの問題を「現在の賦課方式の限界を示したもので、消費増税が不可避である」というような十八番の「議論のすり替え」に走らないよう監視することである。

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