記事

LINEで部下をうつ病にする上司 - 吉田典史 (ジャーナリスト・記者・ライター)

 今回は、解雇や退職強要、パワハラやセクハラなどの労働問題や自殺(自死)などを専門に扱う弁護士の和泉貴士さんに取材を試みた。和泉さんは「まちだ・さがみ総合法律事務所」(東京都町田市)に勤務し、日本労働弁護団や自由法曹団などに所属している。

 多くの会社員から受ける相談から和泉さんが感じ取った「使えない上司・使えない部下」とは…。

(MatiasEnElMundo/Gettyimages)

バーチャルな空間だから、パワハラが際限なくエスカレートする

弁護士の和泉貴士さん

 私が受ける法律相談の中で労働事件に関するものでは、最近はLINE(ライン)によるパワハラが増えています。ある中小企業では、社長と社員たちがLINEで1つのグループをつくっていました。社長はふだんは営業などで職場にいないことが多く、夜になると、LINEを通じて社員たちに仕事の指示や命令をします。社員は、それにできるだけ早く答えなければいけないのです。

 社長はミスをした社員を叱ったり、「なぜ、このようなことをしたのか?」と詰めたりします。社長に叱責された社員が謝るのを見て、同僚や部下も次々と反省のメッセージを投稿します。1〜2時間の間に、トーク履歴上に「申し訳ありません」の文字がずらりと並びます。

 ここには、一種の群集心理が働いているのかもしれません。私のもとへ相談に訪れた社員から、社長が書いた叱責とそれに答えるやりとりを見せてもらいました。それらは、社長の部下への言葉による暴力と呼べるものでした。相談者の社員は社長から常に監視されているようで、精神的につらいと話します。実際、うつ病になっていました。
 
 デジタル化が進み、様々な意味で便利になっている一方で、終業時間以降も仕事から解放されない苦しみを抱え込む会社員が現れています。このような問題が生じるのは、会社の規模や業種よりは、社風や風土などの影響によるほうが大きいように思います。

 会社や部署の仕事をする仕組みやシステムが十分にできていない場合もあります。特に目立つのは、社長や役員、管理職などが取引先や営業先を飛びまわるために、部下と直接向かい合い、指示や命令がきちんとできない職場です。

 上司は外出先からLINEを通じて突然、部下に指示をして、叱りつけます。「どうしてできないのか?」などと詰めて、怒鳴りつけた後、台風のように消えていくのです。このタイプの上司は仕事の細部にまで監視をしていないと気がすまないようで、必要以上に詳細な指示をしています。それに従うのが、「使える部下」と思われているのだそうです。

 彼らがLINEを頻繁に使い、指示・命令をするのは、あの独特のスピード感を気に入っているからなのかもしれません。メールのようにあいさつ文を書く必要がなく、部下が読んだか否かもわかるわけですから…。双方のやりとりも残ります。こういう上司も、部下とじかに向かい合うときにはここまで叱りつけ、詰めることはしていないのかもしれません。ある意味でバーチャルな空間だから、パワハラが際限なくエスカレートする可能性があると私は思っています。

 パワハラは、LINEなどが普及するはるか前から行われています。もともと、上司と部下の1対1のときのように密室性のあるところで行われることが多いのです。ほかに見られていないという思いもあり、言動が過激になる傾向があります。

 LINEグループは通常はメンバーが見ることもあるはずなのですが、バーチャルであるがゆえに、上司は「1対1の密室」と思い込んでしまうのだと思います。ところが、メンバーはやりとりを見ています。誰かが、止めるわけでもありません。ここに、LINEによるパワハラの怖さがあります。

 言葉による暴力だけでなく、長時間労働などが組み合わされます。パワハラで苦しみ、精神疾患になり、死にいたる人がいるのですから、本来はもっと厳しい目が向けられるべきなのです。 

自由で、柔軟な働き方には、実は危険性がはらんでいる

 パワハラをする上司は、主に2つのパターンにわけられます。1つは、その上司の人格などによるもの。もう1つは、仕事やプロジェクトに予算や時間などの面で無理がある場合などです。社長や役員がこういう問題を感じ取り、未然に防ぐことが必要なのですが、実際はそのようなことが行われていないのです。

 私が気になるのは、パワハラをする上司の中には、「会社や部署のために」「(部下である)お前のために」と言いながら、何かの理由やきっかけで一線を越えてしまっている人がいることです。たとえば、自らの昇格が遅れていたり、プライベートで問題を抱え込んでいたり、学歴や職歴などで強い劣等感をもっていて、それらを解消しようと部下を責めたてているのではないか、と思うのです。最近は、このタイプが増えているようにも感じます。

 朝や夜の通勤時にスマホやタブレットなどで何かのやりとりをしている会社員をよく見かけます。上司や部下、取引先などと連絡をとったりしている人もいるはずです。実は、それは「準労働時間」と呼べるものであり、私の造語で言えば、「裏労働時間」と言えます。事実上、上司から部下への指揮命令があり、それに応じて働いているのですから…。これは、「サービス残業」になりかねないのです。そのことを心得ないまま、双方がやりとりをしているのではないかと思うのです。

 最近、「働き方改革」のもと、在宅勤務やコワーキング、フレックスタイム制、裁量労働制の導入が進んでいます。労働時間や勤務場所などが自由に、柔軟になることは好ましいのですが、そのことへの警戒心が会社員にあまりないのではなないでしょうか。たとえば、裁量労働制のもと、うつ病などの精神疾患になり、過労自死をしたり、長時間労働のために過労死になる人がいます。

 自由で、柔軟な働き方には、実は危険性がはらんでいます。会社がこのような働き方を進めるならば、会社員に負担がかからないために何らかの歯止めが必要なのですが、それができていないのです。特にパワハラは、人の命を奪うことがありうるのですから、もっと注意を払うべきなのだと私は思っています。

あわせて読みたい

「上司」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    話題のSIMなしスマホが技適通過

    S-MAX

  2. 2

    日本より徹底 北の韓国無視戦術

    高英起

  3. 3

    未だに処理水批判する韓国の悲愴

    自由人

  4. 4

    大人の3割に「愛着障害」の傾向

    幻冬舎plus

  5. 5

    大谷がヒザ手術 二刀流は無理か

    幻冬舎plus

  6. 6

    君が代独唱 平原綾香に称賛の声

    女性自身

  7. 7

    山本太郎氏を直撃 極左との関係

    文春オンライン

  8. 8

    米国識者 GSOMIA破棄は「自害」

    高英起

  9. 9

    少年マガジンからグラビア奪うな

    倉持由香

  10. 10

    山本太郎氏は知事選出馬をするな

    早川忠孝

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。