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「赤ちゃんポスト」が浮き彫りにする追い詰められた女性たち 『なぜ、わが子を棄てるのか』山室桃氏インタビュー - 本多カツヒロ (ライター)

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 11年前、熊本市の慈恵病院に設置された「こうのとりのゆりかご」、いわゆる「赤ちゃんポスト」は大変な議論を巻き起こした。赤ちゃんポストは、中絶や育児放棄、児童遺棄から子どもたちを守るため、罪に問われることなく赤ちゃんを「棄てる」ことができる施設だ。現在も設置されている赤ちゃんポストは、この10年間で何が変わり、変わらなかったのか。設置当初から継続的に取材を続け、『なぜ、わが子を棄てるのか  「赤ちゃんポスト」10年の真実』(NHK出版新書)の著者の一人である元NHK横浜放送局放送部記者の山室桃氏に話を聞いた。

――2007年に熊本県の慈恵病院に赤ちゃんポストが設置され、大きな議論が巻き起こりました。しかしながら、現在もその存在に注目している人というのは正直少ないと思います。

山室:NHKへ入局した最初の赴任地が熊本で、ちょうどその年に赤ちゃんポストが設置されました。それ以来、異動になっても取材を続け、設置された5月の節目には、毎年ニュースや特集番組で取り上げていますが、視聴者の方からは「そんなのあったね」「本当に預けている人がいるの?」という反応もあり、年々、世の中から忘れ去られているのを感じます。

 実際に預けられた赤ちゃんの数にもそれは表れていて、一番多い年には、1年間に20人を超えましたが、それ以降は年間10人前後と減少傾向にあります。報道で伝える機会も減ったので、存在を知らない人も増えたのではないでしょうか。

 私自身は、賛成、反対、どちらの立場でもありませんし、推奨しているわけでもありませんが、この11年で137人の赤ちゃんが預けられ、命が救われたのは事実です。

 慈恵病院はカトリックの宣教師が創設した民間病院で、キリスト教の理念に基づき、全国でただ1箇所、赤ちゃんポストを言うなれば「勝手に」設置しているわけです。これに対し、国が積極的に関与しない立場を貫いているのには、実際にこれだけの命が救われていることを考えると無責任に思えてなりません。

 他にも虐待や妊娠、男性の無責任さ、養子縁組制度など、実に社会のさまざまな問題を象徴しているのが、赤ちゃんポストという存在です。

――預けられる赤ちゃんの数は減ったということですが、10年間の取材を通して変わったこと、変わらなかったことは?

山室:まず、変わっていないこととして「匿名性」があげられます。赤ちゃんポストが設置された当初から、匿名で預けることに関して賛否両論ありましたが、現在もそれは変わっていません。病院側は、「誰にも出産したことを知られたくなくて、わざわざ熊本まで預けに来るのに、実名にしたら来なくなって救える命が救えなくなる」と主張しています。

 一方、預けられた赤ちゃんが成長した時に、赤ちゃんポストに預けられていたことや、養子縁組を結んだ育ての親が生みの親ではないことを知る時が必ず来ます。熊本市の検証部会は、その時にどう子どもたちに伝えるのかが問題だと指摘しています。ですから、預ける際には、匿名でも構わないが、できるだけ生みの親を辿れるような仕組みをつくるべきだと同部会は提言しています。

『なぜ、わが子を棄てるのか―「赤ちゃんポスト」10年の真実』(NHK取材班、NHK出版)

山室:赤ちゃんポストの扉は二重構造になっていて、外側の扉を開けると両親宛の一通の手紙があり、それを受け取らないと内側の保育器が設置されている扉が開かない構造になっています。検証部会の指摘を受け、病院側は手紙に「いつでも相談に応じるので連絡してほしい」「赤ちゃんを預け入れたあと、気持ちが変わったら連絡してほしい」などその文面に赤ちゃんポストに預けるという選択だけでなく、里親制度や養子縁組という制度もあることとを記すといった工夫もしています。

 取材を通して感じるのは、赤ちゃんの生命は救われていますが、誰にも相談できず、匿名で預けざるを得なかった親たちにまで支援の手が届いていないということです。預けた理由は身勝手なものだったかもしれない。でも、子供を手放す以外にほかの方法が本当になかったのか、とその後も葛藤し続けると思うのです。そうした親たちが赤ちゃんポストに駆け込む前に、悩みを打ち明け、一緒になって解決方法を探ることができるセーフティネットが日本には欠けていると思います。

――赤ちゃんポストに生後間もない子どもを預けざるを得なかった人たちの事情は、この10年で変化したのでしょうか?

山室:子供を預けた事情は一貫して変わっていません。たとえば、不倫や若年妊娠、貧困、出産した途端に男性が逃げてしまい育てられなくなったなどです。つまり、出産しても経済的に子どもを育てられないし、不倫や若年妊娠に関しては、妊娠していること自体をまわりに知られたくないといった事情があります。これは、熊本市が赤ちゃんポストに預けられ、身元が判明したケースについて検証し明るみになりました。

 ただ、なかには親の保身のために預けたとみられる実に身勝手なケースも少なくありません。たとえば、取材の中で明らかになったのは、教師同士の不倫の末、職員会議で赤ちゃんポストに預ければいいんじゃないかと薦められたケース。現役の医師や社会福祉士が預けたケースなどです。このほか、「留学したいから」「仕事に復帰したいが保育所が見つからない」といった理由の預け入れもありました。検証部会は、赤ちゃんポストの存在が、罪に問われず出産そのものをなかったことにしたい、という身勝手な親たちの行動を助長しているおそれもあると指摘しています。

 前者の貧困や若年妊娠などに関しては、妊娠や子育ての悩みに対応する支援の情報が本当に必要な人たちに届いていないのが浮き彫りになっているのではないでしょうか。背景には、そうした人たちのなかには、税金を収めていないために、自治体へ相談に行ったり、生活保護を受給するのを躊躇したり、そもそも支援の情報へアクセスできないことも考えられます。そうした人たちにとって、赤ちゃんポストは“最後の砦”になっているとも言えます。一方で10年経ってもそうした境遇の彼女たちを社会が救えていないのが現実です。

――税金を収めることが出来ないくらい困窮しているということでもあると思うのですが、そういった人たちは、公的な支援を受けていないのでしょうか?

山室:そもそも妊娠時から、身の回りにいる人にさえ知られたくない事情がある。公的機関である児童相談所(以下、児相)に名前を知られたくないのは尚更で、相談しません。それどころか、産婦人科にも行かず、妊婦健診すら受けず、まわりにバレないようにこっそりと自宅でひとりで出産したケースも少なくありません。取材中にもそうした女性たちに話を聞きました。特に若年妊娠では、親や学校に気づかれないよう、妊娠中にお腹が大きくなってもダボっとした服を着て、「最近太ってしまった」と周囲にうそをつく。出産したことさえも親がまったく気づかなかったというケースも聞きました。

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