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水を注ぐこと自体は必要ですが

「派遣切り」直接雇用義務を迎える3年で続々と…「身分が不安定に」「誰のための法改正なのか」切実な声(弁護士ドットコム)

労働者派遣法改正から10月で3年を迎えるのを前に、研究者や法律実務家などでつくる「非正規労働者の権利実現全国会議」は8月31日、東京・霞が関の厚生労働省記者クラブで記者会見を開き、派遣労働者を対象に実施したアンケートの調査結果や、寄せられたネットでの相談事例を報告した。3年で「直接雇用」という改正後のルールにより、派遣労働者が直接雇用されるのではなく、「派遣切り」にあっている実態が浮き彫りになった。

 器に水を貯めるには、器に水を注ぐことと、器の穴をふさぐことが必要です。ところが器の穴を開けたまま水を注げば、当たり前のことですが器に水は貯まりません。この派遣労働者を対象とした直接雇用義務は典型例で、水を注ぐことを義務づけるようでいて底に開いた穴には何の規定もないため、当初に掲げた目的を達するにはほど遠い結果となっているわけです。

 今からでも穴をふさぐべく企業活動への規制が求められるところですが、一方で良い結果が出ていないことを大義名分として水を注ぐことまでをすら否定しようとする論者も少なくありません。あたかも労働者の味方を装いつつ、その実は旧態依然とした実質無規制の労働者派遣法を堅持しようとする人も珍しくないと言えます。

 実のところ非正規労働者の中には主たる家計の担い手もいれば、あくまで補助的に働く人もいるわけです。主たる家計の担い手は、当然ながら雇用の安定や一定の昇給を必要とします。一方で補助的に――旦那の稼ぎを補完するべくほどほどに――働く人もいて、そうした人々は「永遠に非正規で」働くことに抵抗がなかったりします。

 この非正規社員の直接雇用を義務づける法改正が「誰のため」であるかと問うなら、雇用の安定を必要とする主たる家計の担い手のためであると言えます。ところが非正規社員の中には相当数の「家計の補助として」働く人もいるもので、そうした非正規のまま働きたい人の声を、あたかも非正規社員の代表であるかのごとく扱いたがる人もいるのではないでしょうか。

 冒頭の引用も然りで、引用元の終盤には「アンケートに寄せられた派遣労働者の声からは、改正法に対する強い不満がうかがえる」と称して5つほど回答結果が紹介されているのですが、その内訳は(40代・女性)が4件と(50代・女性)が1件でした。確かに女性の方が非正規雇用の割合が高い現実もありますけれど、ピックアップされた「声」に偏りはないですかね?

 この引用元で「改正法に対する強い不満」を伝えられている(40代・女性)と(50代・女性)の内、いったい何人が主たる家計の担い手なのか、そこに私は興味があります。もし(40代・女性)と(50代・女性)がいずれも既婚者で夫に安定した収入があるなら、その声は無視してもいい、少なくとも優先して対処すべきものではないでしょう。

 自身の収入で家計を担う非正規労働者の失職と、夫の収入で暮らす主婦のパート雇用が打ち切りになった場合、その深刻さの度合いは全くの別次元です。率直に言えば後者の雇用が不安定になったとしても、前者の雇用が多少なりとも安定するなら、それは望ましい法改正であると判断できます。

 実際のところ、現行制度は底の穴を塞がないまま水を注いでいるに過ぎません。ここは早急に規制を設ける必要があるでしょう。ただ法改正の意図したところまでをも否定しようとする言説には、疑ってかかる必要があると思います。あたかも労働者の味方を装うようでいて、その実は雇用主の自由のために印象操作を繰り返している人も少なくありませんから。

・・・・・

直接雇用できない理由として、ある相談者は会社から「予算がないから」と言われたそうだ。小野弁護士は「企業が派遣会社に紹介料や手数料を取られてしまうためだ」と話した。

 なお本筋から少し外れますが、引用元には上記のようなことも書かれていました。派遣社員を派遣社員として雇うには、派遣社員の給与の5割増しぐらいの金額を派遣会社に支払い続けなければならないわけです。派遣会社にマージンを取られるのを漫然と受け入れてきた雇用主が、「派遣会社に紹介料や手数料を取られてしまう」ことを厭うのも、まぁ詭弁としか言えませんね。

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