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自民総裁選―「冷や飯」威圧は歪んだ出世欲から

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 自民党総裁選で安倍晋三首相が三選を果たしました。当初から勝敗が分かっていた総裁選において、にわかに注目を集めたのが「冷や飯論争」です。石破支持の議員等を「干してやる」「冷や飯を食わせる」という首相周辺の発言がたびたび報道され、石破氏は「いろんな意見があるのは当たり前だ」「そんな自民党であってほしくない」「同志をさげすむ党であってはならない」と反発してきました。

 (関連記事は宮崎タケシのブログ https://ameblo.jp/miyazaki-takeshi-gunma/ )

また、石破派の斎藤健農水相が集会で、安倍陣営の議員から「大臣の辞表を書け」と迫られ、「ふざけるな。石破派と分かっていて大臣にしたのだから、辞めさせたければクビを切れ」と反論したことを披露。これに対し、麻生氏が演説で「冷や飯食うぐらいの覚悟を持って当たり前。覚悟のない人に国のかじ取りは任せられない」と反論したことも注目を集めました。

 首相が公開討論に後ろ向き、かつ、北海道地震などの災害も重なって政策論争の機会が少ない中、最大の盛り上がりを見せたのが「冷や飯論争」でした。

 たしかに政治の世界では、負けた方が干される、冷や飯を食わされるのは普通のことではあります。私など、民主党・民進党の代表選では大抵は負ける側(特に馬淵陣営、最初の玉木陣営など大敗する側)に身を置いており、さらには「最後の一兵となっても戦う!」などと息巻いていたので、党内では延々と冷や飯を食べ続けてきました。

民進党の時にはあの辻元清美さんから、なんと「宮崎さんは『明るい反主流』やから、私は好きなんやけどなぁ」なんて言われたこともあります。おそらく「正面から噛みついてくるだけで、陰で足を引っ張るような陰湿さがないから、さっぱりしていて私は嫌いじゃない(嫌いな人もいるけど)」という趣旨の、お褒めの言葉だったのでしょう。

とはいえ、「私は主流派、あんたは反主流派」という前提があるのは自明ですから、「あれれ。世間から反主流のシンボルみたいに見られている辻元さんから『反主流』の烙印を押されちゃったぞ?」などと、諸行無常を感じたものです。「私が初当選した時、辻元さんはまだ社民党だったのに、今やわが党の主流なんだなあ」なんて。

閑話休題。冷や飯当たり前の世界ではあるのですが、とはいえ今回の総裁選で「干す」だの「冷や飯」だの言う話が公然と飛び交ったのには、さすがに違和感を覚えました。普通なら、あくまで水面下でこっそり飛び交う話です。とりわけ干す側の人間が、公の場で「干されて当然。冷や飯は当たり前。その覚悟はないのか」などと演説するのは、あまりに下品というものです。

麻生氏本人はかつて安倍氏に総裁選で負けて安倍内閣の外務大臣に就任し、福田康夫氏に総裁選で負けて福田康夫内閣の党幹事長に就任しているのですから、「冷や飯を食う覚悟が足りん」などという放言は、天に唾することにもなりましょう。

どうも麻生氏は「本音で発言するオレ、格好いい」という勘違いをしている気がしてなりません。歯に衣きせぬ発言をするミュージシャンや、タブーに切り込む作家が格好良いのは、彼らがリスクを負って真実を表現しようとしているからです。優越的な立場からノーリスクで「干されて当たり前だ」なんて威圧するのでは、格好いいどころか、そこらのパワハラ上司と変わりません。

麻生氏の勘違いよりもさらに深刻なのは、安倍政権の長期化につれ、私が「功名が辻」現象と呼ぶ気持ち悪い風潮が加速していることです。この言葉は、大河ドラマ「功名が辻」(司馬遼太郎原作)からの連想で私が考えた造語で、出世のため手柄を立てようと人々が汲々とするさまを表しています。多選市長をトップに戴くある市役所を取材していた時、先輩記者が「やれやれ、功名が辻だな」とぼやいていた時に思いつきました。

当時は市町村合併が盛んで、某市では合併町村の議員全員が「市議」になりました。市議が100人を越え、本会議場に椅子が入りきらなくなったので、改装工事が必要になりました。カメラマンが工事の写真を撮ってきたので、私は短い記事を書き、「改装費は●百万円」(数字はうろ覚え)という文章で締めくくったと記憶しています。

すると、市長側近である市幹部から「この記事は市長攻撃のための悪意に満ちた偏向報道だ。謝罪と訂正を要求する!」と猛抗議を受けたのです。電話で怒鳴られて市長室に呼び出され、市長と総務部長の前で「側近」から詰問されることになったわけですが、正直なところ、言い訳するのもアホらしいという気分でした。

なにしろ、あくまで写真がメインで記事は添え物。事実を淡々と短く書いただけで、軽く“巨大議会”を揶揄してはいますが、悪意や偏向どころか批判記事ですらないのです。血気盛んな記者時代、批判記事に抗議を受けるのは慣れっこですが、さすがにここまで理不尽なものは初めてでした。

私があきれ顔で釈明すると、市長は怒っている様子でしたが私には何も言わず、かたわらの総務部長に「どう思う?」と聞きました。市長の信頼厚い腹心で、一般職のトップでもある総務部長は緊張した面持ちで「特に問題がある記事は感じません」と言い切りました。市長は拍子抜けした様子で「わかった。なかったことにしよう」と答えました。

当時、他の町で合併反対運動が起こったり、多選批判が予想される市長選を翌年に控えていて市長がナーバスになっていたのは事実ですが、それにしても異様な雰囲気でした。当時、似たようなトラブルが報道関係だけでなく各界各所で繰り返されていたように思います。市長の心中を忖度した側近たちが針小棒大に煽り立てていたのが、原因の一つでしょう。

市長本人は別として、取り巻きたちは記事に本気で怒っていたのではないのです。「こんな素晴らしい市長に悪意に満ちた偏向記事を書くなんて、酷い記者です。(政敵である)○○の手先ではないですか?私が怒鳴りつけてやります!」とおべんちゃらを言い、ご機嫌を取りるためにやっていたのです。その記事は「功名が辻」の手柄首として選ばれただけのこと。その抗議が正当だろうが言いがかりだろうが、市長にアピールするきっかけになれば、何でも良かったというわけです。

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