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「欧州のトランプ」は誕生するか スティーブ・バノン氏が来年の欧州議会選を控え、オルタナ右翼を支援

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スティーブ・バノン氏 Getty Images

「次なるトランプ」誕生を目指し欧州に拠点を移したバノン氏

[ブリュッセル、ロンドン発]ドナルド・トランプ米大統領を誕生させた陰の立役者、オルト・ライト(オルタナ右翼)の暗黒を広げるスティーブ・バノン氏(64)が「次なるトランプ」を欧州で誕生させるべく活動の拠点をブリュッセルに移した。反移民、反難民の世論を追い風に「右」の欧州連合(EU)懐疑派勢力を拡大させ、来年5月の欧州議会選(定数751)で3分の1の議席獲得を目指している。

欧州議会(今年8月、ブリュッセルで筆者撮影)

今年5月、ハンガリーの首都ブダペストで「欧州の未来」と題した中欧4カ国のヴィシェグラード・グループ(V4)の会議が2日間にわたって行われた。議長国ハンガリーとポーランド、チェコ、スロバキアは難民の受け入れを巡ってドイツ、フランスと激しく対立している。その旗頭がハンガリーのオルバン・ビクトル首相だ。

国家主義者のオルバン首相は、100万人を超える難民がEU域内になだれ込んだ2015年の欧州難民危機の際、「国境防衛」の強化を声高に唱えた。セルビアとクロアチアとの国境に高さ4メートルの有刺鉄線フェンスを523キロメートルにわたって張り巡らした。門戸を開放したドイツのアンゲラ・メルケル首相を非難し、難民を「ムスリム(イスラム教徒)の侵略者だ」と呼んで排斥した。

会議の初日、ハンガリー首相府長官に続いてバノン氏が登壇し、「トランプの米国第一と中欧に与えるインパクト」をテーマに講演した。バノン氏は「トランプ大統領就任1年目の最も重要なスピーチ」としてトランプ大統領が昨年7月、ワルシャワで行った演説の一節を紹介した。

「我々の時代における根源的な問いは、西洋が生き残る意思を持っているか否かだ。我々は、いかなる代償を払っても西洋の価値を守り抜く決意を持っているのか。我々は、国民のために国境を守るという十分な敬意を払っているのか」

「西洋文明を覆し、破壊しようとする者たちに立ち向かい、それを維持する欲望と勇気を我々は持っているのだろうか。トランプ大統領のワルシャワ演説の8カ月後、ハンガリー国民はその答えを出した。それがオルバン首相の圧勝だ。オルバン首相はトランプ大統領と同じようにその引き金を引いたのだ」

バノン氏はホワイトハウスの首席戦略官兼上級顧問を務めたあと、トランプ大統領と対立して昨年8月に解任された。そのとき「我々が戦い、そして勝利したトランプ大統領は終わった」と、トランプ大統領は怒れる白人の声を実現する大統領ではなくなったと米国での挫折を認めた。

反移民・反難民やEUへの懐疑を唱える政治勢力が伸長

その直前に行われたワルシャワ演説には「衰退する西洋の反撃」とも言うべきバノン氏のどす黒い思想が色濃く反映されている。「高度経済成長を遂げた中国が大量の白人労働者を失業に追い込んだ」「ムスリムが西洋の文化と伝統を破壊する」という危険思想をまき散らす。

工場での仕事を失い、低賃金で働かされる白人労働者階級の怒りやノスタルジーに浸る白人高齢者の不安をあおり、メキシコ系やイスラム系移民への嫌悪に火を放つ。グローバリゼーションを敵視し、ネオリベラリズム(新自由主義)を推進した民主党のバラク・オバマ前大統領やヒラリー・クリントン前大統領候補のような白人男性ではない新興エリートたち、そしてリベラルに肩入れするメディアを攻撃する。

「オールド・ホワイト」たちの過去の栄光を象徴するトランプ大統領を誕生させたのと同じ、社会と時代から取り残された白人たちの怒りのガスは欧州全体にも充満している。攻撃対象はイスラム系移民、難民、EUであり、グローバリゼーションの最後の守護者であるメルケル独首相とその後継者、フランスのエマニュエル・マクロン大統領だ。反移民・反難民やEUへの懐疑を唱える政治勢力の伸長ぶりを見ておこう。

昨年3月、オランダ総選挙 自由党13.1%(前回10.1%)
4~5月、フランス大統領選 ルペンとメランション計40.9%(前回29%)
9月、ドイツ総選挙 ドイツのための選択肢12.6%(前回4.7%)
今年3月、イタリア総選挙 五つ星運動と同盟計50%(前回29.7%)
4月、ハンガリー総選挙 オルバン率いるフィデス・キリスト教民主国民党49.3%(前回44.9%)
6月、スロベニア国民議会選 オルバンと連携する民主党24%(前回20.7%)
9月、スウェーデン議会選 スウェーデン民主党17.5%(前回12.9%)

国民連合(旧国民戦線)のマリーヌ・ルペン党首(昨年3月、筆者撮影)

バノン氏はオルト・ライトのニュースサイト「ブライトバート」の会長時代にロンドンの政治コンサルティング会社ケンブリッジ・アナリティカ(以下CA、廃業)の最高経営責任者と会い、米投資家ロバート・マーサー氏にCA創設のため投資するよう助言している。CAはトランプ大統領を当選させるためフェイスブックを通じて不正に入手したユーザー5000万人分のデータをフル活用した。

UKIPのナイジェル・ファラージ元党首(今年3月、筆者撮影)

マーサー氏は英国のEU離脱を主導した英国独立党(UKIP)のナイジェル・ファラージ元党首とも近い。CAのカナダ関連会社が16年の英国のEU国民投票で離脱派キャンペーン団体に関係していたこともあぶり出されている。オルト・ライトの危険思想と謀略は衰退する西洋国家にクモの巣のように張り巡らされている。

来年3月に英国のEU離脱を控え、白人優越思想や国家主義の怨念とメディアへの不信感がマグマのように欧州大陸の地下に渦巻いている。オルト・ライトの広がりを食い止める防波堤の役割を担うのはメディアだが、その信頼度は欧州でも著しく低下している。


米シンクタンク、ピュー研究所が今年5月に発表した調査では、ニュースメディアを信頼しているのはイタリアで29%、スペインで31%、英国で32%、フランスで35%にとどまっている。リベラルなメディアを「フェイク(偽)ニュース」と攻撃するのはオルト・ライトの常套手段であり、バノンの一番得意とするところだろう。

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